第二十五幕 「完全究極美」
わたしのからだに ながれる ち
いちぞくが つむいできた おもい
こころ と からだ を つなげる ちから
「こんなに素敵な力なのに、どうしても使い方が気に入らないんだよねぇ。」
その後、メイのとんでも発言による混乱は一旦保留として、夢見へと河岸を変える流れになった。
というか
「二人とも……謎の能力について盛り上がるのは良いですけど…本当に湯冷めする前に夢見に移りません?」
という。
リリスの珍しく冷ややかな目つきと冷淡な口調で我に返った私とメイは、一旦この話題については保留という方向で意見を一致させ、怒られないように素直にリリスに従う形で同意した。
無言のアイコンタクトで。
「むー。別に怒ってるわけじゃないですけどー、二人は頭が良いからとんとん拍子で会話できるでしょうけどー…私だけ置いてきぼりはちょっと寂しいです。」
私とメイの慌てた様子を見て心情を察したリリスが、すこし元気なさげに愚痴をこぼす。
「それに、もう本当に遅い時間だし……色々お話したいのなら、むしろ寝ながら夢見で話した方が身体にも負担がすくないですよ?」
そう言いながら、のそのそと四つん這いでベッドの上を這いながら真中へと移動し、ぺたりと座り込んだ彼女は上目遣いでこちらを見ながら…。
「……なので、そろそろ一緒に寝ませんか?」
バスタオルをはらりと取り、肌を露わにしながら言い放った。
ぞわっと謎の感触が背筋を走り、思わず身震いする。
なんていうか……すごくエロくない?
「うわエロい、リリスがすごいサキュバスっぽくてエロい。」
メイが思わずといった風に感想を述べる。
思っとくだけにしていただきたかった。
あとエロいって2度もいうな。
「またそうやってー…そんな風にしてるつもりないんだけどなー。」
当のご本人も無意識らしく、私たちの反応に不満げ。
やっぱ本能が官能に特化してんじゃないかと思わされる。
ともあれ、リリスのいう事もごもっとも。
私は小さく息を吐いてバスタオルを取り払うと、全裸になってリリスの右側ベッド脇まで移動する。
「ま、私たちの会話が脇にそれがちなのは事実だし。リリスの提案も正しいわけだし。素直に従いましょ。」
そう言いながら私はベッドに上がり……
「ごめんね。別に仲間外れにしようとか、そういう意図があったわけじゃないの。」
私はリリスを見つめながら喋る。
誠意をもってちゃんと謝っとこう。
「解ってますよ。ちょっと愚痴ってみただけですよ。」
やわらかな笑顔で答えてくれた。
私がほっとしているとメイが声を上げた。
「わー、そうやって先に自分だけ謝るのー? ずるーい。」
そう言いながらメイは私の逆側、リリスの左側ベッド脇へとバスタオルを身体に巻いたまま駆け寄り、そのまま飛び込むようにベッドへとはいる。
急に飛び込んでくるものだから驚いてメイに視線を向ける私とリリス。
そんな私たちを気にも留めず、メイはギィッっとベッドをきしませながら勢いよく横たわり、おもむろにタオルを手ではらいながら……
「私も悪いと思ってるんだ……その…乱暴にしないで。ね?」
妙なしなをつくりながら、目を伏せがちに弱々しく言い放つ。
リリスが笑顔のまま固まった。
……えーっと?
私とリリスが固まってリアクションが出来ないのを見て、メイがきょとんとした表情で続ける。
「あれ?リリスに倣って頑張ってみたんだけど、なんか間違ってた?」
倣うな。
そこから間違ってる。
「メイ……あなたの境遇を知ってる私たちに……この状況下でその言い方は本当にどう反応していいか迷うから止めてちょうだい…。」
私達が固まっている理由を察せてない彼女の為に、当たり障りのない言葉を選びつつ説明をしてあげる。
「……あっ!」
あっ。って何だ。
本気で忘れてるのかコレ。
本当に無頓着すごいな!?
