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救済の聖女のやり残し ~闇と光の調和~  作者: 物書 鶚
第一章 第一部 二人の旅の始まり
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第三十六幕 「サキュバスのちから」

あなたの あたまの なかは どうなってるの?

わたしの おなかの なかは どうなってるの?

あなたの こころと わたしの からだが。

とけて まじって ひとつになるの。


「こんなにステキな事ってあるぅ?」


「お、押し倒されるのは流石に予想してないです。」

ワークデスクに仰向けになり天井を見つめながら、『バンザイ』と言わんばかりに両手を伸ばしているリリスが呟く。


まぁ…私も押し倒すのは勢い余ったと思う。

あまりにも嬉しかったので思わず、ね?


「あの…セレナ?いくら淫魔相手だからって時と場所は選ばないと…ていうかセレナが襲うんじゃなくて私が襲う立場で…す。…よ?」


「それ以上たわけた事言うと脇腹と泣き別れになるわよ。」

私はリリスの両脇に掌を添えながら警告する。


「え。あの時点で私がサキュバスだと気づいていて。その後フィンさんに2時間ほど時間を都合してもらっていたので…まぁそれだけ有ればご休憩がてら楽しめるぶぅ。」


話が進まないのでリリスの胸に埋めてた頭を少し下げてみぞおちに『ぼすっ』っと軽く頭突きする。そしてそのまま連続で。


「あんたは!」

「おぶ!」


「わたしと!」

「おぐ!」


「休憩中に!」

「はぐ!」


「何をするきなの!」

「うぐぅ!」


リズミカルに小さく頭突きをする。


「話を変な方向にもっていかないで!あなたの夢への干渉能力でメイを救えるかもって喜んでんのよ!」

顔があっつい。


「だってセレナが急に押し倒すから…」

口をとがらせて不満を漏らすリリス。


「勢い余ったのよ!ごめんね!!」

赤面をごまかすために再度頭突きがてらリリスのお腹に顔を埋める。


「おぼぶ」


「だいたい、サキュバスなんて伝説上の存在っていう位には珍しい魔族じゃない。なによ最後の『えっちな魔族と思われてる』って。アレ要る?」


そーいえば、なんか凄い不満げに言ってたな最後のヤツ。


「おおお腹に顔埋めたまま喋らないで!くすぐったいぃ!」


「あ、ごめん。」

慌てて顔を引き抜く。

すんごいむにむにしてた。


「…父の手伝いで、人族が魔族に対してどの様な印象を持っているか調べる際に、いろんな書物で魔族に関して書いてある内容を見ました。ほぼ全ての書籍においてサキュバス族をエロの権化みたいに書いてました…。」


「あなたは違いそうだけど、実際はそうじゃないの?リリス自身が言ってたじゃない『淫蕩と嫉妬の負のマナを好み精神と肉体の堕落を糧としながら精を貪る。』って。」


「正直解んないです…、指環の効果で負のマナへの渇望を抑えられてる私には理解できない感覚ですし。セレナの言う通り、珍しいんですよサキュバス族って。母様以外の存在を見たことも聞いたこともないんです。他の同族がどの様に振る舞っていたのか知らないのです、私。」


「性欲旺盛な種族って、めちゃくちゃ栄えそうな気がするのにね。」


「父の先王である魔王ガルドリウスの時代には、つまり父様と母様が生きてる時代には結構いたらしいですよ。サキュバス族。」


「ってことは…100年前には…。って違う!」


「そうですよね、脱線してますよね。メイさんをどうにかする作戦会議の時間ですよね。」


「気づいてたなら言ってよ…。」

そういえば、デスクの上で押し倒したので私はリリスに馬乗り状態だ。


「脇腹を抑えられてて逆らえませんでした。」


「…でしたね…ごめんなさい。」

ずりずりと後退りしてリリスとデスクから降りる。

照れ隠しに手を出したのは良くなかった。


「大丈夫ですよぅ。私も突然の事でびっくりしてたので、ちょっと悪ノリで気を紛らわしてました。」

いたずらっぽそうな笑顔で、ちゃんと応えてくれる。


「ちょっと、思いがけない幸運に我を失ってました…。ごめんなさい。」

なので私も誠意をもって。

再度、姿勢を正し一礼を交えつつ謝罪。

とりあえず頭は上げずに。


「…セレナはそういうところ凄い生真面目ですよね。」

ちょっと呆れた声が頭上から降ってくる。


「…まぁその、リリスが指環の効果で種族特性と縁遠かった事を踏まえて、忘れてたことは当然のことなので責められないし…。そのうえで私が勝手にテンション上げて突っ込んで脇腹を人質に頭突きまでしたのは何の正当性もなぁ!?」


私が長々と謝罪を述べていたらリリスが背後に回り込んでそのまま私を抱き上げた。


「さてさて、セレナちゃん。あなたの気持ちはじゅーぶん伝わりましたぁー。今回の件はお互い様ということにしましょー。」


また子供扱いモードかコレは。

なんで毎回背後に回り込むんだろう、ちょっと怖い。


「そうして貰えると助かる…。」


申し訳ないとは本気で思ってるので大人しくあやされる。


「はい、ではコレでおしまい!」

そう言ってリリスは私を抱き上げたままソファへと歩き、そのまま座って私を抱き込んでしまう。


仕方ないので力を抜いてリリスに体重を預けてしまう。


「それで…リリスがもってるサキュバスの種族特性は、正確にはどんなものなの?メイのケースに応用できそうなの?」

心地よい柔らかさと暖かさを背中に感じながら私は聞いてみた。


「そうですねぇ、私達サキュバスはこの能力を『夢見』って呼んでますけども。この能力は『夢に干渉する能力』と言うより『夢で干渉する能力』という方が正確です。


寝ている人が夢を見ようが見まいが、対象の記憶に干渉して夢を見させる。それが悪夢だったり淫夢だったりするんですが、その時に発生する精神的拒絶反応…つまり不安や恐怖、嫉妬や淫蕩の負のマナを取り込むのが一般的なサキュバスの『夢見』の使い方です。


