表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/26

筋肉は強し

 怒りに燃えるオスのニワトリ型モンスターを前にしながら、オレは変に冷静さを保っていた。リョウちゃんに不埒な真似をしていたせいで、オレの手に武器はないのにである。もちろん、リョウちゃんも武器を持っていない。

「リョウちゃん、オレが奴と戦い始めたら、武器を拾って援護してくれるか?」

「は、はい」

「その前に、おっぱい隠すの忘れないで」

「・・・」

 慌ててスポーツブラを元に戻すリョウちゃん。ちょっと、目付きが怖い。


「それと、出来たらで良いから、何か能力をゲットしといて。さっきのニワトリの魔力だけで、能力を取るのに十分足りるだろう?」

「どんな能力を取りますか?」

「とりあえず、筋力の強化ぐらいかな」

「パワーを上げろ、と?」

「いや。ゲームみたいにパワーとスピードを分けるんじゃなくて、単純に筋力を上げれば、両方ともアップする筈だろ? そうしたら、戦うのにも、移動するのにも、役に立つと思うからさ」


「分かりました。マコトさんは、どんな能力を?」

「オレは、着火の火力を上げる。奴を焼き鳥にしてやる」

 オスニワトリとガンの飛ばし合いをしながら、オレは左手の人差し指と中指に魔力を集めた。1体目のニワトリから分捕った魔力を使い、2本の指に改変を加える。

 イメージするのは、ガスバーナーだ。

 青い炎を噴き出す強力なガスバーナー。

「気をつけて下さい」

 リョウちゃんの嬉しいセリフを背に、オレは足を踏み出した。





 オレの接近に合わせて、オスニワトリの発する威圧感が濃密になる。メスより数段派手な頭の羽根飾りと尾羽が垂直に逆立ち、どういう理屈かカラカラと甲高い音を響かせ始めた。

 それでも、やはり恐怖らしい恐怖を感じない。

 反射神経を強化しているオレにとって、オスニワトリの攻撃をかわすだけなら、さして難しい事とは思えないのだ。注意する必要があるのは、羽根による範囲の広い攻撃ぐらいであろう。

「行くぞ!」

 正面から真っすぐに突撃をかけると、オスニワトリが羽根を左右に大きく広げる。


 左右から羽根でオレを包み込んで、動きを止めるつもりか。

 オレはオスニワトリの前で急停止すると、直角に飛んで、羽根の攻撃から逃れた。

「ゴゲゲゲッ!!」

 獲物を仕留め損ない、更に怒りを爆発させるオスニワトリ。その巨体には似合わない素早さで方向転換し、オレを追撃しようとする。

 が、小回りの利き具合は、オレの方が上だ。その時にはすでにオスニワトリの目前まで距離を詰め、その頭部に左手の人差し指と中指で狙いを付けていた。


「燃えろ!」

 ゴッという音を立て、オレの人差し指と中指の先端から炎が噴出する。

 噴き出した青い炎は30センチほどの距離を物ともせず、オスニワトリの顔面に真っ黒な焦げ目を刻み込んだ。

「ガァアアアアッ!!」

 炎で焼かれた驚愕とダメージに、オスニワトリがパニックを起こす。

 強化された炎は、モンスターを倒せる様な威力はないものの、けん制や目くらましには十分通用しそうな勢いだった。


 顔面の炎を消そうとオスニワトリがジタバタしているうちに、オレは落ちていたトンボの脚を拾い上げる。後は、ひたすらトンボの脚を打ち付けるだけだ。

 手にした武器を振り上げ、オレが突撃をかけようとした時。

 飛ぶ様な速さで走って来たリョウちゃんが、オスニワトリの首にトンボの脚を叩き込んだ。

 爆発的に舞い散る羽毛。そして、血飛沫。

 トンボの脚はオスニワトリの首を半ばまで断ち切り、乾いた音を立てて真っ二つに折れた。

 リョウちゃんもバランスを崩し、激しく転倒。

 それに続きオスニワトリの巨体が、棒の様にゆっくりと倒れ込む。


「な・・・!?」

 メスらしいニワトリを殺すのに、オレとリョウちゃんが何十回とトンボの脚を振るわないといけなかったのに、それよりはるかに大きなオスニワトリを、リョウちゃんが1人で、しかも一撃で倒しただと?

 筋力の強化だけで、そこまで強くなったというのか?