「あー……妙な気を遣わせたようで、ごめん…ね。」
今度はメイが落ち込む。
自分の境遇を思い出してじゃなくて、変な気を遣わせたことに。
この天才は自分のことになると無頓着にも程があるのに、何故か他者の気を慮ることが出来るのか…。悪い子じゃないけどホント変な子だ。
「まったく―」
「大丈夫ですよ!メイが気に病むことでは無いです!」
私が小言を言おうとしたら食い気味にリリスが被せてきた。
そして夢見の時のようにガバっとメイに抱き着いた。
メイもリリスの唐突な抱擁に驚いて目を見開くが、すぐに落ち着くとそのまま大人しく無言であやされていた。
きっとあの時の事を思い出してるのだろう。なんだか嬉しそうな顔をしたメイを見てそんなことを思った。リリスの包容力と心地よさは本当に凄いからね。
私はしょうがないなぁと思いつつ。
ほんの1~2分、そのまま二人を見守った。
「さ、それじゃ始めましょ。」
そういって私は足元のシーツと毛布を引き寄せて二人を覆う様にかけた。
「はーい。」
「うん。」
「今回はリリスが真ん中だから大丈夫よね?」
一応確認はしとこ。
「はい、問題ありません。セレナとメイの接続は私が中継ぎするので。」
そう言いながらリリスは仰向けになって自分の胸部に両手を置いた。
「お二人とも、片手で良いので私の手を握ってくださいね。」
「はーい。」
そう言いながら私はリリスの手に自分の右手を重ねる。
自然と彼女の乳房にも腕が触れる。
わー、やわっこい。
「う、うん…こう?か…ね?」
自発的な夢見準備は初めてのメイ、やっぱ少し恥ずかしそう。
「メイ、もう少しからだ寄せてあげて。お互いの肌の密着面積が多い方が夢見の精度が上がるんですって。」
先輩として、しっかりとアドバイスをしてあげよう。
見えてないけど、絶対引き気味に決まってる。私がそうだったからね!
存分に恥ずかしがるがよい。
「う、うん。」
もぞもぞと身体をよじりながら身を寄せるメイ。
「これで良い?」
妙にしおらしくて面白い。
「はい、大丈夫ですよ。」
リリスも嬉しそうな声色で答える。
「セレナもすっかり慣れた感じですね。」
やっぱり嬉しそうな声でこちらに振ってくるリリス。
「そりゃもう、3度目ともなればね。」
リリスに変な気がない事は十分理解したし。
そう思いながらさらに身を寄せてやる。
「ふふっ。なんか……挟まれた状態で夢見するの初めてだから新鮮です。」
リリスが楽しそうで何より。
「さ、じゃあ…お願いね。」
私は目を閉じながら力を抜く。
「はい。メイも目を閉じて…力をぬいて、楽にしてください。」
いつぞやのように、リリスが静かに私たちに語りかける。
「無理に眠ろうとしなくても大丈夫ですよ。
夢見の誘いは静かに自然に、いつの間にか行われます。」
この文言を聞くのは二度目。一言一句そのままだ。
思うだけで行使される魔術とは違うのかな。
そんな事を思っていると……
肩に、腕に、指先に。
耳に、頬に、鼻先に。
つま先から太ももを緩やかに撫ぜるように。
背中からうなじ、頭を優しく包むように。
全身を何かが触れてゆく。
きっと紫紺の靄が私たちを包んでるんだろう。
そう思った頃には、意識がすうっと落ちていく感じがした。
―数瞬のあと
気が付けば不思議な雰囲気の部屋の中に私は立っていた。
高い天井、広い部屋。
暗色系の建材と……何やら赤黒い模様を基調とした意匠の壁掛けやカーテン。ちょっと見たことの無いインテリアデザインの家具が色々と並んでいる。ほんのり紫がかった照明が揺らめいていて、どことなく妖しい雰囲気を醸し出している部屋。
きょろきょろと見回してみてふと思う。
いや、なんか見たことのある雰囲気だぞ、この部屋。
「えっ、えっ?! どこココ!」
その直後、少し慌てた様子のメイの声がする。
誰も見えないと思ったら天蓋付きのベッドの方からだ。
「メイ、こっちよ。ベッドの外。」
これは……もしかしてリリスの企みごとかしら?
