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救済の聖女のやり残し ~闇と光の調和~  作者: 物書 鶚
第一章 第一部 二人の旅の始まり
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第四十五幕 「外部記憶媒体」

闇の中に光が有る時、それは導きとなるだろう。

光の中に闇が有る時、それは癒しとなるだろう。

深き闇も輝く光も等しく全てを愛する物なり。

暗き闇も裁く光も等しく全てを愛する者なり。


「あなたが光り輝く時、あなたの内なる闇を忘れずに。

 あなたが闇の中に迷う時、あなたの内なる光を見失わずに。」


「二人を疑う訳じゃないんだけど、具体的にはどうしたら良いの?」

気を取り直し、改めてメイが聞いてきた。


「メイの記憶の大事な部分を刺激して連鎖的に励起させて記憶が蘇れば、と思っています。」


「リリス、言い方。」

もうちょっと、何とかならない?


「えっ。」

何かおかしかったのだろうかと不思議そうな顔。


「…まぁ良いけど。私の記憶の大事な部分ってなんだろ…?」


「貴女が『論理の壁』を構築するのに用いた知識の中で、一番根幹を成していたのは何?」

それは最もメイが得意とする所の知識。


「えっと、数字…いや、数式だったり図形だったり。『定理』とか『証明』とかかな…?」

良かった、予測は当たっている可能性が高い。


「なるほど。一番記憶に残ってる、あるいは印象に残っている物を教えてくれる?式でも図でも定理でも証明でもドレからでも良いわ。」

こういうのは慌ててもろくな事にならない、そんな気がする。だからメイの自発的な行動に期待したい。


「一番…ていうのは難しいかも?どれも必要であれば適用・応用するような知識であり、優劣を決めるようなモノでは無いと思うし…。」

一理ある。

というか、感覚で数学や図形を理解するメイにとってはドレも大差がない?


「たとえばです、メイが一番最初に覚えた数式や図形、定理なんかは無いですか?」

リリスが真剣な眼差しでメイに問いかける。

夢見の主導者として思うところはあるのだろうけど、焦る様子は無い。


「一番最初…うーん…最初かぁ。」

メイが遠い目をして考え込むがすぐに答えは帰ってこない。

『思い出』を失った彼女にはやはり難しいのだろうか。


ふと、メイを見上げて疑問に思っていた事を思い出す。


「ねぇ、リリス。ちょっと質問。」


「? なんですかセレナ。」


「なんでメイは『()()()()()()()』の?」


「「えっ。」」

同時に反応された。


「えーと、夢見において当人が具現化される容姿は『当人の深層意識化で形成される自己認識と直近の記憶』によって決定されます。」


「つまり、メイは自分はメガネをかけていてこんな服装だったな。という無意識が反映されているのね?」


「はい、こちらから何かしない限りはそうです。」


「ねぇ、セレナ。もしかして私、助けられた時メガネしてなかったの?」


「そうよ。貴女をここで最初に見かけた時に最初の違和感はソレだったわ。現実での貴女との具体的な差異、服装とメガネの有無。」


「あー…。」

さては気づいてなかったな、うっかり母性むちむち淫魔め。


「えー…。ていうことは現実の私、メガネ失くしちゃった…?」


「服も着てなかったわよ。」


「そりゃまぁ…あいつらの玩具になってたんだろうし…。服なんて邪魔なだけでしょ?メガネも同じ理由かなぁー…。」


「ホント、事も無げに言うわね。」


「あー…メガネを無くしたのは悲しいよぅ。お気に入りだったのにー…。」

眉を曲げながらため息混じりにメイが悔しがっている。


そんなメイを尻目に私はリリスを見つめる。


「…? …あ、そうか!メイ、その眼鏡がなんでお気に入りなのか教えてくれる?記憶の復活の大事なきっかけかもしれない。」


「え。なんでって…これは私が小さな頃からずっと使っていて…。」

メイがハッとする。


「どうやって入手したか覚えていますか?」


「わからない…けど。確かに小さな頃から修繕したり改良したりしつつ大事に使っていた私のトレードマークみたいなもので。」


「きっとお父様かお母様からの贈り物ね。」


「うん…私もそんな気がします。」


「ごめん、思い出せない…。でも確かに小さな頃から大事にしてたことを違和感なく覚えてる。まるで体の一部だったみたいに…。」


「私達はソレを外部記憶媒体、と呼んだりすることがあります。あまりにもその人の身近にありすぎて当人の生活に違和感なく組み込まれている。あるいは周りの人間がソレ込みで当人を認識している。そういう事が夢見ではしばしば起きるので…最初にメイの記憶の形を認識した時から私の中に違和感が消えてしまってました。」


「はー、そうなるのね。だけど記憶なんて読めない私には最初の違和感として浮き彫りになったわけね。」


「リリスの夢見って不思議な魔法ね。リリスには私の記憶ってどんな風に見えているの?」


「えっ、あー。説明が難しいです…。何と言うか、演劇鑑賞のような形でみえるというか…。」

うわ良くない流れ、サキュバスの種族固有魔法である夢見を深堀りされるとボロが出かねない。


「そもそも、人の記憶っていうのは脳内にある記憶領域に保存されているのだけども、我々の技術ではそれを医学や技術で観測する事は出来ないのよ。リリスはそれを魔術的に感覚で読み取ってる感じらしいわ。」

