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救済の聖女のやり残し ~闇と光の調和~  作者: 物書 鶚
序章 旅の終わりと、旅の始まり
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第三幕 「王城にて」

偉業を成した英雄が

民たちの前を馬車に乗って王城へと向かいます


きっと誰もが喜んで、英雄たちを祝福しています

ここには『悲しんでる人』なんて『居ない』


「『光』は本当に英雄を照らしているだけでしょうか?」


—通りには民たちの歓びが満ちていた


—皆が手を力いっぱい振り


—皆が精一杯声を張り上げている


—英雄への感謝を伝えるために


—紙吹雪や花吹雪が舞い散り


—風に乗りながら吹き荒れて大通りを彩っている




—英雄たちは民たちの思いに答えるべく


—手を振り、笑顔を振りまいた



—熱狂の中にあっても隊列は乱れず


—粛々と英雄たちは大通りを進んでゆく


—やがて馬車は王城への門へと至り


—王城の門は英雄たちのために開かれる


—英雄たちは王城へ至り、中へと導かれ


—静かに門は閉じられた…





「すごかったね…」

レオンが閉まった門を振り返って呆然としている



「割れんばかりの歓声とは正にあの状況を指す事だな」

グラムが嬉しそうに頷く



「民たちにとって、待ち望んだ瞬間ですからね…」

シルヴィアが続けて答えた



「あ゛ー、耳がキンキンする」

ソフィアが少しげんなりした様子で耳を覆ってる



「…無理もありません、今日という日を思い、…誰もが必死に苦しみに耐えてきたのです。

 皆それぞれ、思うものが込み上げてくるに違いありませんわ…」

聖女は少し遠い目をして皆に続いた



「うん、そうだよね…」

レオンはもう一度扉を見つめ直し、去来する思いに少し動けずに居た

皆も同じく、閉まった扉を見つめていた




「ようこそ、英雄の皆様。

王と参列者の皆様がお待ちでございます。どうぞこちらへ。」

低く力強い、良く通る声が背後から聞こえた。



レオンと良く似た格好で白銀の鎧にマントを装い。

少し白髪の混じった茶髪の壮年の騎士が声を掛けてくる。


—懐かしい姿だ。


「ガレン将軍!!!」

「久しいなレオン。」


声の主に驚いたレオンがガレン将軍と呼ばれた男性に駆け寄る。

「お久しぶりです、お元気そうで!」

レオンが少し緊張した様子で軍隊式敬礼をする。


—ガレン・デ・ヴァローレ公爵—

ルミナス正規軍の将軍であり、王国近衛騎士団所属。

「ガレン・ストームブレード」の二つ名を持つ国内随一の猛者

そして、彼ら魔王討伐隊の武術訓練を担った

つまるところ、レオンの師匠にあたる人物だ。


「ご無沙汰しております…。」

「将軍自ら迎えとは、随分と歓迎されているようだな。」

シルヴィアとグラムも向き直る。


「御二人も…、ここまでレオンを支えていただいた事。心より感謝する。」

将軍は柔らかい笑顔で、3人を代わるがわる見つめる。


2人は静かに頷く。



「将軍、語らうのは後にしてくださいませんか。皆さんお待ちになっています。」

今度は凛とした女性の声だ。


やや老齢ながらピシリとした真っ直ぐな姿勢

ソフィアの物と良く似たデザインの、しかし青みがかった黒いローブに身を包み

おなじく青黒いショルダーマントに刻まれた紋章は鮮烈な青と金で彩られている。



「げっ」

「マグノリア様!」


—イゾルデ・マグノリア—

ルミナス魔術院、魔法研究科所属。

水と風と土の属性を操り「氷晶の大聖堂」の二つ名を持つ王国所属魔導士序列第二位のトライキャスター

セレナに魔術に関する教えを説き

ソフィアの姉弟子でもある


「セレナ様、お元気そうで何よりです。ソフィも相変わらずで安心したわ。」


再会の喜色を浮かべたセレナに対し、苦虫を潰したような顔をするソフィアを

マグノリアは一瞥して言う。



「将軍と私で皆様を王の前へお連れします。

 さぁ、急いで。」

「うむ、さあ我々に従って進んでくれ。」

ガレンとマグノリアは横並びになり、やや間隔を開けた状態で歩き始める。




—かくして英雄たちは、王城へと至り。

懐かしの師との再会を喜ぶ。


師は英雄たちの旅路に加わり、最後の道を示す。


二人の師は、背筋を伸ばし。姿勢をただしたまま。

静かに、しかしながら導くように歩みを進める。


エントランスを抜け、中央を貫く回廊は奥へと続いている。

回廊には青を基調に豪華な金の刺繍をあしらった柔らかな絨毯が敷かれ

