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救済の聖女のやり残し ~闇と光の調和~  作者: 物書 鶚
第一章 第一部 二人の旅の始まり
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第三十八幕 「本能?」

あなたが こころと まざるとき

わたしの おもいが つうじると

からだと からだは かさなる。


「こんなにも穏やかな気持になれることが有るんだぁ…。」


私はリリスから離れた後、手うちわでパタパタと顔を仰いでいた。

色々と無理に頑張ったせいでほんと顔が熱い。


「父様と一緒に祈ってる時は何も考えてませんでしたけど…。」


おいこらその先を言うな。


「なんかセレナと『願い合わせ』するとすごい照れますね?」


願い通じず。



「慣れてないからでしょ。別にやましいことしてないもん。」


「えへへ、お気遣いありがとうございます。」

なんか凄く嬉しそう。


「せ、先達に(なら)うのは当たり前だから…。」


「でも不安な私を励ますために恥ずかしさを堪えてく…」


「はい!凄く恥ずかしいので言及するのは勘弁してください!ていうか『願い合わせ』って言うんですねー!勉強になりました!はい次!」


なんでサキュバスがこんな純粋な好意を向けられるんだ!


「雑だなぁ…。」

呆れながらニッコニコしとる。


「本当に勘弁して…もう必要なもの準備して行くわよ。」


「まだ時間ありますよ?1時間弱。」


「…といってもやることないしねぇ。」

やることと言えば積み木を持ってメイ達の所へ向かうだけ。

まぁ基本形状を幾つか持っていけばいいと思う。

定理と証明は毛糸で出来るし。



そんな事を考えていたら、リリスから意外な提案が。


「んー。なら『夢見』の体験してみます?」


あ、それはちょっと興味ある。


「魔力消費量とか大丈夫なの?」

本番でダメでしたじゃお話にならない。いくらなんでもそこまでうっかりさんでは無いと思うけど、一応確認。


「サキュバスの生存基盤みたいなもんですから、そもそもの消費は極小ですよ?」

あっけらかんとした様子で笑顔で答える。

そりゃそうか。


「うーん、それならお願いしてみよかな…」


「はぁい。じゃぁソファに仰向けになってください。」

そう言いながらリリスはソファからすらりと立ち上がり、両手でソファを指し示す。


「ん。」

言われた通り仰向けに寝る。


「何か夢で見てみたい風景とかあります?セレナの記憶に干渉するので行ったことあるなら何処でも引き出せますよ。」


「んーとね、じゃぁ…一昨年見たトレードウィンドの港町風景かなぁ。行軍のためにほんの一瞬しか見れなくて凄くがっかりし…。」

喋りながらなんとなく風景を思い出そうとイメージに集中してたら、のそのそとリリスが私に馬乗りになってきた。


「…なにするの?」

突然のことに声が上ずる。


「えっ。『夢見』ですから…ソファで寝るんですよ?」

そりゃそうですけども…そうじゃなくて。


「…なんで私の上に乗るの?」

さも当然のように乗ってくるから一瞬何が起きたか判らなかった。


「そりゃ…私も寝なきゃなんですから、ソファで横並びで寝たら落ちちゃいますし。体を密着させたほうが夢を見せた時のイメージがくっきりするんですよ。なんなら裸で肌を合わせるのが一番です。」

うっわ、流石サキュバス…当然の事をしています、といった振る舞いだ。


「メイにもそうするつもりだったの…?」

思わず声のトーンが下がる。


「え、ダメなんですか。女同士ですけども。」

なんかちょっと不満そう。


「えぇと、ダメではないけど…いや、ダメでしょ…。」

あたまが こんらん してきた。


「えぇ~…せっかくセレナと一緒に風景見れると思ったのに…。」

すんごい不満そう。


「そうじゃなくて、メイに馬乗りになっちゃダメでしょ…。」


「あ、メイさんの方?たしかに、一応負傷者でした。」


ちげーよ。


「そうじゃなくてね…万が一見られた時の事を考えて、あまり過激な姿勢をしていると要らぬ誤解が…。」


「…?」

まったく納得がいってない様子。


「ねぇリリス。あなた人族の性行為の知識はあるのよね?」

魔族の性行為がどんなかは知らないけども、いや人型には違いないだろうから普通なんだろうけど、一応聞く。

混乱してきたから、とりあえず聞く。


「そりゃ二十年間いろいろ観察しましたから…人族の行為に関しても知識ありますけども、これからするのはソレとは関係ないですよ?」


あ、ダメだ。

きっとこのサキュバス、指環の効果と種族本能のせいで性行為という認識の境界がはるか彼方で迷子だ。


さっき言ってた照れはもっと別のナニカだ。

いみわかんない!


「わかったわ…リリス、取りあえず裸も馬乗りになるのもナシにしましょ。」

今はこの場をとりなそう。ていうか、なんか普通にじわじわと全身でのしかかって来てないか、この淫魔は。


「えぇー!?」

超不満そう。

ていうか非難するような不満顔で詰め寄らないで!