少しわざとらしいかもしれないけどフォローしてみる。


「セレナ、それはちょっと変だよ。観測できないことを脳の領域にあると断定する事は理屈が合わない。リリスが魔術で感覚的に読み取れるのは理解するけども、私の知識に『そんな魔術体系は存在しない』んだけども…。」


やばい、メイは魔術への造詣もある程度あるのか。


「わたしの知識は女神ルミナスより与えられた『理力』を用いる際に必要とされる知識からもたらされたものよ。別に私個人がソレらを観測したり研究したわけじゃないわ。」

これで納得して―


「『理力』…聖女セレナが各地で起こした奇跡のちからの呼び名だっけ?そういった私達の世界にない知識を根底に行使するような力なんだね…?リリスの『夢見』とかいうのも『理力』とは別系統ながらも一定の論理に基づいて構成されている力…なのかな。」

―くれないか。


あー、興味持っちゃった。

これだから『天才』は嫌なんだ。

未知の知識に対応すべく全力で自分の知識をもって比較検証して解明しようとする無意識的行動。


ここでメイの言動を聞いていた時に一番最初に思いついた『嫌な予感』。

メイは私の仲間である『ソフィア・ディ・ブレイズ』と同じタイプ、幼少の頃から稀代の天才魔術師と呼ばれる様な人種、知識に飢えた天才肌なんだ。


このタイプが没頭するとろくな事にならな―


ギュゥ。


痛い、ほっぺを左右同時につねられた。


「はい、そこまでー。二人は脱線の天才ですかー。未知の知識の解明は後にしてくださーい。今は私の話をきいてくださーい。」


「痛い痛い、耳をひっぱらないで!脱線してごめんなさい!」

メイが悲鳴をあげてる。


「ふぁい、しゃふぇりふらいのへひっはらないへふははい。」


「えっ、セレナも両ほっぺ?!私両耳!?」


「ひひふほまふふへ。」


「メイは魔術で引っ張られてるように認識させてるだけ。セレナのほっぺは私が引っ張ってます。」


「ひぇー…凄いなぁ『夢見』本当に指で引っ張られてる感触しかない。」


「はまひへ。」


「セレナのほっぺ、すごくふにふにして柔らかい。癖になる。」


「えっ、ほんと。」


「はまへ。」


「わぁ…新感覚。」


「ねー。」


「ひまいひはまふあお。」


「「はーい、ごめんなさーい。」」


離したと思ったら…ほっぺを揉むな。




しばらくそうしていた二人だが、リリスが私の頬をこねていた手を離したかと思うと…


「さ、じゃぁ私の力で具体的に干渉してみましょうか!」

そういってパッと立ち上がった。


「これから何が起きるんです?」

メイが立ち上がったリリスを見上げながらぽつり。


「私もわかんない。ほっぺ揉むのやめて。」


「メイも、名残惜しいのはわかるけどセレナを離してあげてね。」


「はーい。」

メイが渋々手を離して私の頬を開放した。


ひとのほっぺを名残惜しむな。




「セレナ、準備していたアレを使います。メイの正面を空けてあげて。」

リリスは手招きで私に場所を移すように促す。


「ん、わかったわ。」

状況を理解した私はすぐさまリリスの要求に応じて、メイの包容からスルリと立ち上がる。


「アレ…ってなんだろ。」

ちょっと不安そうにしつつも待機しつづけるメイ。


「怖がらないで、メイ。大丈夫。今から私の魔術で現実世界の貴女の感覚を夢の世界と接続していきます、同時に現実の貴女が手にしている『あるもの』をこの夢の世界に顕在化させます。」


「う、うん。」


「何も抵抗とか、必死に考えたり、思い出そうとしたりしなくても…きっと、大丈夫。貴女の奥底に眠る記憶が、きっとそれを認識して貴女の思い出を少しづつ蘇らせてくれるわ。」


「…はい。お願いします。」



メイの返事を聞いたリリスは、ニッコリと優しく微笑んだ。

そしてゆっくりと両手を広げ、小さく息を吸った後、深く静かに息を吐く。




いつの間にか不思議な感覚が『その場』に満ちているのを感じる。

今までややぼんやりとした触感と、すこしぼやけたような視覚、ちょっとだけふわりとした声が耳に届いているだけだった。


今、この場は形容し難い感覚に『包まれている』様に感じる。

なんとなく、今まであったように感じていた地面が、やんわりとした浮遊感に変わっていた。


体験したことのない感覚。

でも不思議と恐怖や不安は無かった。




そして…ふと顔を上げて私は驚く。


私達3人を取り囲むかのように、数え切れないほどの光が明滅している。

千や万の数どころではない。何千万、何千億…。いや、もっとだ。


これは…満天の星空のような…。


ちがう、よく見ると明滅する大きな光から微かに小さな光が出ている。小さな光は別の大きな光へと不規則な軌道で導かれて…。


数え切れないほどの光が複雑なパターンと立体的な網目を形成しながら、休むこと無くひっきりなしに小さな光が行き来して大きな光がそれに反応するように輝いている。


すごい、圧倒される景色。


あぁ、そうか。


これは『彼女の脳内、ニューラルネットワーク。ニューロンとシナプスの輝き。』を表してるんだ。




涙が出そうになるくらい、美しく幻想的な風景だった。


ふにふにほっぺ。


どこかで手に入らんだろうか?

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