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救済の聖女のやり残し ~闇と光の調和~  作者: 物書 鶚
第一章 第二部 魔導工学と魔獣
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序幕 「魔術を志す者たち」

世界には様々な人が息づいており、様々な人々にはそれぞれの立場がある。

あなたが目指す先、その生き方や譲れない部分。

それ故に、あなたは冷淡な選択を求められる。

自分の進む道のために、得難い大切な他者を犠牲にする。

あなたはその罪過に耐える事ができる?


「それが必要であるならば私は迷わない。

 結果として私に宿る思いを私は背負い続ける。」


ルミナ大陸のルミナス王国。

エリオット・ルミナリス十三世、ヴィータス・アミスカス・ディレクティオの治世下にある王都ルミナス。


世界最大の人口を誇る人族達の信仰と象徴の求心を一身に集めるこの都には政治の中枢と宗教の中枢、そしてもう一つ。


人族が連綿と築き上げた魔術の中枢が存在する。


『ルミナス魔術院』


生活と技術と武力の根幹を成す魔術の体系化、厳正な管理を担う機関。

ルミナ大陸における公認魔術師の管理、体系化された魔術の普及と管理。

そしてルミナス王国軍全魔導師団の育成・訓練を担っている巨大組織である。


そして、有史以前より人族が魔法と精霊との関わりを持つようになってから膨大な時間と犠牲のもとに世代を超えて引き継がれた研究成果。それらに関わる全ての知識の集積と研鑽を目的とした研究組織。


『ルミナス魔術研究院』


一般的な魔術の管理を目的とした組織と

魔術の知識の集積と発展を目的とした組織


似て非なるこの2つの組織は、現在一人の責任者が両組織の筆頭を兼任している。



ルキウス・ステラーノ


王国所属魔道士序列第一位。

現存する人族の魔術体系における基礎属性、火・水・風・土・木の五大属性に依る全ての攻撃系統・防御系統・補助系統を習得し終えており、ただ一人の『クインキャスター』の称号を有する人物。

そして多くの複合属性魔法を開発し続け、魔術界隈における稀有なる称号『賢者』を有している。

さらには占星術による超人的な未来視によって、ルミナスの危機を幾度となく救い続けてきた。


二つ名『星読みの大賢者』を持つ偉大なる魔術の探求者。


実はルミナス王家の歴史において、四代前からその名を刻み続ける人であり御年256歳という、生命の枠を外れた存在でもある。


しかし、その存在は意外と広く認知されており、その長寿の理由も明確。


彼の最も得意とする木属性のマナによる超高度な命の循環魔術。

長命魔法というユニークな魔術による物だという事は、おとぎ話になるレベルで周知の事実。


何においても規格外。

そんな存在なのである。


そして、その容姿は年相応というか…絵に書いたような老齢で、しわくちゃでちんくしゃで…白い髪と髭を備えた枯れ枝のような身体。

しかし思考も言動もハッキリスッキリ、足腰矍鑠(かくしゃく)

