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リビティウム皇国のブタクサ姫  作者: 佐崎 一路
第四章 巫女姫アーデルハイド[14歳]
129/337

冒険者の日常と聖地の迷宮

内容的にはセラヴィ目線の話になります。

銀行の名前が実在するとのことで、変更しました。

 胸の上に重石が載っているような息苦しさを覚えて、セラヴィは苦しげな息を吐いた。

「くっ……」

 動こうにもまるで上から巨人族が足を乗せて押さえられたような重圧に、身動きひとつ、呼吸すらままならない。


 ――覚えがある。この圧力は忘れもしないあの日の恐怖と絶望の記憶だ……。


 歯噛みするセラヴィのかすんだ視線の先には、血のような緋色に染まった空を背景に、絶望がそのまま姿を成したような漆黒の影が傲然と佇み、少年の無力さを嘲笑っていた。


『お前には何もできん』

 必死に立ち上がろうとするが、痺れたように体が動かない。

『お前は無力だ』

 言い返そうとするが、喉からはヒューヒューという呼吸音しか漏れない。

『だから大事なモノを失う』

 いつの間にか影の手には長い桜色の髪をした美しい少女が、首を絞められ苦しげに持ち上げられていた。

『喪ってようやく気が付く……愚かだ』

 華奢な首を掴む影の手に力が込められ、少女が一瞬だけ痙攣をして目を見開き、そして動きを止め――


「やめろォ――――ッ!!」


 自分の寝言で目を開けたセラヴィは、薄汚れた天井を見上げ、軽く息を吐いた。しばし呼吸を整えて……それから視線を転じて、窓の方を向く。


 窓といっても貴族や教会、有力商人の屋敷のように高価な硝子が張ってあるわけはない。板戸に菱形の穴が等間隔に開いているだけの吹きさらしである(寒くなると穴を塞いで完全な穴倉状態にする)。そこから差し込む日の強さからいって、朝と言うには遅く、昼と言うにはまだ早い時刻だろうと当たりを付ける。


 顔を洗って飯を食いに一階の食堂へ行くか。

 そう思って身を起こそうとしたところで、夢の中同様、胸の上に重苦しさを感じて視線を下げた。 


 いつの間にベッドの上に潜りこんできたのか、羽の生えた一抱えほどもある大きな白猫が、我が物顔で自分をクッション代わりにして丸くなっている。


「……おい」


 寝起きと夢見の悪さで、セラヴィが不機嫌そのものの声を掛けると、羽猫はちらりと片目だけ開けて欠伸をして……すぐにまた気持ち良さそうに眠りについた。


「……おい、どけ」


 軽く揺さぶると、面倒臭そうに立ち上がって伸びをして、のそのそと百八十度動いて尻尾をこちらに向けてまた丸くなる。


「……いいか、三つ数える。それでどかないと、実力行使に出るからな」


 そう警告を発すると、羽猫はちらりとセラヴィの方に首を巡らせ、ふっと小馬鹿にしたように鼻で笑った。


「……いい度胸だ、覚悟はあるようだな」


 もともとの飼い主――やたら顔と毛色の良い少年――からして気に入らなかったんだよなぁ、と思いながら臨戦態勢になって、人差し指と中指の間に魔術符(マジックカード)を挟んで投擲の構えになるセラヴィ。


 ちなみになぜこの羽猫がこの世界にいるのかは不明である。

 十カ月前にあの爆発に巻き込まれて気が付いてみれば、一行の中に紛れ込んでいたのだ。


「まあ、猫って思いがけないところに潜りこんでいるものですから」

 と、コッペリアが意味不明な納得の仕方をしていたが、ともかく放置するわけにもいかず。また、明らかに魔物然としたこの猫を、ジルが教会で飼うわけにもいかないず、やむなくセラヴィが預かる形になったのだが、徹頭徹尾お互いに距離を置いた……いわば冷戦状態が長く続いていた。


