表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救済の聖女のやり残し ~闇と光の調和~  作者: 物書 鶚
第一章 第二部 魔導工学と魔獣
74/161

第三幕 「港町での夢見」

神は何ゆえ世界を造り給うたか

神は何ゆえ世界を完全にせなんだか

我は神にあらず、されど世界は完全たり得ず


「不完全な世界に、全知全能の神は何を見出すのかしらね。興味深いと思わない?」


「ねぇ、もうそろそろボクも会話に混ざっていいかな。仲良く交流(イチャイチャ)している所に不躾で申し訳ないけどさ。」


唐突に私達の背後から声がした。

ひどく淡白で不機嫌な印象は有るが凄く可愛らしい声。


振り返るとそこには貫頭衣に身を包み銀の帯を閉めた金髪の少女が立っていた。金色の眼がこちらを()めつけてきている。


「わ、ディダさんだ。」

リリスが最初に声をあげた。

驚いている風だが、慌ててる感じはしないが…。


「わ。って…一応この空間はリリスの主導権によって形成されてるんじゃないの?アレの侵入に気づいたり出来ないもんなのかしら。」

私は少々危機感の無いリアクションにあきれてしまう。


私の知る限りではディダがリリスの夢見に干渉したのはこれで三回。


グリーンリーフ村の最初の夜。

リリスのみに話しかけたが当人は覚えておらず。


メイの治療のための夢見の世界。

私とリリス、そしてメイも認識したが内容は自己紹介のみ。


そして今夜のコレ。


いずれも主導者(リリス)の意思とは無関係に、ディダは現れたり消えたりしている。

おそらくは指環の魔術最適化による権限拡張みたいなもんだろうけど。


「アレという言い方も侵入という言い方も正しくは無いね。」

不機嫌そうな顔でディダが私達の席に近寄ってくる。


「そうですよ、セレナ。礼節は大事です。それと、ディダさんが私の夢見に干渉してきても私に一切の負荷や抵抗を感じたことは無いんです。いつの間にかそこにいるって感じですので…正直私からはディダさんに何か出来る気はしません。」


そう言いながらリリスは椅子を引くとディダに向き直り両手を差し出す。


「「…?」」


ディダがピタリと立ち止まり顔を疑問で塗りつぶす。

私もリリスの行動の意図がわからず眉に力が入る。


「このテーブル、椅子が2つしか無いので、よければ抱っこしますよ。」

凄くいい笑顔で言い放つリリス。


テーブルには椅子が2つ、海に向かって4時と8時の方向に配置されている

椅子の配置はたぶん海の景色を楽しむための配慮。

まぁ夢見の世界だから、それがリリスの配慮なのか。

元の現実における店側の配慮なのかはわからないけど。


それはさておき、リリスのとんでもない提案に……


「っぶ。」


思わず私は吹き出した。


いやいや、確かに見た目は10才に満たない少女だし私よりもちっちゃくて貧相な体つきをしているけども。


たぶんコレは有る種の()()よ?


怖いもの知らずにも程がある。


「ご厚意には感謝するけども…その提案は遠慮するよ。椅子も自分で出すのでご心配なく。」

そう言って呆れ顔のディダが私の背後から海側へと回り込む。


彼女が私の背後を抜ける頃には12時の方向に同じデザインの椅子が音もなく出現しており、ディダは椅子を少し引くと軽く飛ぶように腰掛けた。


……やっぱりただの子供にしか見えんな。


「アレだのコレだの、子供だの。見た目に引っ張られてボクの評価で勝手に遊ぶのは止めてもらいたいものだね。」


椅子に座って開口一番、苦言を呈された。


「正体を明かさない謎の存在に対して見た目以外の評価をどうやってつけるっていうのよ。」

私は負けじと言い返す。

金色の眼差しに対抗すべく目に力を込めて睨む。


「少なくとも神格の類と思ってくれてはいるようだから、それに伴って畏怖や尊敬を込めた会話を期待したいものだけどね。」

間髪入れずに答えが返ってきた。


「畏怖も尊敬も、その御業による実績から得られる評価よ。今のところ私達はあなたから何の説明も恩恵も受けてないもの。かしずく理由が無いわ。」

超常の存在による詐欺の可能性だって有るわけだし。

口にはしないけど思っておく。


「なるほど、未知の存在に対し警戒を解かず。常に最悪を想定しながら構える姿勢はセレナらしい対応と言える。

しかしそういう意味でなら安心していいよ、ボクは君たちの敵じゃないし個人の思惑によって君たちを振り回すつもりもまったくない。」

思考を読みつつ次なる言葉をすぐ返す。

舌戦も腕におぼえありか。


「思考を読み上から話しかけてくる存在に対抗する手段を持たない以上、おいそれと安心するのは愚策だと思うのだけれども。」

なんも安心できないんですが、と文句を言う。


「セレナは考えすぎ。リリスの様にもう少し穏やかに物事を考えるべきだと思うね。……まぁいくつかボクという存在の可能性を思いついている以上、それに対して答えを得るまで警戒を解けないのは理解するよ。」