そう思いながら私はメイへと声をかけた。
が、自分の声に違和感。
「えっ! あの! どっ、どなたですか!?」
メイも私の声に驚いている様子。
「……セレナよ。自分でいうのも変だけども、声が違うのは…気にしないで。」
私の声、自分で認識しているいつもの雰囲気と明らかに異なる声質。自分自身、多少の動揺をしつつも、より混乱してそうなメイを落ち着かせるために名前を交えて声をかける。
「あっ。えぇ?! セレナなの?」
より驚いてる上に未だ姿の見えないメイはさておき、今一度部屋を見回す。
やはりこの部屋は見覚えがある。
見た記憶が有るのは少し前、3週間ほど前に……魔王討伐隊の仲間たちと訪れたとき。
なるほど、つまりここは―
「リリス。なかなか面白い趣向だと思うけど、メイが可哀そうだからそろそろ出てきてちょうだい。」
少し声を張り上げるように呼びかける。
聞きなれない自分の声に違和感がものすごい。
「流石セレナ。頑張ってみましたけど……冷静そのものですね。」
すこし悔しそうなリリスの声が聞こえた。
声のした方に目を向けると、人間くらいのサイズの紫紺の靄が漂っている。
「演出としては効果てきめんみたいよ。メイが怯えているわ。」
やや呆れた声で靄に向かって声をかける。
「えっ、あっ! ご、ごめんねメイ!怖がらせるつもりはなかったんだけど!」
今度は部屋主が慌ててる。
紫紺の靄が風もないのに霧散したかと思うと見慣れぬ姿の女性が一人出てきて慌てて天蓋付きベッドへと駆け寄った。
しまらないなぁ……。
かつて訪れた魔族領、極寒の死地の中央地帯、【魔都】と私たちが呼ぶ魔族唯一の居住地【ダーク・ノヴァ】の中央にそびえる魔王城、その建物内のどこかで見た記憶のある一室。
そして、そこはかとなく女性向けのインテリアを思わせる調度品の数々。
そう、ここは魔王ザルヴァドス討伐時に訪れた魔王城の一角、魔王の娘であるリリスの私室なのだ。
「わぁ! り、リリスなんだよね?声はリリスだと思うんだけど。ね!?」
天幕をめくって中を覗き込んできた女性に対して、未だ姿が見えないメイが慌てて声をあげているのが聞こえる。
今のリリスの容姿は、おそらく素の彼女の姿なのだろう。
指環の効果による常時偽装している姿とは別の物。
ただ今は後ろ姿で良く見えない。
あとでじっくり観察してやろっと。
そして、おそらく私の身に起きているであろう現象も早く確認したい。
どっかに鏡無いかな…?とキョロキョロする。
「驚かせてごめんね、メイ。私が魔族であることを気づいた上で普通に接してくれる貴女に、ちゃんと改めて自己紹介したくって。」
……なるほど、そういう意図ね。
セッティングが急すぎるし、タイミングが下手だよ…リリス。
「あー…そゆことか。すごく驚いちゃった…全然知らない場所にいるし、なんかすごい雰囲気だし。セレナの声は変だし。」
ほんとに、一度に色々出しすぎだよ…。
「うぅ…ごめん。と、とりあえずこっちに来て。」
「はー、びっくりした……でも、言われてみれば私の知ってるリリスの面影があるか……も。」
そう言いながら天蓋付きベッドから出てきたメイは、こちらを見るなり絶句した。
「……そんなにすごい恰好してるのかしら私。」
驚愕に目を見開き、口をあんぐりと開いたメイ。
ドヤ顔でにんまりしながらメイのリアクションを見届け、私の方を見つめるリリス。
なんでそんなに誇らしげなのかな…。
しかしなるほど、メイのいう通りで確かにリリスの姿は……偽装容姿と似通ってる部分があるわね。
顔つきはそのままだが、肌はやや濃い目の褐色。均一なアッシュグレーだった髪色は、魔族らしい赤みを帯びた濃い目のピンク。目も赤色で瞳孔が細長く獣じみてる。
それに額にはいつぞやに見せてもらった白い陶磁器の様な小さな一対の角。
服装もボディラインがぴったり見える赤黒いレザードレス的なアレだ。布面積が小さくてドレスっていうよりは……なんていうんだろ、こういう服……私の生活圏では見たことないデザインだわ…。
それと、よくみると可愛らしい八重歯みたいな牙と、指先には真っ赤でとがった爪が見える。
こうやっていると立派に魔族らしい容姿をしている。
恐ろしい魔族じゃなくて、可愛らしい魔族って感じだけど。
