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リビティウム皇国のブタクサ姫  作者: 佐崎 一路
第五章 クレールヒェン王女[15歳]
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虚構の踊りと闇の中

『真龍騎士ルーカス殿下と巫女姫クレールヒェン様、悪漢どもに鉄槌を下す!!』

『央都の組織は壊滅か!? 亜人解放戦線構成員四十名余りが全滅!』

『凱旋された翌日の快挙! まさに神算鬼謀(しんさんきぼう)、電光石火!』

『殿下の神意により跡形なく消え去った悪の巣窟!』

『怪我をした者や体調を崩した者に対して、無償で治癒を行う巫女姫様。その尊とくも神々しいお姿に住民も感涙』

『すばらしき献身! まさに巫女の鑑。次代の聖女も確実か?!』

『麗しきそのお姿とお力はまさに巫女姫そのもの。あるは先代クララ様を凌駕するとの声も!』

『夜の逢引! 噂のおふたり。結婚も間近か!?』

 エトセトラエトセトラ……。


「「は~~~~~~~~~っ……」」

 

 一般生徒を排除して、出入り口に護衛を配した小会議室。

 侍女や侍従に頼んで集めていただいた、朝一番で販売された各新聞紙の一面に踊る見出しを前に、私とルークは思わず海よりも深いため息をつきました。


「な、なにが、けっ……『結婚も間近か!?』よ!!」


 根も葉もない憶測を載せた三流ゴシップ紙――紙名が〈日刊北部デイリー・セプテントリオ〉で、記事を書いたのはコリン主筆編集長とか記載してあったような気がしましたけれど、ここまで原型を止めないと確認のしようがないですわね――を、怒りのあまり細切れにするエステル。


「……思いっきり私たちのせいにされてますわね」

箝口令(かんこうれい)は敷いたのじゃがなぁ」

「新聞記者の嗅覚は随分と鋭いと見えるな」


 同じく新聞の紙面をとっかえひっかえ確認しながら、リーゼロッテ様も腑に落ちないという表情で首を捻り、セラヴィは面白そうに片頬を緩めます。


「まあ、この世に完全な秘密なんてない。必ずどこからか漏れるものだ、と父も言ってましたけれど、ここまで来ると作為的なものを感じますね」


 難しい表情でルークが小さく首を振りました。


「仕方ない。あの時は結構部外者も動員したから、どうしても漏らす奴はいるさ。ましてあれだけの騒ぎだ。一杯ひっかけながら武勇伝のつもりで喋る馬鹿は出るだろうさ」

「あるいはジル――巫女姫に心酔していて、良かれと思って吹聴したか、だね」


 セラヴィの憶測にヴィオラも言い添えます。

 ふと、その最後の台詞の『巫女姫に心酔』の部分で非常に嫌な予感を覚えた私は、傍らに待機して私に関する記事のスクラップを取っているエレンに尋ねました。


「そういえば、コッペリアを今朝から見ていないのですけれど、どこに行ったのかしら?」


 ちなみにルタンドゥテは朝から記者の取材や詰めかけたファンの騒ぎがうるさく、近所迷惑になりそうでしたので本日も臨時休業としています。

 家の者はなるべく外に出ないようにお願いをして、私とエレンはフィーアに乗って部外者は入ってこられない学園に避難したのですが、そういえば朝からコッペリアを見ていないような気がします。


「ああ、アレですか。アレでしたら、早朝からラナと一緒に家畜の臓物とか残飯持って、ゼクスの棲む山まで餌やりに行ってます……というか、記者を集めて白猫(シャトン)と一緒に、有料で記者会見を開こうとしていたので、モニカさんが適当な用事をつけて無理やり追い払ったのですが」


 その言葉を聞いて、私の脳裏で普段無表情なモニカがVサインを出している光景が再生されました。


「素晴らしいですわ! ナイスな判断です!」


 思わずエレンとハイタッチを交わして、モニカの配慮に感謝します。


 ちなみにですが、ゼクスはさすがに町の中で飼うわけにはいきませんので、現在、央都周辺の山岳地帯を根城にして、気ままな狩猟生活を満喫しているみたいです――山の生態系変わらないかしら?――とはいえ、さすがに放置しっぱなしとはいきませんので、定期的に主人であるルークか、自称親友(マブダチ)のコッペリアが様子を見に行く……ということで、央国の許可を得ていますので、今回の仕事はきちんとした大義名分がある役割です。


 きっと今頃、ラナとふたりで大量の臓物を抱えて、山の中で牧歌的にラッパを吹いていることでしょう。ロマンですわ~!