 一触即発のその空気の中、軽い羽音とともに窓の穴を通り抜けて一羽の白鳩が部屋の中に入ってきた。

 そのまま無警戒に枕元へ舞い降りる白鳩の不自然な行動に、セラヴィの注意が逸れる。


「――ん? ジルに渡しておいた式神か」


 その言葉に応えるように、一声鳴いた鳩が陽炎のようなものに包まれると、その姿を鳥を模した折り紙へと変じさせた。


 『ジル』という言葉に反応してセラヴィの上から枕元へ移動した羽猫が、さっさと確認しろとばかり前脚の肉球で折り紙を叩く。


 すっかり気勢を削がれたセラヴィは、手にしていた魔術符(マジックカード)を引っ込めると、ため息をつきながら上体を起こして、折り紙に手を伸ばし、手早く広げて一枚の紙に戻した。

 そこには流麗で几帳面そうな見慣れた文字が躍っている。


「……オーランシュ王国のコルラード王子? なにやってんだ、アイツは。――ったく。詳しい打ち合わせがしたい、か」


 厄介事の予感に寝起きでボサボサの頭を掻くセラヴィ。

 とは言え、本人は意識してかしないでか、約二巡週ぶりに届いたジルからの手紙に、僅かに口許を綻ばせるのだった。


 そんな少年の様子を、枕元に座する羽猫が面白くもなさそうに眺めていた。


     ◆ ◇ ◆ ◇


 聖都テラメエリタの周囲には数多の迷宮がある。


 霊山たるクロリンダ山の地下に広がる『クロリンダ火炎迷宮』。

 西部に聳えるオッタヴィア山脈に存在する『オッタヴィア天空迷宮』。

 聖獣たる一角獣(ユニコーン)が暮す『一角獣(ユニコーン)森』。

 底知れぬシドン大峡谷に延々と存在する『シドニア大迷宮』。

 その他、小さなものや魔物の巣窟は数知れず。


 まるで誰かの嫌がらせのように存在する迷宮を前にして、この街には一攫千金を夢見る冒険者や、これを聖女の試練と心得、修行の一環として挑戦する聖職者も数多く存在する。

 当然、人が動くところは金も動く。利に聡い商人や各ギルド、守銭奴の教団関係者もこれを全面的にバックアップしているため、テラメエリタには多くの冒険者が居留し、また関連ギルドや宿屋が軒を連ねていたのだった。


     ◆ ◇ ◆ ◇


『ドギーバッグ(残飯容器)』というのは、主にダンジョン中~低層を狩場にしているソロ冒険者に対する蔑称である。


 主に駆け出しで碌な腕も装備もない初心者や、怪我をして無理の利かない半引退者が、浅い層に自生する薬草や低品質の鉱石、そしてより深い層へ潜る冒険者が道すがら倒したのはいいが、荷物になるのでその場に放置しておいた魔物を漁っては、その魔石や素材を剥ぎ取って日々のたつきにする。そうした冒険者と呼ぶのもはばかれる半端者のことであった。


 一般人から見れば嫌悪と嘲笑の対象でしかないが、腐肉食動物(スカベンジャー)が野性の世界で重要な役割を果たしているように、彼らが低層のゴミ掃除をするお陰で、それを餌にする繁殖力の高いスライムのような魔物を抑える効果があるのも確かであり、経験則からそれを知る冒険者ギルドは、積極的に新人冒険者にその手の依頼を斡旋している経緯があった。


 一方、ある程度の実力のある冒険者たちは、これを新人の試金石と看做していた。

 ここで妥協するか、それともこれを足がかりとして上を目指すのか……。

 いずれにしてもかつては自分たちも行った通過儀礼である。

 だから黙って見守るのだ。老婆心と……半分は嫌がらせで。



     ◆ ◇ ◆ ◇


「はい。本日の買取総額は銀貨六十二枚と銅貨五十枚になります。――税金と手数料で一割五分差し引かれますが、現金でお渡しいたしますか? それとも指定の口座にお振込みいたしますか?」