「じゃぁ私が下になれば大丈夫ですか?」


そうじゃねーです。


「そうじゃねーです。」

あまりにひどすぎて思ったままが口から出た。


「て、手を繋ぐとか…並んで寝るとかじゃダメなの…?」


「むぅ…、ソレでも出来なくは無いですけども…。」


できるんかい。


「情報は正確さが大事なんですよ?精度が落ちると変な伝わり方をするかもしれません。」


何、もっともらしいこといっとんじゃい。


「そうね、それは認めるわ。でも、ほんっと申し訳ないけども…今回は我慢してくれると助かるわ。」


「…わかりました。メイさんは手を繋ぐ形でやってみます…。」

渋々といった表情で溜め息をつかれた。


「納得してくれて嬉しいわ…、あとそろそろ退いてくれない?」


「えー?!結局『夢見』しないんですか…」

なんで泣きそうなくらい不満顔?


あと顔が近い。

ほんとに近い。



「わかった、わかったから…別の機会で埋め合わせするから…。」

何とかこの場を収めようと我が身を贄に差し出し先延ばしにする。

少なくとも今やることじゃない。こんなんされたら後に差し支える…。


「やった!約束ですよ?」

上体を跳ね上げながら嬉しそうに飛び上がるリリス。


「はい…ワカリマシタ。」

約束が増えてく…ある意味問題の先延ばしなのかコレは?


「んじゃー…時間もぼちぼちアレだから、積み木もって外でよっか…。」

とにかく今はメイの問題を解決することに集中しよう。


「あ、私積み木取ってきます。」

意気揚々と間仕切りの向こうへ小走りするリリス。


「うん、お願いするね…。」

私は妙な気疲れを感じつつ部屋の両扉へと向かった。



まぁ…、ぶっつけ本番で問題が発生するのを避けられたのは良し。ということにしておこう…。




そう考えながら私は扉の鍵を内側から解錠し、扉の片側を開けた。



すぐ左側で立哨をしていたフィンと目が合う。


「調べ物はお済みですか?セレナ様。」


「えぇ、無事…。」


「…休憩は摂られたのですか?まだお疲れのようですが。」


「お気遣いなく、ちょっとあっただけですわ。」


「? はぁ…。」


「セレナー…様。積み木はこれでよろしかったですか?」


「大丈夫かと、ありがとうございます。リリー…ィ様…。」


お互い妙に浮き立っててボロを出しそうになる。



「どうかされたのですか…?随分お静かでしたけれども。」


「どうぞお気になさらず。何もありませんわ。ですよね?リリィ様。」


「はい、ちょっと調べ物に手が込んだだけです。」


「…?」

怪訝な顔をされるが誤魔化して先を促す。


「では、申し訳ありませんがフィン様。皆様の所へ案内していただけますか?」


「あ、はい。承知いたしました。どうぞこちらへ。」

そういってフィンは先に歩き出す。




気づけば廊下もすっかり暗くなっていてランプが幾つか灯されている。

メイの部屋もいつの間にかランプが穏やかな光を放っていた。


あれ、魔導灯なのか。

流石村いちばんの豪商の家だ。



私とリリスはフィンの背中を追って大廊下を戻り、左手の扉に向かう。


フィンが扉を開くと、リアムが室内立哨をしているのがすぐ見えた。



「お疲れ様ですセレナ様。何か有用な情報はありましたか?」


「はい。おかげさまで色々と。リアム様とフィン様も休憩や補給などはお済みですか?」


「はい、我々は携帯糧食で済ませました。」

「休憩も交代で済んでおりますので問題ありません。」


「それは…お気遣い感謝いたします。」

深々と礼をしておく。


「お気になさらず。それと…セレナ様方のお夕食なのですが、ローナがまともな食材が残っていなかったと言うことで、結局緑葉亭に色々頼むことになりました。もうじき届く頃かと。」


「2週間もの間ですから…仕方ありませんわ。お気になさらず。」


「あと、ハーセル夫妻はメイと一緒に部屋の方にいらっしゃいます。」


「お二人は取り乱したりなどしませんでしたか?」


「えぇ、リックの体験をもってメイの回復を確信していたようで。そんなには…ただ、やはり目覚めない彼女を見てふたりとも非常につらそうでした。」


「…忸怩(じくじ)たる思いです。」

リリスのお陰で希望は見えた、でもそれを安易に伝えることは出来ない。

魔族…しかもサキュバスという正体を隠すためにも。



ともあれ、今は少しだけハーセル夫妻をそっとしておこう。




そうして5分ほど待機していたら、村長と村の方々が緑葉亭の出前や結構な量の食材を運んできてくれた。


村長らが遠慮したので、私とリリスとハーセル夫妻でささやかな夕食会を開く事になった。


食事が終わったら、いよいよだ。




窓を見ると外はすっかり暗くなり、気づけば月が出ていた。




まあるい月が白く輝いていた。


いちゃつきよる。


良き。

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