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救済の聖女のやり残し ~闇と光の調和~  作者: 物書 鶚
序章 旅の終わりと、旅の始まり
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第四幕 「謁見の間」

王様はずっと待っていたんだと思う


英雄が還ってくるのを


王様はずーっと待ち望んでたんだと思う


民たちに告げることが出来るのを


「民から望まれない王もまた、何かを待つのかな。」


—謁見の間

師と英雄と兵たちは帰還を果たす。

白亜の扉はゆっくりと閉じていき、重い音を立てた。


静寂が訪れる。

ガレンとマグノリアは音もなく身を沈め

王へ平伏の意を示す。


5名の英雄たちも師にならい

王への平伏の意を示すために、その身を屈めた。

兵たちは新たなる守護の任が有るため姿勢を維持し微動だにしない。


「魔王ザルヴァドス討伐隊、ただいま帰還いたしました!!」

静寂を打ち払うかのように大きな声が謁見の間に響く。

レオンが平伏の姿勢のまま、声を張り上げた。


王は既に立っていた。

彼らが入城し王の眼前へ帰還を果たす、その前から。

帰還した者たちを迎えるため。

悲願を成し遂げた者たちを労うため。


英雄たちの帰還を王自身もまた心待ちにしていた。


そして静かに厳格な笑みを浮かべながら口を開いた。


「よくぞ帰還した。英雄たちよ。

そして彼らの師たる、ガレン、マグノリア。

我が兵たち。

みな、それぞれ。己の役目をよく完遂してくれた。」

王の言葉が部屋にひびきわたる。


「魔王ザルヴァドスは彼らの手によって討たれ。

長く続いた大戦も、ようやく終わりの時を迎えつつある。」


王はゆっくりと左右を見回し、参列者へと視線を送る。

「また、同盟軍として。

英雄たちのために一丸となって共に前を目指してくれた

…エルフ族とドワーフ族の皆にも感謝を捧げる。」


「両国の代表として、この場に来賓していただいた皆様といっしょに、英雄を帰還の時を迎えられたことを心より嬉しく思う。」

左右に参列し、王の言葉に静かに頷く各国代表もまた立ったまま彼らを迎えた。

また、英雄と共に戦った一族を迎えるために。


「しかしならが、未だ魔族たちの残党は抵抗を続け。

かの地で任を続ける者たちが数多く残っている。」

王は少し上を見上げ、思いを馳せるかの様に振る舞う。


「だがしかし、この者たちはたったの五名でかの極地を進み続け。眼前の魔と対峙し、戦い、また歩みを止めず。魔都へと至り、魔王城の深部へと辿り着き…。」

王は視線を下げ、英雄たちへと顔を向ける。


英雄たちは面を伏したまま微動だにしない。

「そして、見事魔王を討ち果たした。

…汝らの行いが疑うこと無く成し遂げられた、余は確信しておる。

故に、ただ今は…今この一時はその偉業を共に祝いたいと思う。」



「勇者レオン、面をあげよ。」

王が静かに命ずる。


「はっ!」

勇者が顔をあげ、その傷有る顔を王へと視線を向ける。

その顔には満願の思いが湛えられ。

王の言葉に打ち震えているかのようだ。


「汝は、師ガレンによって見出され、その才を示し。

ドワーフ族よりもたらされた輝く剣を携え

如何なる試練にも挫けること無く進み続け。

見事勇者としてその任を全うした。

汝の偉業、誠に見事であった。」


「ありがたきお言葉、感謝いたします。」

レオンは応えた。


王は小さく頷き顔を少し右へと動かす。

「大魔道士ソフィア、面をあげよ。」


「はっ」

大魔道士はその顔を流れるように上げ、自身に満ちた表情を王へと向ける。

その顔は王の次なる言葉を待ち構え、期待に満ちていた。


「汝は若くして大魔道士の称号を収め、その才を持って万の敵を討ち滅ぼした。『炎嵐の指揮者(えんらんのしきしゃ)』の二つ名に相応しき、その類まれなる魔術の才能。

大賢者の弟子として、見事に役目を果たしたと言えよう。

汝の天賦、誠に見事であった。」


「過分な評価、恐れ入ります。」

ソフィアは応えた。


王はまた小さく頷き、逆側へと顔を向ける。

「聖女セレナ、面をあげよ。」


「はい」

セレナは静かに顔をあげ、小さな微笑みを浮かべる。


全てを受け入れる様に済んだ瞳を王に向け、次の言葉を待つ。

「女神ルミナスの導きにより、この地に奇跡をもたらし