 キャリアウーマン然とした女性職員が明細書を提示して見せる。

 一読して特に問題のないことを確認したセラヴィは、銀色のギルド証をカウンターに滑らせて、

「銀貨五十枚は口座に。残りは現金で」

 当座の生活費だけを手元に置いて、残りはギルド指定の口座――ちなみに大陸どこでも使え、本店は超帝国に存()すると言われる『アイス銀行』――に貯めておくことにした。


 受け取った報酬を小銭入れに入れて、ギルドを後にしようとしたセラヴィだが、その前に立ち塞がる数人の体格の良い冒険者らしく男たちがいた。


「よう、Eランク冒険者がずいぶんと稼いでるじゃないか」

 にやにやと笑いを浮かべて取り囲む男たち。


 この一年余りで結構身長も伸びて百七十を越えたセラヴィだが――なにげにジルを追い抜いたのは嬉しかった――連中は最低でも百八十を越えて、なおかつまだ線の細いセラヴィと違って完成された無骨な体つきをしている。まともに殴り合いをしたらまず勝てないだろう。


 ――面倒だな。


 もともとソロで行動するドギーバッグの中でも、自分が異彩を放っているのは理解している。

 武器らしい武器も持っていないのに、毎回頭陀袋一杯の戦利品を持ち帰っては、EランクどころかDランク並の報酬を得ているのだ。胡散臭い、忌々しいと考えている連中も多いし、実際、因縁をつけられるのも割と日常茶飯事であった。


 とは言え、そのほとんどはE~Fランク周辺の雑魚なので適当にいなしてきたが、この連中は装備や佇まいから見て、それなりの場数を踏んできたベテランだろう。


 いつでも魔術符(マジックカード)を放てるようにセラヴィが自然体になったところで、その挙動を察知した髭面の三十台のリーダーらしき男が、

「おっと。勘違いするな坊主。ちょっとお前さんにイイ話を持ってきたんだ」

 他意はないという風に、何も持っていない両手を開いて見せた。


「生憎と見ず知らずの相手から勧められる『イイ話』ってやつは信じないことにしている」


 にべもないセラヴィの言葉に破顔する髭面。

「まあ、そりゃそうか。俺はこの冒険者パーティのリーダーでシムラーという。後ろにいるのは仲間だ。で、坊主、お前さんソロだろう? 聞いた話では魔法も使えるって話だが、本当かい?」


 試すようなシムラーの視線に対して、「ノーコメント」と素っ気無く応じる。


「ふむ。確かにソロの冒険者がおいそれと手の内を明かせないわな。なら勝手にこっちの事情を話すんで、そっちも勝手に判断してくれ」


 うわー、面倒くせー。という顔をしているセラヴィを、半ば無理やり「飯と酒を奢るから」と言って近くの酒場へと連れて行くシムラー一行。

 何か揉め事が起こるのでは、とヤキモキしていたギルド職員と、普段、取り澄ましている新人ドギーバッグが痛い目に合うのを期待していた低ランク冒険者たちが、一斉に安堵と落胆のため息を漏らした。


     ◆ ◇ ◆ ◇


 聖都テラメエリタに数多存在する冒険者ギルドに所属するCランク冒険者フムトアンデル(二十七歳)は、ここシドニア大迷宮においてかつてない恐怖を味わっていた。

 いままでは主にオッタヴィア天空迷宮を攻略拠点としていた彼らパーティだが、最近行き詰まりを感じていたため「たまには河岸を変えようか」というリーダーであるシムラーの一言で、この地に足を踏み入れたのだが、それがまさかこんな無様な結果になろうとは……。


 聞きたくもないのに、プチプチプチプチ……という身の毛がよだつ音が峡谷に木霊し、嫌でも耳に入る。


「やめろーっ! やめてくれ――っ!!」


 豪胆で鳴らした同じCランク冒険者で斧使いのヨルトホエール(三十三歳)が、まるで年端の行かぬ子供のように喚き散らして、嫌々をしながら涙と鼻水で汚れた顔で懇願している。


「ウキャキャキャ!」

「ウキャキャーッ!」

「ケッケッケッケッケ!」


 その悲鳴を受けて手を叩いて喜んでいるのは、このシドニア大迷宮にもっとも多く棲息する魔物で、立ち上がれば大の大人ほどの身長と、その状態から地面に届くほどの長い腕を持つ〈岩猩々(ロックエイプ)〉の小集団であった。