そういってディダは私から視線を外しリリスの方を向いた。


私も釣られるようにリリスを見る。


突如二人の視線に晒されて慌ててるが、それでも私とディダを交互に見つめながらリリスは居心地悪そうな、それでいて凄く心配そうで悲しそうな顔をしてる。


「あの…お二人共ケンカは良くないです。」


二人の視線に耐えかねてリリスはなんとか反応を絞り出す。


私はびっくりして目をむく。

ディダはため息をついた。


「ね。セレナとリリスじゃボクに対する意識のステージが別次元なの。ちゃんと説明してあげるか、順序よく会話しないと彼女がかわいそうだよ。」


怒られた。

くそう。


「…そうね、これは私が悪いわ。ごめんねリリス。」

素直にリリスにフォローしとこう。


「えっ、あの。…はい、大丈夫です。」

状況が理解できなくてうろたえている。


「あのね、私とディダは別にケンカしてるわけじゃないの。どちらかと言うと今後の為にお互いの立ち位置を確認してるだけ。」

更に説明が必要だと判断した私は切り出す。


「奇しくもリリスが指摘したとおりだよ。ボクと君たちが初めて三者邂逅した時、最後に君がボクの事をなんて言ったか覚えてる?」


「え?! えーっとぉ…?」

あの時混乱しながらも凄いことを口走ったリリス。

案の定、彼女は考えなしに口走った自分の発言を覚えていない。


「私の理力と指環の出所が一緒の何者かによってもたらされた。よ。」


「あ、確かにそんな事いったかもしれません。」

パンと手を合わせながら思い出したという感じで顔を明るくする。


「私はリリスからあんなに鋭い指摘が出るとは思ってもみなかったわ。」

「ボクも。」

呆れたような感心するような、ため息でも出そうな顔でディダはリリスを見つめている。


「え、ごめんなさい。私も咄嗟に思いついたことを話していたと思うので…いま考え直してもなぜそうなるのか解らないです…。」

しょんぼりしてしまった。


「でも、あれは鋭い一言だと感心したわ。」

そうフォローしておく。


「混乱した時に口をついて出た一言が真理を指す事は良く有る。気にすることも無いよ。さ、では話を戻そう。」


そういってディダは間を置き、私とリリスを交互に見た。


私は椅子にふんぞり返り腕を組んでディダの言葉を待った。

リリスは椅子に座り直し姿勢を正している。


「先ずはボクの事から。リリスが指摘した通りボクはセレナの『理力』と君達が着用している『対の指環』に対して干渉可能な存在だ。まぁコレが意味する所は様々な解釈が有るとは思うけれども…無用な混乱を避けるために今はこの2つが可能だとだけ覚えておいてくれるかな。」


素直に頷くリリス。



(あなたはそうでも、あなたの上は違うんじゃないかしら。それとも、あなた自身もそうなのかしら?)


私は口にはせずに思う。

彼女の可愛らしい瞳をじっと見つめながら。


ディダが私に一瞥くれる、再び交錯する視線。


「そして、ボク個人の目的というものは存在しない。ボクはあくまで役目に徹しているだけで、そこにボク個人の意思は介在しない。」


無視して話を進められた。

…いや、ある意味答えか。


「えっと、それはどういう…。」

リリスがディダの発言の意味を測りかねている。


「私達にどうこう言うつもりは無いって意味よ。」

私は一応ディダの意図を汲んで話す。


「うん、セレナの言う通り。ボクの方から君たちに何かを指示するようなことは無い。状況を観察し違和感やミスを発見して報告するのがボクの役目。」



「違和感やミス…の報告。ですか?」

難しい顔をしている。


「報告先は明かせない。ごめんね。でもコレだけは言っておく、ボク同様に報告先も君たちに害をなす存在ではないよ。」

ディダがリリスに対してフォローを入れる。


(君たちに害…ねぇ。それだけかしら。)


一人思う。


「ボクの…『雇い主』と言っておこうかな。ボクの雇い主は君たちを含む誰にも干渉する気はない。ただ、鑑賞しているだけと言っても良い。そのうえで何が起きるかを知りたいと思っているんだ。