老いてなお精力的な好々爺として有名な人物である。



まぁ当の本人は魔術の研究と占星術に明け暮れており、表舞台に現れることは滅多にないことで有名。


好き勝手に生きている現存する伝説。




―そんな化け物…ちがった。




 クソジジイ。




私は師が用意した急造の魔杖を一瞥する。

どれだけ鑑定してみても粗製乱造で最低限度の用途しか満たさない。


逆にこの品質で私の複合魔術に耐えられる性能は驚嘆に値する。


思わず漏れるため息。



あの別れの日から三日目の朝。


私は非人道的な超高難易度任務を終え、心身ともに疲弊した我が身を全身全霊で癒す日々を満喫していた。


大好きなお酒と共に一日をのんびり優雅に過ごす。

私が望む…謙虚で細やかな贅沢を嗜む予定だった今日という日。



それは厳格で無愛想な老齢の女性が私を尋ねてきたことによって終わりを告げる。



イゾルデ・マグノリア

ルミナス魔術研究院、魔法研究科所属。

「氷晶の大聖堂」の二つ名を持ち、王国所属魔道士序列第二位のトライキャスター。


んで、私の姉弟子。


「貴女…いくら休暇中だからって目覚めて早々にすることが高級酒と珍味の支度っていうのは…あんまりじゃないかしら。」



残暑も過ぎ去り、初秋の気持ち良い風が吹き抜けていく、風通しの良い私のお気に入りの場所。


我がブレイズ家邸宅の庭園、その離れに建てられた開放型のフォリー。


メイドに用意させた珍味の支度も終え、さぁ今日を彩る我が生命の糧たちの開栓の儀とまいりましょう。



そんな最高の瞬間に、マグノリアは水を指したのだ。



「責務を果たし、与えられた休暇を自分なりに最大限楽しんでるだけです。」


「…それはそのとおりだけど…、まだ午前10時よ…?」


「朝食がまだですので。」


「あきれた、あなた寝坊に加えて起き抜けにこのメニュー?」


「特に予定も無いのに寝坊も無いでしょう?それに酒を楽しむのに必要な物は個人の好みに準じた酒肴こそ至高。他人にとやかく言われたくは有りません。」


「だからって…よくもまぁこんな…奇妙な…。」

マグノリアはテーブルの上に用意された奇妙な肴を見て顔をしかめる。

祝賀会にも出ていた、ガレン将軍が絶賛していたアレだ。


私も一つ食べて気に入ったので、わざわざ調べてシェフに再現させた。

アレよりは上品な臭いに抑えさせたつもりだが…。


本場はもっとえげつない臭いらしい。


「マグノリア様。小言を言いに朝からブレイズ家をお尋ねに来られた訳では無いでしょう? まぁ特に用が無いのであれば勝手に酒宴を始めたいと思うのですが。違うのであれば要件を申し上げて頂けませんか。」


私は遠慮なしに姉弟子の言葉を遮り、さっさと要件を伺う。


「…そうね。飲んだくれるまえに間に合って本当に良かったわ。氷水で酔いを醒ます手間が省けるもの。」


醒ますじゃなくて冷ますのでは?


「つまり、寝てようが飲んでようが強制連行という意味で。」


―ああ、嫌だ。


「理解しているようで何より。

ルキウス様が『賢者の塔』にて待っています。支度して出向くように。14時には別件の用事が入っているそうなので、正午までには来なさい。」


絶対ろくな事じゃない。

だが師の命令は絶対だ。


「承知いたしました。酒宴は中止し、すぐに支度いたします。30分ほどでお伺いするとお伝え下さい。」


私は慇懃無礼に言い放つと席を立ち、急造の魔杖を手に取る。


「承知しました。先に塔へ向かい、師の部屋前で待っています。」

姉弟子もまた、そんな私の振る舞いを歯牙にもかけず涼しい顔で踵を返す。


「ああ、そうだ。せっかく用意した珍味を師の手土産に包んでは?貴女によく似て珍しいもの好きですし、喜ぶでしょう。」


珍しいもの好き、の部分をやや強めの口調で言い捨てる。


「それは良い案です。是非そうさせて頂きます。マグノリア様。」


私も仕返しとばかりに何食わぬ顔で流す。


静かなる舌戦。

私と姉弟子マグノリアのいつものやり取りだ。



「ではこれで、失礼するわね。」


そう言ってマグノリアは自身の魔杖を魔術により顕現化させ中空に浮かせた。水平に浮かぶ杖に膝を閉じたまま上品に乗り、そのまま音もなくスイっと空へと飛んでいってしまう。


それを視界の端に捉えたまま私はフォリーの階段へと向かい、そばに控えていたメイドに声を掛ける。


「そういう訳だから、せっかく用意してもらったのに悪いけれども…アレを贈呈用に包んでくれるかしら?あそこに有る中から良さげなのを2本見繕って一緒に準備しておいて。着替えたらすぐに出ます。」


「承知いたしました、お嬢様。」

そういってメイドは私に笑顔で会釈してくれた。


「ありがと、お願いするわね、リディ。」



そういって私はフォリーから出ると、邸宅へと向かう。




師と姉弟子が揃って私を呼び出す。

要件は言わない。


でも私には要件なんて判りきってる。


そもそも事前に命じられていたことだ。



魔王討伐隊のメンバーにおける特異点。

『聖女セレナ・ルミナリスと理力の性能に関する調査報告』について。



私は自室に有る2年分の私見をまとめた報告書を取りに向かう。



―ああ、嫌だ。

 生死をともにした、心から信頼できる仲間を…

 


 こんな形で扱うのは…本当に…嫌だ。


グリーンリーフ村に訪れた不幸は解決。

犠牲を最小限に、その犠牲すらも多くは取り戻されました。


セレナ達はその献身の見返りに何を得るのでしょう。


さぁ、物語はまだまだ続きます。

拙作ですが、お楽しみ頂けてれば幸いです。


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