 一見すると、獣人族の猿人にも似ているが――猿人族曰く「イモリとドラゴンを一緒にするほどの侮辱」とのこと――体内に魔石を持ったれっきとした魔物である。ちなみに名前の由来は頭の天辺が禿げて岩のようになっていることから来ている。


 火を噴いたり空を飛んだりといった目立った特徴を持つ魔物ではないが、集団で襲い掛かることと石器などの道具を使う知能があること、何より不意を突いたり罠に嵌めたりと狡猾なため、魔法や飛び道具を持っていない並みの冒険者にとっては、非常に扱い辛い相手であった。


 その話を聞いて、リーダーのシムラーはソロの魔術師を仲間に加えようとしたのだが、目当ての相手はけんもほろろに断った上、

「悪いことは言わないから、慣れた場所で依頼を受けたほうがいい」

 と、やたら念を押して言っていた。


 いきがった餓鬼の戯言と一笑に付して、取りあえず力試しに普段のパーティ構成で挑むことにして、大峡谷に足を踏み入れて半日。


 で、フムトアンデルらがこうした危機に陥ったのも、逃げる〈岩猩々(ロックエイプ)〉を不用意に追いかけて、〈縞瑪瑙亀(オニキストータス)〉という岩に擬態した魔物の住処に誘導され、苦戦している間に痺れ薬が付けられた吹き矢で後ろから撃たれた結果である。


 そして気が付いた時には、全員が地面に首から下を埋められた状態で拘束されていた。


 脱出も反撃もままならないまま、パーティ六名のうちすでに四名が犠牲になり、白目を剥いて累々と赤茶けた大地に転がっている。


「「「「…………」」」」


 瞳は開いてはいるが焦点の合っていない――俗に言うレイプ目で――まさに生きた屍というべき姿をさらす彼らには、もはやベテラン冒険者としての自信と誇りは一片もなく……そしてなにより、男として大切なモノを喪った後の、無残な抜け殻であった。


 ごくり……。

 と、何度目かになるかわからない唾を飲み込んだフムトアンデルは、ウキャウキャ嗤いながら獲物を取り囲んでいる〈岩猩々(ロックエイプ)〉たちと、地面に頭だけ出された状態で泣き叫んでいるヨルトホエールを伺い見た。


 集団の隙間から見えるヨルトホエールの頭部――最近薄くなってきたことを気にしていたそこ――が、すっかり毛を抜かれて落ち武者状態と化し、さらにどこから取り出したのか〈岩猩々(ロックエイプ)〉たちは素焼きの壷に入った油のようなものを手に掬っては、それを泣き叫ぶ彼の頭皮に馴染ませるように刷り込み、さらにはよく(なめ)された何か動物の皮で、きゅっきゅっきゅっきゅっと磨いている。


「ああああああああああああぁぁぁぁ」

 その油と(なめ)し皮とで磨かれていくうちに、青剃り状態だったヨルトホエールの頭の血行が良くなり、まったく毛根の目立たない光り輝く地肌へと変質して行く。


 悲痛な叫びと、到底見るに耐えない猟奇的なその光景に、思わずフムトアンデルは唇から血が出るほど噛み締めて、目を背けた。

 その巡らせた視線の先では、燦々と太陽の光を反射する見事な坊主頭が四つ並んでいた(いずれも完全なスキンヘッドではなく、真ん中にパイナップル状に残しているとか、豹柄にされたりと意匠を凝らしたものばかりである)。シムラーをはじめいずれも豪胆で鳴らした歴戦の冒険者たちであったが、いまやその自負も矜持も地に落ち、完全に魂が抜けている。


 この事実を前にフムトアンデルは卒然と理解した。

 この謎の儀式を受けることで、俺たちの頭は永久脱毛されるのだ!!


 そういえば、なぜかシドニア大峡谷攻略組には、やたらツルツルに磨かれたスキンヘッドが多かった。てっきりたまたまか、或いは強面を演出するファッションかと思っていたのだが、まさかこんな裏があったとは……っ!