 再び尾てい骨の底から熱い奔流が湧き出すのを感じながら、オレはリョウちゃんに駆け寄る。

 リョウちゃんは、ゆっくりと身を起こしたところだ。

 また顔を真っ赤に染め、息を弾ませてはいるが、大きな怪我をした様子はない。そして軽微な傷なら、魔力を吸収した際に自動的に治癒してしまう筈である。それは、オレ自身がすでに体験済みの事実だ。


 再び身体が熱い熱いモードに入っているオレは、さっきの続きとばかりにリョウちゃんに抱き着いた。

 リョウちゃんも抵抗する様子もなく、オレの抱擁を受け止める。そして、オレの背中に細い腕を回してくれた。

 おおっ、良い反応だ。

 これは、確実にオッケーって事だよね?

 モンスターと戦ったせいでの吊り橋効果とか、魔力を吸収したせいでの身体の火照りとかに助けられているのは分かるけど、男なら押しまくるべき場面だよね?


 オレはリョウちゃんの唇に貪りつきながら、ゆっくりと体重をかけ・・・。

 あれ?

 少し強引に体重をかけ・・・。

 むむ?

 思いっきり体重を・・・。

 うりゃー!

 骨の細い華奢なリョウちゃんの身体は、オレがどんなに力を込めて押し倒そうとしても、ビクともしなかったのだった。

 

 



「凄いな、リョウちゃん。あんなデカいのを一撃なんて」

「私が・・・倒したん・・・です、よね?」

 オレが称賛の言葉をかけても、リョウちゃんは、自分がしでかした事をまだ信じられていない様だった。

「ああ、まさか筋力強化の効果があんなに大きいとは思わなかったよ」

「魔力を使って『筋力強化』って念じたら、身体が急に軽く感じられて・・・。それで走ってみたら、びっくりするぐらい速く走れて・・・」


「きっと、ニワトリからもらえた魔力が、予想以上に多かったんだな。今のオスからは、もっと多くの魔力がもらえたと思うから、アイテムボックスを選んだら、オレのより大きいのが取れるんじゃないかな」

「あ、そうですね。アイテムボックスを取ってみます!」

 リョウちゃんは目を閉じて「アイテムボックス、アイテムボックス・・・」と呟き出す。

 オレはオレで、全身の筋肉に魔力が染み渡る様にイメージしながら、「筋力強化! 筋肉が太くならずに筋力アップ!! リョウちゃんを押し倒せるぐらいの筋力を~~!!」と頭の中で神に祈り始めた。リョウちゃんがいなかったら、本気で五体投地していたぐらい真剣に。





 そして、筋力を強化した結果は、効果覿面だった。

 移動速度が上がったのはもちろんだけど、はっきりと破壊力が増したのである。

 ニワトリ型モンスターはもう現れなかったが、トンボ型やバッタ型モンスターを相手にした時、体節のつなぎ目の様な弱点を狙わなくても、簡単に倒せてしまったのだ。

 ただ、無造作にモンスターの硬い部分を叩くと、トンボの脚が簡単に折れてしまうのには参った。ちゃんとした武器を持ち込むか、刃筋を乱さずに刀を振れる技術を身に付けるかしないとダメらしい。


 トンボとバッタを何体ずつか狩ってから、オレたちは早々と夜営の準備に入った。

 場所は、前回オレが夜を過ごしたのとは別の灌木の集まった所である。

 ちなみに、前回倒したゾンビの残骸は、綺麗さっぱり消え失せていた。スライムたちが掃除してくれたのか、別のモンスターが食ってしまったのかは分からない。

 またゾンビとして蘇っていない事を願うばかりだ。

 まあ、復活して来ても、また魔力の供給源になってもらうだけなんだけど。


 リョウちゃんには薪を集めてもらい、オレは倒木を引きずって来て、灌木の間に橋渡しして屋根の骨組みを作った。屋根自体は、トンボの翅を並べて代用してある。

 夜間の寒さ対策には壁も欲しいところだけど、今回は屋根だけで我慢だ。

 たかが屋根と言われるかも知れないが、熱が空へと逃げていくのを防ぐだけで、けっこう温度の低下を防げるのである。

 座標指定の能力を身に付けるまでは、この場所で狩りを続ける事になるのだから、徐々に生活し易い環境を整えていきたいと思う。

 

 モンスターと戦いながら作業をこなすのは大変だろうとけど、それをリョウちゃんと2人でやるんだと考えると、ニヤニヤが止まらないオレであった。

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