で、私はどうなってんじゃい。
「……セレナ……様?」
メイがうわごとみたいに妙な事を呟いた。
その呟きを聞いたリリスがさらに嬉しそうに頬を歪ませる。
マジで何が見えてんだ。
「ねぇ、リリス。意図は理解したし、あなたの本当の姿も堪能したから……そろそろ私にした悪戯の全容を教えてくれないかしら。あなたの部屋って鏡は無いの?」
「あっ、ここは主寝室なので。ドレスルームはこっちです。」
そう言いながらリリスは小走りで別の部屋への扉へと向かう。
主寝室にドレスルームて。
王族か。
あ、王族だわ。
リリスは魔王の娘、つまり魔族の王女だったわ。
「殿下って呼んだ方がいいのかしら…。」
なんて心にもない事を呟きながらリリスの後を追った。
王女リリスのドレスルームは、思いのほか簡素だった。
いつぞやにアメリアに見せてもらったドレスルームよりは規模も小さく、華やかさにかける。
それでも床から天井に届く大きさの鏡が備え付けられて、様々なデザインと色の衣装が女型のトルソーに着せられて並んでいる。
魔族にもトルソーの文化が有るんだ。
立ち並んだ衣装たちの脇を通り抜けて、大きな壁みたいな鏡の方へ向かうと自分の姿と思しき人物の様子が見えてきた。
……歩いてるうちに何となく気づいてたけど…。
この体…なんというか、デカいわね…。2つの意味で。
「リリス、なんでまたこんなことをしたのかしら…?」
鏡壁の中央で待っているリリスの元へと近づきつつ、速度を落としながら横向きになり自分の姿を見る。
「ほら、緑葉亭の干場で正体を隠すって話したじゃないですか。」
すごく自慢げに胸を張りながら、満面の笑顔でリリスが応える。
「あー…なるほど、これは私の正体偽装案って訳ね……。」
「はい、全力を尽くしました!」
すごく良い返事が返ってくる。
改めて鏡に映った自身の姿を眺める。
目の前にいる人物の姿を頭の先からつま先まで、じっくり観察する。
「なんというか……すごいわね。」
思わず声が漏れる。知らない自分の声なのだが。
自分で聞いていても、とても落ち着きのある魅力的な声質。
他者にはどう聞こえているのだろう。
そして見た目はというと……
一見すると長身の金髪の女性。
緩やかなドレープの白いドレス。というより一枚の布を体に巻き付けただけのような装い、それをシンプルな金の帯で止めている。
ストーラに似てる…かな、古い宗教画で見たこと有る感じ。
柔らかな布で覆われた身体はしっかりと女らしさを訴えており、すらっとした端正な肉付きなのに、乳房や臀部はとても大きくたおやかだ。
衣服だけでは隠しきれないボディラインが驚くほどの魅力を解き放っている。肌もきめ細やかで発色もよく、きらめくような美しさを感じさせる。
顔は……童顔な私を大人びた感じにさせたというか……まぁ面影はあるんだけど、目の蒼さが濃いし、目つきも凄く柔らかくて優しい雰囲気がある。
自分で言うのもアレだが、私の目つきは顔の作りに対してやや淡白で愛嬌に欠けるので……聖女という仮面を被りつつけた弊害で、素の状態だと平坦な目付きが癖になっているのだ。
目付き一つでここまで印象が変わるのかと思うほど、なんというか……安心する顔つきだ。
髪は私の白い直毛とは似ても似つかない、金色の輝きを放つ緩やかなウェーブの長髪。この髪質を維持するには、お手入れが大変そう。
なんというか、本来の自分の容姿との差にも驚いたが……。
身体のパーツ全て、ドレ一つとっても完璧な造形をしているし、それら全てが構成する全体のバランスがどこからどう見ても完全に美しいと思わせる。
一言、感想を述べるのであれば、『完全なる美』あるいは『究極なる美』。
……いやー…なんというか…。
『違和感』がすごいね…コレ。
私はフンと一つ鼻を鳴らすと踵を返しリリスへと向き直る。
するとリリスの背後に隠れるようにしながら真っ赤な顔をして私を覗き込むメイの姿が目に入る。まるで何かに惚れ込んで陶酔しきった乙女のような様相。
とろんとしたメイの目付きに、私は何か薄ら寒い怖気を感じずには居られなかった。
全裸ドリームの中身はサキュバスの王女とパーフェクトビューティーによるこらぼれーしょん
メイのキャパシティがついに崩壊します
てんさいの りろんにも あなは あるんだ