 戦慄するフムトアンデルの前で、一仕事やり遂げた〈岩猩々(ロックエイプ)〉たちは、現実を直視できない恐怖から失神しているヨルトホエールから身を離すと、『待たせたな』と言わんばかりの表情で、手に手に油や鞣し皮を持って、これ見よがしにフムトアンデルを取り囲む位置へと配置についた。


「やっ、やっ、やめろーっ! この年でツルッパゲとか絶対に嫌だ―――ッ!!」


 必死にもがくフムトアンデルの絶叫を聞いて、ゲラゲラ笑いながら〈岩猩々(ロックエイプ)〉たちが手を伸ばす。


「ぎゃあああああああああああっ!!」


 文字通り魔の手が無造作にフムトアンデルの頭髪を掴み、やたら慣れた手つきで『プチプチ♪』と毟る。程なく、峡谷を吹き抜ける風が地肌で直接感じられるようになったところで、待機していた油係と磨き係が邪悪な笑みを浮かべて迫ってくる。これ見よがしに手に持った道具をひけらかしながら。


「……いっそ殺せ」


 捨て鉢に吐き捨てるフムトアンデル。その方がまだマシである。

 冒険者が魔物相手に後れを取って命を散らす。――だったら、おそらく冒険者仲間は酒場でグラスを傾けながら、

「運がなかったな……」

「あいつは弱かったのさ」

「……残念だ」

 と、一言呟いて瞑目するくらいはしてくれるかも知れない。


 だが、それが魔物に捕まってピカピカ頭になって戻ってきたら――。

 間違いなく冒険者仲間は酒場でグラスを傾けながら、

「運がなかったなぁ(笑)」

「くっくっく、あいつは弱かったのさ(笑)」

「……ぷっ、残念だ(笑)」

 と、口々に笑いのネタにして瞠目するだろう。間違いなく!


 ……終わった。

 悲憤と絶望からもはや自暴自棄になるフムトアンデル。

 こんなことなら実家の饅頭屋を継いでいればよかった。一念発起して冒険者なんかになってこのありさまかよ。どうせなら中途半端に残さずにすっぱりとヤれ。そう思った。


 その瞬間――、

「“水流よ、刃となり眼前の敵を切り裂け”――“水刃(アクア・リッパー)”」

 澄んだ詠唱の声とともに、何処からともなく飛んできた水の刃が〈岩猩々(ロックエイプ)〉たちを切り裂く。


「「「「「ウキャ――――ッ!?」」」」」


 致命傷こそ負わなかったものの、全身を斬り裂かれて絶叫をあげる〈岩猩々(ロックエイプ)〉たち。

 と、いつの間にそこに来ていたのか、一段高い崖になっているそこから見下ろす形で、白地に金の縫い取りのある衣装を身に纏い、頭に金のティアラを載せた長い桜色がかった金髪の美少女が、長い錫杖を片手に凛々しくも可憐な面持ちで佇んでいた。


 その背後に黒髪でもっさりした少年と、オレンジ色の髪をしたメイドが付き従っているが、少女の美貌とインパクトが強すぎて、ほとんど視界に入らない落書きのような者である。


「白昼堂々といたいけな冒険者の皆さんを辱めるその行い。天が許してもこの私が許しません!」


 錫杖の先端をピタリと、右往左往する〈岩猩々(ロックエイプ)〉に向け、宣告する美少女。

 その歌劇のような一コマに、フムトアンデル以下、気死しかけていた冒険者パーティの目に一瞬で精彩が戻った。


 やだ、カッコイイ……。


 降臨した救いの女神を見詰める敬虔な信者のような、野郎たちの憧憬の眼差し。

 それを受ける少女の背後で、

「――はあ……」

 面倒臭そうにセラヴィがため息をついた。

もともとセラヴィはDランク冒険者資格もありましたが、現在は一からやり直して現在、やっとEランクになったところです。

同じDランクだったジルは、現在は聖職者としての活動が忙しいのでまだFランクです。

シムラーは「後ろ後ろ!」がやりたかったのですが、長くなるので割愛しました。残念。

あと先にネタバレしておくと、頭髪の方はジルが治しますのでご安心ください。


12/8 脱字訂正しました。

×この年でツッパゲとか絶対に嫌だ→○この年でツルッパゲとか絶対に嫌だ


12/13

×新人ドギーバッグが痛い目にあるのを→○新人ドギーバッグが痛い目に合うのを

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