左右には豪華な意匠を施された大理石の柱が規則正しく並んでいる。



レオンは少し緊張した面持ちで二人の後について歩き

自然に絨毯の中央に位置取り。

セレナとソフィアも引き締めた表情で

それぞれが自然とレオンのやや後ろを左右に並んで歩き出す。

長身のエルフ、シルヴィアはセレナの左後ろに。自然な笑顔で歩み続ける。

大男のドワーフ、グラムはソフィアの右後ろに。悠然とした表情で歩みを進める。



英雄たちは、二人の師に続き歩き出す。

少し不揃いではあるが、力強く、まっすぐ前を向き進んでゆく。

連携の取れた動きは自然と隊列を成し、それは戦場での衝角の陣を思わせていた。



回廊の奥には重装の近衛兵達が長剣を携え、左右に均一に列を成していた。

二人の師と五名の英雄が隊列の端へ至ろうかと言う時。


誰の合図もなく、一糸乱れぬ動きで長剣を正面に掲げ「ハイ・ガード」の構えを取る。

剣が鳴り、鎧と鎖帷子の擦れる音が回廊に響き渡るも、一切のズレも無い。


英雄の帰還を待ち望んでいた兵たちは、逸る気持ちを抑えて彼らを眼前へと迎えた。

この先、彼らが王の前へと至るまで我々が英雄たちの殿を務めることとなる。



英雄たちは、頼もしい兵たちが自分たちの最後の旅へ参じてくれることに安堵を覚える。

援軍の兵たちの顔を見て、その勇姿を見届けようとしたが。

皆一様に兜を被り装面しているため表情は見えない。


だが、なぜだろう。

その重装の兵たちは歓喜の気配を全身にみなぎらせ。

英雄たちに熱い視線を向けていることが感じて取れる。


さあ!剣を掲げよ!

英雄の帰還を守護する任を全うすべく。

希望の象徴の最後の旅路を守り通すべく。


二人の師が、大きな大きな扉の前へと至る。

直前まで扉からは小さなざわめきが漏れていたように思えるが。

今は、しいんと静まり返っている。



少し間を置いて、将軍が言葉を発した。

「お連れしました。」


決して大きな声では無いが、力強く、はっきりとした口調で。



がちゃり、と音がした後。

扉はゆっくりと、静かに開き始める。

その動きを見つめ、誰もが息を潜め佇んでいる。

師も、兵も、英雄たちも。



白亜の大扉が開ききった直後、扉の向こうの部屋に声が響き渡る。


『レオン・ヴァーレンハルト殿!

 ソフィア・ディ・ブレイズ殿!

 セレナ・ルミナリス殿!

 エルフ族シルヴィア・グ・ウィネリン殿!

 ドワーフ族ゴル・ダグ殿!

 —到着されました!!』


再び重装の兵たちが統一された動きで腕を天へと伸ばし、高々と剣を構えている。

見れば扉の向こうにも同数の兵が左右に部隊を展開させ

皆一様に剣を掲げ、英雄たちを待ち構える。


兵が剣を掲げると、室内からファンファーレが鳴り響く。

英雄の帰還を高々と知らせるため。



喇叭の音に合わせ、二人の師は同時にき出した。

五名の英雄たちも師に続く。


近衛兵が剣を掲げ、寸分の狂いもない剣によるアーチを形成。鎧の音が響き、英雄たちを迎える。



眼前の兵たちは英雄たちへ敬意を歓待を捧げる為に道を造る。

希望の象徴が王の元に報告に来たのだ。

その瞬間の時まで、英雄の守護の任を全うしなければならない。


後ろでは回廊に整列し、英雄たちが王の間へと至り、

自分たち帰還を守護を終えた兵たちが一斉に剣を下ろした。

ハイ・ガードの構えにて大きく前に踏み出し、そして英雄たちへと向き直り

一糸乱れぬ動きで行進を始め、彼らの帰還の旅路へと加わる。



二人の師と五人の英雄は、ついに王の間へと至り。

歓待の兵たちもまた自分の任の終わりが近いことを知る。



二人の師と、五人の英雄たちは目的の場所へとたどり着き、その歩みを止めた。

後続の兵たちは歓待の兵たちと並び、歩みを止める。


直後、歓待の兵たちは掲げていた長剣を一斉に下ろし。

後続の兵たちに倣う。



英雄たちに続き帰還した仲間との再会を歓び

また自分たちも任を終え、帰還の途へ加わる。



四列縦隊の兵団は一拍の後、左右に向き別れ、再び前を向き。

長剣を下ろした。ここまで全ての動きはただの一度も乱れること無く完璧にこなされていた。


英雄たちは全ての旅路を終え、師もまた導きの任を終えた。

兵たちはその全てを見届けた後、その剣をようやく収めた。

かくして、二人の師と、五人の英雄と、百人の守護兵たちは全ての任を終え。

王の前へと至ったのであった。


旅を終え、凱旋を終え、遂に王の前へと帰還をはたしました。


次に始まるのは王様からのありがたーいお言葉


…眠くならないでください。

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