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救済の聖女のやり残し ~闇と光の調和~  作者: 物書 鶚
第一章 第一部 二人の旅の始まり
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第四十一幕 「夢の中での出会い」

使命、運命、定命の者たち

意志、意識、意図せず意に沿わず

大いなる目的に理解は及ばず

よってそれは小さき悩み

「管理者が管理対象に振り回されたらお話にならないものね。」


私はこの空間が嫌いではない。


嫌いでは無いが好きでもない。



私の手の平の上に一人の心が剥き出しで握られている。


掌握した相手の精神体を好きに弄くり回せる万能感。



記憶を覗き、心をまさぐり、私の意のままに()()()()()


拭い難い苦い記憶を呼び起こし、まざまざと見せつけ精神を打ち砕く。


体の芯から蕩けるような快感に漬け込み、骨抜きの傀儡にする。


世界の終わりのような絶望的未来を記憶に焼き付け、心をくじく。


心から守りたいと思っていた者を唾棄すべき醜悪へと塗り替える。



一度手にしてしまえば、赤子を手折るように容易い。




と、()()()()()




したことないけど。

だって私はサキュバスとしての夢見の力を()()したことがない。


私は夢見を父の研究の助けのために用いたことしか無い。

調査対象の記憶を覗き、欲しい情報を集める。


人々の交流と文化を調べ、会話を聞き、真意を把握し、人々が思うところを調査し、心の向かう先を識ること。


「それを知ることが我々を救う鍵になるんだ。」


いつだったか父はそう言っていた。


極寒の死地に閉じこもり、常に同族との勢力争いに明け暮れていた魔族。

時折、他種族の領地へと攻め込んでは筆舌しがたい暴挙の果てにすることは濃厚な負のマナを取り込むために競うように残虐の限りを尽くす。


あんな者たちと一緒くたにされることを煩わしく思った事もある。


だが魔王の娘としての立場が私を律した。


魔王として、父の方法で魔族たちを治めようとする姿勢に、私は小さな頃から羨望を抱き、一端の魔族として活動できるようになる頃には自ら手伝いを願い出た。


父は私の申し出を大変喜び、その時にサキュバスとしての権能を多角的に教えてくれた。

何故か私には「既に知っていることばかり」だったが、使い方としては父の教えは新鮮だった。セレナが治療に見出したように、父もサキュバスの権能を攻撃的な使用方法を避けるように教えてくれた。


さっきも言った通り、知らないわけじゃなかった。


きっとサキュバスの本能として感覚的に使い方を知っていたが、どう使うかは育った環境に依るのだろう。


私は指環の効果もあって、負のマナに対する渇望が無かったし。

父の助けになることを至上の喜びとしてたから興味がなかった。



だから、なんていうか。


今こうしてセレナの役に立つ可能性があることが嬉しい。

昨日まで会ったことも無い人族の女性を救うためにだが、セレナに自分の能力が唯一無二なんて言われたら舞い上がってしまいそうだ。


ほんと、セレナは不思議。

私を信じてくれたことも、私を頼ってくれたことも。


セレナには人族が持ち得る「魔族への根源的な嫌悪感」がまるで感じられないのだ。

というか、セレナはあの悪漢共に対しても誠実であろうとした。

自分たちを犯そうとし、尊厳と命をもてあそぶ無法者に対して?

理力という圧倒的なアドバンテージがある余裕の産物?


違う、力あるものはそれに魅せられずに居られない。


まして小さな女の子が己を律して他者のために自らの力を奉仕的に振る舞えるか?どんな教育を受けたらセレナみたいな凄い子が育つんだろう。


純粋に興味がある。


覗こうと思えばセレナの記憶を覗く機会もあるだろう。

…許可はもらったほうが良いかも?



夢見の同調時は直近の気になることに対する思考の整理が行われる気がする。なんとなくだけど最新の自分を見つめ直すことで他者の精神領域内で自分の殻を保つための行動のような感じと認識している。



つまりセレナのことが気になる。

まぁ不思議でもなんでもない。


なにせ心の底から信頼できる子だ。

私の迷いを打ち払い、未来を照らしてくれた子だ。



そして…は、初めての私の友達。


…だよね?