光の抱擁(ひかりのほうよう)』をもって数え切れぬ命を救ってくれたこと。

汝の慈愛に、女神ルミナスの深い愛に感謝を捧げよう。

そして仲間を支えるため、その小さき身で良くぞ旅を耐え抜いた。

汝の行い、誠に見事であった。」


「女神の導きに感謝を。

この身に余るお言葉、もったいなく思います。」


王は深く頷き、また右を向き。

長身のエルフへと視線を送る。

「エルフの民、賢樹の守人シルヴィア。面をあげよ。」


「は…」

シルヴィアはゆっくりと顔をあげ、自然な表情で王と向き合う。


迷いなく向けられる瞳には全てを受け入れる柔らかさを湛え、王の言葉を待つ。

「大森林エメラルドグローブより遣わされ、我らが同盟の誓により。汝は、その『神弓(しんきゅう)』の腕をもって如何なる魔をも退け、仲間を導いた。精霊たちも汝の愛に答え、様々な導きをもたらしたと聞く。汝の氏族と精霊への愛、誠に見事であった。」


「精霊と運命のめぐり合わせに、感謝いたしております。」

王は小さく頷き、右に居る参列者へと顔と身体を向ける。


「そして、この様な急の召喚に応じて頂き遠くシルヴァ大陸より、この瞬間をともに迎えてくれた。

貴殿らエルフ族の気遣いに、心からの感謝を伝えたい。」

エルフ族の参列者は少し硬い眼差しで王の言葉に頷く。


「我々の間には古く暗い歴史があり、未だ癒えぬ遺恨が残る。

…だが今日という日を堺に、新たなる時代へと歩んで行けることを期待したい。」


そう言って王は左へと身体を向け、巨躯のドワーフへと視線を送る。

「ドワーフの民、堅牢なる盾グラム。面をあげよ。」


「はっ」

グラムは大きく、強く、だがしかし悠然と声を発し。顔をあげる。


憮然とした様に感じられる険しい表情だが、その目には強い意志と信念が溢れ王へと向けられている。

「汝は、その大地より授かりし巨躯を持って、如何なる悪意をも退け。曲がらぬ信念をもって立ち続けた『不動の黒鉄(ふどうのくろがね)』よ、仲間と、その後ろに待つ者たちを守り切った。その類まれなる膂力と精神力、誠に見事であった。」


「この身の意味を、示せたことに安堵しております。」

王も力強く頷き、左に控える参列者へと身体を向ける。


「そして、西の大地アイアン大陸よりお越しいただいた。

ドワーフ族の皆にも、感謝を述べる。

貴殿らの技術、その身体に流れる鉄と炎無くして此度の勝利は成し得なかったと信じておる。」

ドワーフ族達は無言で、一斉に左拳を自分の胸へと叩きつける。

ドンッ!と重い音が王の間に響き渡る。

無骨で乱暴だが、彼らが敬意をもって応えたことの証である。


「此度の大戦が終われば、兵器では無く、豊かな恵みと新たなる技術が

 我々の間に行き交い、明るい未来が訪れることであろう。

 その時を待ちわびている事を伝えたい。」

「そして…」


王は謁見の間全てを見渡しながら声を大きくした

「この場にいる我が家臣達、兵たちよ!」


「ルミナスの剣として!ルミナスの知恵として!

 ルミナスの意志として!ルミナスの光を信じる者として!

 よく今まで余についてきてくれた!

 汝らと共にこの時を迎えられた事、心より誇りに思う!!」

皆一様に王へと熱い眼差しを送り、次の言葉を待ち続ける。


「さあ英雄たちよ!

 共に民たちの前へと参じよう、

 最後の役目が待っている!

 先に征く!民達の前で落ち合おう!」


王は力強く声を上げ、ロイヤルガウンを翻しながら振り返ると

玉座を離れ奥間へと消えていった。



「守備兵隊!構え!」

いつの間にかガレンもマグノリアも立ち上がって扉の方に半身を向けている


将軍の号令に百名の兵たちが再びハイ・ガードの構えを取り

一斉に中央を向く。


「英雄たちと、参列の方々をお守りせよ!」


隊列がまた一糸乱れぬ動きで行進を初め、先陣を務める。


扉は再び開かれ、兵たちは進んでゆく。


英雄と同盟の参列者達は兵に続き。


残った兵は彼らの殿を務めるために後へと続く。



—旅は終わり、王への報告も終えた。

   さあ、民達の前で時の声を上げようではないか。


誰かのやったことの責任をとりたくないのであれば


誰かがやってくれた事を喜ぶことはできないのかもしれない


誰もが出来ないことをやってのけたら


誰もがあなたを褒めてくれるだろか?


そうではない世界でないことを祈りたい。

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