ただ確かにセレナとリリスを特別扱いしているのは間違いない。他にも特別扱いしている物はいくつも有るしコレからも増えるかもしれない。でもその中でも別格なのは二人だ。だからボクがこうしてここにいる。」


「えー…っと?」

どんどん顔が難しくなっていく。


「ごめんね。煙に巻くような事しか言えなくて。ある時点まではそうするように雇い主から言われてるんだ。だから二人に伝えることが出来る言葉があまりないんだ。


一言…そうだな一言伝えられる言葉が有るとしたら。


『君たち()()()()を心の底から応援している。』


かな。」


少し申し訳無さそうな顔のディダが、リリスに対して語りかける。


私はそれだけじゃ困るんだけどなぁ。


「…ありがとうございます。」

この一言で安心したかのような、しんみりした表情のリリス。


「セレナ、君の疑問にも一つだけ答えるよ。」


あら優しい。


「ありがと。じゃあ『理力』について答えてくれるかしら。あなたの『雇い主』は何を思って私にこの能力を持たせ、あなたに返答役を務めさせているのかしら。」


私が行動し答えを求めた時に応じて脳内に流れる『知らない知識』について、つい最近リリスに言及したこともタイミング的にはディダが役目を負っているのは明白。


「君が考え、君が必要とし、君が望んだ事を理力によって可能な範囲においてボクが知識を伝えている。雇い主の意図はまだ伝えられない。悪いけれどもコレからも君は君の意思に従い行動してもらえるかな。」


予想通りの答え。

でも、『まだ伝えられない。』か。


それならば…まぁ良いかな。



私は佇まいをただしてまっすぐディダへと向き直る。


「承知いたしました。我は我の意思と身命に従いこの先を歩み続けます。女神ルミナスの化身…ディダ様、あなた様の導きと守りがこの身にある限り、我が身は挫けず我が心は折れぬと信じます。」


そう宣言した。


「感謝します、聖女セレナ・ルミナリス。貴女の強き心と魂に敬意を。貴女が選び進み続ける先に闇と光の導きが有らんことを。疑わず信じず考え迷い答えを求め続ける貴女の生き方に、我が主人に代わりお礼申し上げます。」

そういってディダはにっこりとした笑顔を私に向けた。


言ってくれるわね…。


「聖女モードが二人…。」

嫌そうな顔でリリスが呟く。


「魔王の娘にしてサキュバスの姫リリス。貴女にもです。

潰えぬ意思と託された道。どうか貴女の選択が未来の礎とならんことを我が主人と共に心より願っております。」

そしてディダはリリスにも向き直り、改めて言葉を伝える。


「えっ、あっ。はい!えっと、あの! ……頑張ります!」

眼の前の存在が何者か、自分の中で定まり切ってないリリスはどう反応したものかと迷ったのだろう。

慌てて返事をしながら立ち上がり深々と礼をした。


そんな姿のリリスを見て、ディダが少し可笑しそうに微笑むと椅子から降り立った。



「じゃあ、ボクはコレで。また会える時を楽しみにしてるね。」


そう言って嬉しそうな顔のまま海の方へと振り返り、潮風に吹かれるに任せその姿が煙のように掻き消えた。


淡白だなぁ。




「あっ、もう行っちゃった…。」


挨拶も出来ず消えてしまった事に不満なのか、リリスはしょんぼり顔。


「まぁ思ってたより色々教えてくれてたし、良しとしましょ。」


「私は…もうちょっとお話聞きたかったです、指環の事とか。」


「また会えるって言ってたし、その時に聞けばいいじゃない。」


「まぁ…、そうですね。そうします。」


そういってリリスは再び椅子へと座り直すと、ディダが消えた先の風景へと視線を向けた。




―少しの間を開けた後


 「ディダさん、結局何が言いたかったんだろう。」


 リリスが呟く。


 「…頑張ってね。って事よ。」


 私が答えた。




 「……そっか。頑張らなきゃですね。」



 決意を新たにし、力強い意志を宿した瞳が揺れる。



―目に映る軍港から、魔導飛空艇の船団が飛び立つのが見えた。



 「ええ、頑張りましょ。」



―2年前のあの日、私は魔王を倒し魔族を斃すために

 成すべき決意を胸に秘めた。



 2年後の今日、私は魔王の娘と共に魔族を救うための旅に

 新たなる決意を胸に灯した。


抱っこ大好きリリスちゃん。


私は暑いの嫌いなので無理。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