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救済の聖女のやり残し ~闇と光の調和~  作者: 物書 鶚
序章 旅の終わりと、旅の始まり
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第五幕 「王宮前広場にて」

不安だった心が放たれた時


私は泣くのだろうか

あなたは笑うのだろうか


「よろこびたいときは、どっちでも良いと思う」


 民たちは待っていた。


 普段、めったに入ることのない、王宮の正面にある広場は

多くの人々で埋め尽くされていた。

皆一様に王宮を見上げて、何かを心待ちにしている。


ふと、どこからともなく声が上がる。


誰かが宮殿の上の方を指差し、その方に視線が集中する。


広場よりもやや高いところにある円形のバルコニーに人影が見えるとどよめきが起きそれはさざ波のように次第に広がり、轟くように大きくなる。


歓声は無く、ざわめきとどよめきが繰り返されて。

民たちの期待と不安が広場を埋め尽くしていた。


人影がバルコニーの端まで至り。

その人影はバルコニーから広場をゆっくりと見渡しているようだ。


サッと。

の影は手をかざした。


先程のざわめき、どよめきが嘘のように静まり返り。

広場を埋め尽くすヒトの波から音と動きが消えた。



遠くで小鳥のさえずりが聞こえた気がする。



やがて人影は、意を決したかのように。

何かを伝えるために、大きく息を吸い込んだ。


「ルミナスの民よ!余が愛す王国の民よ!

この場に集いし全ての人々よ!」


人影が声を張り上げて語りかける。

その身一つで、精一杯の声量で。

何か大事なことを言おうとしているのだ。


「今日という日を待ち望んだ、多くの人々よ!

余は皆に知らせに来た!!誰もが待ち望んだ報せを告げに来たのだ!!」


広場にいる全ての眼差しは人影へと向けられ

あるいは目を瞑って祈りを捧げている様に見えるものもいる。


「余はこの国の王。エリオット・ルミナリス十三世、

ヴィータス・アミスカス・ディレクティオである!」


「光の女神ルミナスに使え、愛し、その民とともに歩む者!」


「そして!この世界に生きるものとして!未来を目指す者として!」


「女神ルミナスと、祖先と、与えられた名に恥じぬよう!今日まで己の使命を果たしてきた!」


「この場に集いし全ての者よ!そなたらもそうであろう!」


王を名乗った人影は、王らしからぬ言葉遣いで

民たちに必死に語りかけている


「愛すべき大地と、祖先の血と、己の持てる全てをもって日々を生きてきたと、自信をもって未来を作って来たといえる!そういう者たちが集まっていると!

私はそう信じている!!」



民たちの目に同意と誇りが力強く満ちている



「しかし我々は長く、…長く苦しい試練の中にあった。

誰もが望まぬ試練であり、誰もが避けられぬ試練。

多くの血が流れ、多くの命が潰えて、多くの涙が流れたのだ!」



「かの者たちはその残虐なる闇を持って、各地を蹂躙し、破壊した!

命を弄び、未来を蔑んだのだ。強大で、邪悪な、受け入れがたき悪であった!」


「多くのものが失意に打ちひしがれたであろう!己の無力さを呪ったであろう!」


「それでも尚、誇り高き者たちは!諦めること無く!試練へと立ち向かった!」



「子のため!妻のため!夫のため!兄のため!姉のため!弟のため!妹のため!

血族のため!!友人のため!!恩師のため!!誓いのため!!願いのため!!

明日のため!!未来のため!!!」



 もはや王は王では無く、人であり

 そこに集う民とそこにいる一人であった。


「生きとし生けるもの為に全てを賭して生きてきたのだ!そうだろう!」



 いつの間にか王は拳を固く握りしめ、眼の前にかざしていた

言葉は力が入り、握られた拳と腕は振りかざされた


民は声を発さない、しかし真っすぐ王を見つめ頷く


「そして!今日!私は報せを受けた!!」


「その報せは希望であり、私は未来を目指す勇気を得た。」



 王は拳を振り上げ更にきつく結んだ

 かの王は、王錫を持たない。

 必要を感じなかったのだろう。



「皆も見たであろう、我々の未来のためにこの世の地獄へと

挑んだ者たちが返ってきたのだ!!」



「任を果たし、私にそれを告げ、皆にそれを伝えに返ってきたのだ!」


「誰よりも強く願い!誰よりも強く信じた!

誰よりも耐え!誰より多く打ちひしがれた者たちが!

報せを待っている!心待ちにしている!

それを知っている彼らは!それを待っている者たちのために還ってきてくれたのだ!!」


 もはや、民は疑ってなど居ない


王の言葉を、一人の人の言葉を一つ一つ噛み締めている


「さあ!英雄よ!!

魔王を倒し!帰還を果たしその報せを携えし英雄たちよ!!」


「民たちの前へ!!」


 王は全身で歓びを表し

 全力でそれを民へと伝えた。

 両手を掲げ、きつく握りしめ、後背を振り返り

 英雄たちを召喚した。


 五人はバルコニーの端へと歩みを進め

 その身体を民たちの前へと曝した

 威風堂々と、颯爽と、凛とした表情で


「さぁ!さあ!勇者よ!!英雄たちよ!!!

勝どきをあげよ!!!勝利のしるしを掲げよ!!!」



 万の瞳が、万感の思いを一つに、一点に集められる


 勇者がその背部に携えていた聖剣を抜き

 片手でまっすぐと掲げた

 力強く、高く高く、民たちに知らしめるために


 同時に

 魔道士は魔杖を掲げ

 聖女は聖なる杖を掲げ

 導き手のエルフは神弓を掲げ

 守り手は大いなる盾と魔斧を両手で掲げた


 瞬間、大気が震えた

 民たちが一斉に声を上げ、歓声を上げ、英雄を称えるため

 喉が裂けるのも厭わず声を上げたのだ。


 王宮が震え、広場は揺れ、大気は弾けた。


 突如空に大輪の花が咲く

 爆裂音を響かせて色とりどりの火花を散らせ

 幾度となく打ち上がる花火


 王も勇者も聖女も導き手も守り手も

 驚いて空を見上げた


 魔導士は笑いながら、魔術を行使し

 次々と空に大きな華を咲かせる


 民は飛び跳ねながら歓び空を見上げる

 抱き合い、笑い合い、泣き合い、踊り合っている


 王と英雄たちもまたそれぞれが見つめ合い、空を見上げて笑い合うのだった…



かくして英雄の偉業は広場を離れ、通りを抜け、城壁を越え、国中へと告げられた

 …さぁ、今夜は宴だ!



かくして王は、民に告げた

『悪は討たれた』と


「じゃあ私はどうしたら良いのか」

「私が愛したあの人はどうすればよかったのか」


視点の違いが色々な物語を産むんですねぇ

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