 と、懸念がひとつ解消したところで、リーゼロッテ様が話をもとに戻しました。

「問題はじゃ、なぜ爆発が起きたのか。犯人は誰なのか。今後どうするか……じゃな」

「いや、あのタイミングで爆発が起きたのが問題だ。偶然か、それとも()められたのか」

 すかさず、セラヴィが問題点の漏れを指摘します。


「ジルを英雄にして得をする勢力であるか? 一番怪しいのは教団じゃが……」

「教団ではないと思いますわ。それならもっと大々的に公表すると思いますけれど、いまのところ公式に声明は出していませんから」


 というか当事者である私が無言を貫いているので、公式に対応できない状況なのですけれど、教団や国の追い込みがきついのでいい加減適当に答えないといけません。

 というか、私としては目立たずひっそりと活動したいのですけれど、なぜこうまで裏目裏目にでるのでしょう?


「う~~む。わからんな。せめて現場で何があったのかわかれば御の字なのだが、ものの見事に付近一帯は吹き飛んだからのぉ」


 瓦礫とクレーターのように大穴の空いた現場を思い出して、その場に居合わせた全員が、う~んと難しい顔で考え込みました。


「生き残りはいないんですよね?」

「おらんな。少なくとも現場には原形を止めた負傷者はおらん。ただ――」

 ルークの問いに、リーゼロッテ様が首を横に振りました。


「ただ?」と、ルーク。

「ジルが言っておった半闇妖精族(ハーフダークエルフ)。それらしい死体も発見されておらんのだが、跡形もなく消し飛んだのか、あるいは……」

「逃げた可能性がある? そう言いたいのですか?」


 私の問い掛けに、「まあそういうことじゃな」と、軽く肩をすくめるリーゼロッテ様。


「どちらにしても、ここでプッツリと手がかりは切れたわけか。どうにも後手に回っているようで、面白くはないな」

 ヴィオラの感想はこの場に集まった全員の総意でした。


「あー、もう、面倒臭いわね!」

 仔犬サイズになっているフィーアが気になるらしく、お菓子をあげたり、羽ペンで誘ったりしていたエステルですが、一向に興味を示さないフィーアの様子に、あっさりと飽きたらしく、

「あんた巫女姫とやらなんだから、神託かなんか受信できないの? もう適当に出任せ言っておけばいいじゃないの」

 無茶振りをします。


「そんな便利な能力はありませんわ。そもそも私は神託を受ける系統の巫女ではありませんし、せいぜいできるのは死霊と話すくらいで――あっ」

「「「「あ……っ」」」」

 同時にルークやセラヴィ、リーゼロッテ様、ヴィオラも気付いたみたいです。


「そうですわ、その手がありましたわね。ありがとうございます、エステル」

「な、なによ、気持ち悪いわね」

「いえ、お陰で目処がたちそうですので」


 ボンバーマンと化した『亜人解放戦線』のメンバーの霊と交信をして、何があったのか尋ねる。

 普通の人間では、かなり薄気味悪いと思うでしょうけれど、幸か不幸か私は昔から死霊の類いとは縁があるので、いまさら特に怖いとは思えません。


「じゃが、あんな粉微塵に吹っ飛んだ現場で霊と交信できるものかのぉ?」


 半信半疑のリーゼロッテ様のご様子ですが、あれだけの人数がおそらくは不測の事態で大量死したのです、確実に何体かは未練を残した霊体になっているはず。いえ、下手をしたらもう悪霊となって、あの地帯を汚染している可能性すらあります。


「早めに浄化したほうがいいと思いますわ。そうでないと時間置けば忌み地(カオス・スポット)と化す恐れがありますから」

「ふむ。なら王宮のほうから手を回して、巫女姫様にご出陣を願わねばならんの」

「そうですわね、私も危急の事態とあれば、教団の意向に従って浄化をするのもやむなしですので」


 教団に対しても義理を果たしたということで、ある程度今後の方向性も決められるので、お互いにWin-Winということになるでしょう。


「うむ、では頼んだぞ」

さすがに次の更新は週末です。

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