第八幕 「続・テラスにて」
英雄の歓待をする夜会が始まる。
笑い声と音楽と光が溢れている。
「私の方には闇が差している。」
「…あー…。
何か大変な誤解をさせてしまいましたでしょうか…?」
申し訳なさそうな、困ったような顔をして聖女は言い淀んだ。
「あのぅ、私は女神ルミナスを疑ったりなどしておりません…。まして信仰の対象を疑問視したり、存在を否定するなど…そのような『聖女』の存在を許してよろしいのでしょうか…。」
マグノリアの肩が、ガクッと落ちた。
将軍もきょとんとしている。
グラムはうんうんと頷き。
シルヴィアは心底可笑しそうに肩を震わせている。
「お二人共、大変申し訳有りません…。私が言いたかったのは…そう、私が『理力』の権能を得たのは幼い頃で記憶が定かではない、もしくはソレより前ということです…。」
やや俯き加減に、自分の言葉足らずを恥じるように頬を染める聖女。
「それと…、理力の使い方に関する知識については…正直いって何処の誰から与えられたものか『正確な事は知らない』のです。」
こてりと首をかしげ目をつむりながら、両手を頬に添えて。
さも困ったぞといったような仕草で、聖女は肝心なところが抜けているという懺悔をする。
「『私の認識している限り』…の、くだりが行けなかったのでしょうか…?それとも会話の手法がそもそも…?」
うーうーと唸るように少女は年相応に悩んでいる。
「セレナさんは深く考え込むと第三者的視点で物事を考えるクセがあるんですよ。」
シルヴィアが可笑しそうにニコニコしながら言う。
「そして彼女はそういった時必ず『理力で思考力を強化している』みたいなんですよね。だから言い回しが固く、しかも外観は神秘的な雰囲気を纏っていて大抵の人は雰囲気に飲まれてしまっていると思うのです。」
と、この状況を説明する。
「二人ともよくよく思い出すと良い。セレナは『質問に対する応答』をしているだけではないか?その反応がたまたま『根拠ありきの否定』なだけであってな、セレナがルミナスや権能に否定的な姿勢というわけではないのだ。」
「…そう言われれば、確かにそうである…か?」
ガレンがつい先程までの会話の内容を反芻して納得したような、そうとも言い切れないような微妙な反応をしている。
「つまり、貴女が最初に言った『自分の認識ではルミナス』という発言の真意は…?」
やや訝しげに、マグノリアはセレナを問いただす。
「…マグノリア様、答えても怒らないで頂けますか…?」
聖女が縮こまって師に予防線を張り出す。
「…言ってご覧なさい…。」
マグノリアは答えが予測できてしまった。
「…なんとなく、そうなのではないか…。です…。」
少しずつ小さくなっていく声。
「…はぁ…。」
思わずマグノリアは大きなため息をついてしまった。
「ちがうのです先生!決していい加減な事を言っているのでは無くてですね!私が無意識に埒外の力である理力を行使し、ソレを段階的に使いこなしているようになっているのであれば!その無意識にしろ有意識にしろ私の脳に行使に必要な知識が思い浮かぶのは、きっと私が日々祈りを捧げている女神ルミナス様からの恩恵に他ならないという!聖女として女神に感謝する敬虔な信徒の真っ当な姿勢として正しいことなのではと!決して師を謀るようなつもりで言ってるわけではないのです。信じてください先生!!」
「…『セレナ』…?」
「……はい。」
—生徒の必死な訴えかけを、一言名を呼ぶだけで止めた先生は。
「言い訳を考えるのに『理力』を行使するのはおやめなさい。」
「……はいぃ。」
—その身に纏っていた淡い光が消え入るように。
小さな躰が消えそうなくらい縮こまっているのをじっと見つめていた。
秘密を喋るときは下手に考えるよりも
全部話したほうが楽かもしれません。
下手な考えやすむに似たり
「休んでる間なんて無い。」