…さて、そろそろ役目を果たそう。


夢見によって私はメイさんの記憶領域に侵入できてる。

だが、まだ彼女の意識には一切干渉していない。


セレナの予想通り、メイさんは精神的な防御壁を構築しているのは間違いない。今はその壁の外側に待機しているイメージだ。


でもコレもサキュバス的には何も問題ない。言うなれば当人が意識的に引いた隔壁であって、サキュバスにとっては唯の線でしか無い。


記憶領域に干渉するのも、精神領域に侵入するのにも一切影響しない。




では何故、隔壁の外で手をこまねいているかというと…。


「想定外」ってヤツだ。



指環の効果によって私の種族固有魔法である『夢見』が最適化される事は想定していたことだ。

それによってセレナが私の夢見に同行する可能性をむしろ希望していた。


なので今私の傍に難しい顔をして腕を組みながら仁王立ちしているセレナが居ることは、素直に嬉しい。


では何が「想定外」なのかというと。


それはセレナが仁王立ちと腕組と難しい顔の合せ技を披露している原因でも有る。なんなら私もそうしたいくらいに「想定外」だ。



私とセレナの眼の前には一人の人がこちらを見て立っている。


メイさんではない、容姿が一致しない。


当人の精神領域において構成される仮想人格は本人に準拠する、性格も容姿も。当然年齢とか性別とか諸々も。つまり本人がそのまま現れる。


じゃぁ私達の眼の前に居るものは何者だろう。


外見は…10才位の…少年とも少女ともとれる容姿

滑らかに煌めく銀髪、短くも長くもないまっすぐの髪質で後ろで金の髪留めで一つに纏められている。

やや冷淡な印象を受ける目は金色に輝いており、淡白な視線を投げつけてくる。

服装は貫頭衣のようなシンプルな作りで、銀糸の帯が腰を締め付けている。


あ、裸足だ。


なんとなく、雰囲気がセレナに似ている。



凄い私達を睨めつけている気がする。



「…思いの外、すごい状況ですね。」

一向に変化しない状況に耐えかねて、夢見の主導者として状況を進めるために頑張って口を開く。


「本当に仰るとおりです。一緒に入れたらなんてご都合主義、とは申し上げましたけども。謎の人物の追加は完全に想定外ですわ。」

小柄なセレナより更に小柄な謎の人物を睥睨(へいげい)しながら、セレナは零す。


「こちらとしては早く接触したくてね、まだかまだかと機会を待っていたって言うのに…。ほんとセレナは思い通りに動いてくれないよね。」

普通に喋った。

口調は…男の子っぽいけど、少女の声だ。


「…何処かでお会いしたことありましたでしょうか…?」


「聖女モードで喋る必要は無いよ。姿を見せたこともない。でも、キミならボクが何者かは判るでしょ。」


「…幾つか考えている人物が思い浮かんでるけども。正直判断材料が足りないわね。」


「えっ、セレナはこの子が誰か判るんですか?!」

わたしはびっくりしてセレナを見る。


「多分ね。」


「というかリリス、キミとは昨晩会ってるんだけど。」


「え゛っ。」

また驚いて謎の人物の方を向く。


「メイ達を救出に行く前の晩ってことね。」


「そう、本当はそこでセレナとリリスに会う予定だったんだけど。セレナは寝ないし、疲れて熟睡のリリスは寝ぼけててボクの事忘れてるし。」


「つまりはそういう事なのね。」


「どどどういうことですか。」

あああ!二人して勝手に進まないで!おいてかないで!


「私達が出会ったことで条件が揃い、私達が眠ることでしか出会いの場を設けることが出来ない相手。」


「その通り。」


「つ、つまり?この子は??」


「…私とリリスの固有因子…『理力』か『対の指環』に関係する何者か。って予測をしているわ。それがリリスの夢見の力を使って私達の眼の前に現れているってのが現状かしら?」


「その通り。」


「え、えーと?ということはですよ…?」

だめだ、理解が追いつかない。


いや、なんとなく状況は理解できたけど心の整理が!

私、心の整理をつけに侵入した先で心惑わされてるサキュバスだ!