そして、寝ている状態という無防備な対象を『夢見』によって精神的に弱らせたり惑わすことによって高度な催眠状態にし、相手の記憶に干渉することで深い認識阻害をも起こさせ、目の前に居るサキュバスが最愛の者だと誤認させることで現実でも骨抜きにしてしまう。


結果として心身ともに依存した相手を精神と肉体の両方で堕落させてしまい好きなように精力を貪る事が可能になる。


こんなところでしょうか?」


「結構…というか、かなりえげつない能力よね?」


「寝てる間という無防備な状況なので…ほぼ魔術抵抗みたいな事は不可能です。退魔結界でサキュバス自体を近づけないか強制的に対象を起こすなどしないとほぼ確実に『夢見』に取り込まれますね。」


「精神強化系魔術の効果は寝ている人には意味が薄いものね…。」


「そーなんですか?」


「ごめん、またそれちゃう。続けて。」


「いえいえ。…で、えーと。メイさんへの応用の話ですけど。ほぼ確実に『夢見』を使ってメイさんの夢と記憶に干渉することは可能です。そしてその過程で彼女の精神に何らかの影響を及ぼすことも可能です。」


「ほんと?リリスも『夢見』を使いこなせるの?」

思わず顔を上げてリリスを見つめながら言う。


「はい。問題有りません。結構使ったことがありますので。」


「え゛っ」

想定外の言葉に体が固まる。


「といっても、悪夢や淫夢を見せるためではなく。記憶を覗いて色々と調べるためですけどね?」


「あぁ…父君の研究調査協力の一環のためか…。びっくりしたぁ。」

安心して力が抜けた。更にリリスにもたれかかってしまう。


「指環の効果もあってか、考えたことも有りませんでした。嫌な夢みせたりえっちな夢みせたりするなんて。」

リリスが面白おかしそうにニコニコしながら頭を撫でてくる。


「夢の中ではどういう感じで相手に干渉するの?」


「色々できますよー。さっき言った夢を見させる以外にも、対象の意識内で対話することも可能です。自分と相手を第三者的視点で観察できる夢を見させて会話するんです。幻惑魔法で寝ながらにして様々な五感への干渉も可能です、水攻めにあわせる、火あぶりにあわせる。みたいな?」


「じゃぁ夢の中でメイとコミュニケーションを取ることは可能ね?」


「はい、大丈夫です。…ただ、一つ問題が有るかもしれません。」


「…と、いうと?」


「メイさんの精神に干渉するにあたって、メイさんの才能である数理的要素を選択するのは間違いじゃないと思うんです…。」


「ならよかった、夢のプロに言われると安心するわ。」


「夢のプロ…?えっと、で…問題点をあげるとすれば…。」


「すれば?」


「私がそれを理解出来てないと夢の中でメイさんに、ちゃんと見せてあげられない…という可能性が…。」


「あー…。」


「さっき本読んでて頭が痛くなってきてしまいました。」


「すんごい顔してたもんね。」


「はい…。なので不安なのです…。」


「現実に有るものを夢に持ち込む。みたいな事はできないの?本とか図形とか。それこそ彼女の研究ノートとか。」


「多分…無理ですね。外観を幻惑魔法で再現できても中身の文字まで完璧に再現しようとするとそれを理解する必要が有ります。すんごい頭の良いサキュバスなら可能かもしれません。」


「あなたも別に頭が悪いわけではないじゃない。」


「ありがとうございます。でも数字と図形は苦手です…。」


「私も好きではないけど、ある程度は…それでもメイのレベルは無理ね。」


「メイさんの研究ノートちょっとみたんですけども。暗号文見てる気持ちになってきました。」


「でしょうね。…じゃぁ私を、第三者を夢に同行させるっていうのは?」


「それも…やってみないと判りません、というか難しいかもしれないです。


私達サキュバス族は精神への共感性や同調性の高い魔族であることを父様から聞いたことがあります。


私は体験したことは無いですけども、父が言うには母様とそれ以外のサキュバス族達はその高い共感性と同調整、そして『夢見』の種族特性をもって『一人の対象に複数のサキュバス族が入り込む。』みたいなことを可能にしたそうです。」


「…それで何すんのかしら。」


「え、普通に対象を複数で嫐るのでは。心身ともに。」


「それは大変ね…。」


実にあけすけに言うわね、リリス…。

そこら辺の性に対する抵抗の低さは流石サキュバスというわけかしら。


変に想像したから顔があっついんですけど!


「セレナ?」


どうしたの?とでも言わんばかりに覗き込むリリス。


今はヤメテ!



「と、なると…あと残る可能性は『対の指環』かしら…ね。」


そういって、照れ隠しがてら俯いた私は…

抱きかかえるリリスの左手と、自分の左手に輝く2つの指輪を見つめた。

おいだれだ、期待して待ってろって言ったやつ。

濡れ場が始まるんじゃねーのかよ!


って思った方。


これでご不満かね?

このくらいで満足しておいて、弁えたまえ。


彼女達の間に挟まる行為は死へと繋がるぞ。

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