ゴブリン
ゴブリンが来た。
そう叫んだのは村の狩人ジャナフだった。
皆、柵に近寄りジャナフの指差す方角を見る。
居たが、まだ距離は遠く小さくしか見えない。
叡嗣は、目に意識を集中させる。
すると、一気に視点がズームアップされ、ゴブリン達がよく見えるようになった。
スキル【鷹の目】。
遠くまでよく見えるようになるスキルだ。視力がよくなるというよりも、目が望遠レンズになってズームアップできるようになる、といったほうが効果がわかりやすいかもしれない。
「…………ギークさん、かなり居るように見えるんですが」
「ええ、100匹くらい居ますね」
叡嗣はとなりに居るギークに言う。
見える範囲では、ただの棍棒を持ったゴブリンが多いが、チラホラと狼に乗ったゴブリンや、他と比べ大きいゴブリン、粗末な革の鎧を来た剣持ちのゴブリンが居た。
「騎兵に、戦士、それにホブですか……もしかしたら将軍クラスのゴブリンが居るかもしれませんね」
ギークは少し予想外だったという表情をしながらそう考察した。
騎兵、戦士、ホブ。どれも通常のゴブリンより強力であり、ホブゴブリンに関しては普通の状態でもゴブリン戦士2体分ほどの強さを持つ。それが複数体。
「これは、まずいかもしれません」
そう言い、ギークは柵から離れ、村人の1人になにかを言うと叡嗣のところに戻ってきた。
チラリと叡嗣が村人の方を見れば、慌てた様子で村の中心に駆けていく。
「あちゃー、こりゃ貧乏クジ引いたかね。逃げていいかい、俺」
「駄目に決まってるでしょ、バカ」
「だよなぁ、報酬貰っちまってるし……まあ、生きてたら儲けモンって感じだな」
「逃げていただいても構いませんよ?」
「バカ言わんでくれ、ギークさん。ここで逃げちゃ、俺の格が下がるわ」
思わずと言った感じで呟いたガイにカミラがチョップをした。
軽口を叩いてはいるが、少しだけガイからの緊張が見て取れる。
それだけ、ゴブリンの数が予想より多かったのだろう。余裕というものが、ガイから抜け落ちていた。
「アンタの格なんて大したもんじゃないでしょ」
「なにをっ!?ギルド期待の星だぞ、俺は」
「そんなこと言って何年経ってるのよ、まったく」
そんなことを言い合っている2人を見ているうちに、ゴブリンとの距離が100mほどに近付いていた。
緊張感がさらに1段階高まる。
ギークが、前に出て、そして口を開いた。
「村の皆さんには、馬車と馬で逃げてもらいました。ここには、我々しか居ません。村を守りましょう」
そんな、簡潔な言葉。
それを聞き、叡嗣は先程走っていった男性がゴブリンの数の多さとギークの考えを避難している村人に伝えたのだろうと予想する。
同時に、もう逃れることはできないのだと、戦うしかないのだと覚悟する。
叡嗣の、最初の戦いが始まる。
「『魔力よ応えよ 轟々と唸るは嵐の如く、切り裂くは鎌鼬の如く 敵を打ち払えよ』」
杖を掲げ、ギークが詠う。
緻密な紋様の魔法陣が現れ、それらが重なる。
叡嗣がそれに見惚れるているなか、
「『《嵐刃》』」
最後のその言葉と共に、魔法陣が紫に煌めき風の唸る音が聞こえた。
次の瞬間。
少し先に居たゴブリン。
その内の数体が身体を両断され、血を吹き出しその場で倒れる。
スプラッタなその光景に叡嗣は少し戸惑うが、今更躊躇するような暇は無い。
「行くぞ!」
掛け声と共に、ガイ達が柵を飛び越え、ゴブリンに向かって行った。
「グギグゲッ!!」
「るっせぇ!」
ガイは右手に持った剣を振るう。
これといって特徴のない、業物とは程遠い剣だが、ガイが長い時間使ってきたそれはその手によく馴染んでおり、ゴブリンに大きなダメージを与える。
「《強斬撃》!!」
「グゲロッ!」
ギークの言葉に呼応するように、上段に構えられた剣がオレンジに輝く。
オレンジの軌跡を残しながら振られたその剣は、ゴブリンを両断し、地面に打ち付けられる寸前でその勢いを無くした。
【剣術】スキルの武技《強斬撃》。
一撃のみ、剣の鋭利さを上げ、腕力を強化する【剣術】スキルの初歩的な技だ。
しかし、見た目的な派手さや動きの大きさも相まって、往々にして人間相手に使われることはない。
だが、相手がモンスターならば……その威力はご覧の通り、計り知れない。
剣を構え直し、ガイは周りにサッと視線を走らせる。
カミラとルシエラは柵の近くに陣取り、矢と魔法で牽制を行っている。
ローマンは錫杖の先端でゴブリンを突き、悶絶させそこを村人達が鍬で頭を砕いている。
なら、あの実戦経験が無いと言っていた奴は……と、ガイは叡嗣の姿を探す。
「っ!?」
そうして見つけた、叡嗣の周りには多数のゴブリンの死体が転がり、そしてそれを上回る数のゴブリン戦士が取り囲んでいた。
評価とかよろしくお願いしますm(_ _)m