「どちらか、という表現は正確ではないわね。両方が揃ったことによって条件が整ったという見方をするなら…両方に関係する存在。というのが一番的確な表現にあたるのかしら?」


「流石はセレナ。全て正解だよ。」


「ぅう…置いてけぼり…。」


つらい。


「拗ねないでよリリス、私だって大混乱よ。私の想像が正しいならば眼の前にいる人物は…私の『理力』とあなたの『対の指環』に干渉できる能力を有していている。それだけで超常の存在と評価出来るわ。」


「えっ、っていうことはですよ…?セレナの理力と指環の出どころが一緒の何かによってもたらされた可能性が有るってことですか!?」


「「『正解』よ。」だね。」


ハモられた。

ていうかセレナが増えた気がしてきた。


「ということは、この先でアナタと合う可能性が有るってことね。」


「少なくともボクはそのつもりだよ。」


「えっ、それって私の意思による夢見の行使とは無関係に行われるんですか。」


「少なくともボクはその予定だよ。」


「リリス、諦めなさい。コレは普通の物差しで行動する手合ではないわ。」


「「セレナがそれ言うの?」」

あ、やばい。

完全にハモっちゃった。


セレナがすんごい得も言われぬ顔してる。


「あっ、えーと…それじゃぁですね。今はメイさんの治療に専念したいのでー?できればお話し合いは次回にしていただきたいと思うのですよー?」


「それはごもっともなご意見だね。元より顔合わせと自己紹介だけの予定だったし。ボクはコレで失礼する事にするね。」


「だったら自分の名くらい名乗ったら?」

やや引きつった笑顔で気を取り直したセレナが、眼の前の謎の人物に名乗りをするように要求した。


「そうだね…正体とか目的は『まだ明かすな』って()()()()()から教えないけど。名前くらいは良いって言ってるし。教えてあげよう。」


「…つくづく()()()()()。ね」


「それはもう。当然のごとく()()()()()ね。」


なんか、すんごいセレナとこの子仲悪そう?


「まぁいいわ。今後のためにも呼び名くらい教えてちょうだい。」


「いいよ。教えてあげる。」


そう言うと、眼の前の不思議な子は私達から数歩離れてくるりと振り返る。


その直後、突如として何かの威が膨れる。

ふわりと浮き上がったかと思うとまばゆい光がその子から迸る。


「聖女セレナ・ルミナリス。魔王の娘にしてサキュバスの姫リリス。

我は汝らを導くもの、汝らを見つめる者。汝らに使えし者。

来る先、我とともに我らが目指すべきを共に求められよ。

我が名は『ディダ』。我が身と我が意義は後に知るであろう。

どうか両名とも、その日まで健やかに有らんことを。」


そう言い終わると、ディダと名乗った不思議な子は音もなく消えていた。





「…ディダ。ね。」


「不思議な子でしたねぇ…。」


「まぁ、色々思う所は有るけども。個人的に言えることは『ようやっと話かけてきてくれたか。』だけども。」

溜め息をつくセレナ。


「セレナはあの子の正体予想ついてるのですか?」


「ある程度は。」


「はー、相変わらず凄い頭をしてらっしゃる!」

私は感嘆を漏らす。

セレナの溜め息とはまた別の息が口からこぼれる。


「その話もまた今度にしましょ。今はメイの治療が先決。」


「! そうでした、まずはメイさんの治療!」

そういって気合を入れ直すためにも、私は両の腕を掲げるとぐっと拳を握りしめながら体に寄せた。


「頼りにしてるわよ、リリス。」

笑顔を取り戻したセレナが私を肘でつつく。


私も精一杯の笑顔を作ってセレナを見つめながら頷く。



そんな事をしていたら。



「わたしとしても、この状況から抜け出せるなら是非ともお願いしたいところ。ね。」


私とセレナ後ろから声がした。



ビックリした私は思わず身を縮こませてしまう。


セレナは右手を額にあてて、肩を落としながら天を仰ぐ。



「また想定外だわ…。」


セレナがげんなりしたように呟いた。


リリスさん夢見初披露


セキュリティ、ガバすぎません?

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