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救済の聖女のやり残し ~闇と光の調和~  作者: 物書 鶚
第一章 第一部 二人の旅の始まり
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一章 「異界談義・上」

この「異界談義」は、本編の外側から世界を覗く、ひとつの視点です。

ただのフレーバーテキストとして味わうもよし、新たな思考の糧として深読みするもよし。

すべてを皆様の解釈にお任せします。


どうぞ、お楽しみください。


「そうね、神々の声が集まらないのであれば。身内を頼ってみるのも手かしらね。」


『彼女』はそう思って例の『別の何か』を手繰っていた。




この呼称にも問題が有る。

記号を与えるとしよう。


虚空の指先(こくうのゆびさき)』。



判るものには取るに足らず、知らぬものには奇異なる指先。




『彼女』は『虚空の指先』から手を離すと窓を眺める。


程なく、窓には『彼女』の目的の景色が浮かび上がるのだ。



糸が繋がり、意識が届く。


『彼女』は時折こうして繋がりの向こうの何者かと世界を共有していた。


糸の繋がりを介さずに会う事も有ったが、その時は自らのお気に入りの世界を送ったりもしたものだ。


世界を貪る者たちの交流。




一章、異界談義。

外なる者たちの品評会が始まる。




「拝見いたします。」

『彼女』から世界を受け取った何者かは、そう返事をする。


「何か矛盾や欠けた所が見つかったら教えて。本当に何度見直しても見つかるのよ。小さいモノから大きな異常も含めて。この『世界』はちゃんと生きていて勝手に形を変えながら私の心を逆なでしているのではないか、とさえ思うわ。」


やや投げやりな態度で『彼女』は愚痴る。


「…これは■■様がお作りになった世界ですか?」


「そう。私の創った世界です。」


「それはそれは…大変お疲れ様でした。ありがたく拝見いたしますね。」


「有り難いものかは知らないけれども、是非感想を聞きたい所ね。」


「もちろん。」


「良い返事で嬉しいです。」


気兼ねなく交わされる会話。



と、ここで『彼女』は思い出したように付け加える。


「…あぁ、それと。他の身内にはこの事は伏せておきましょう。色々と面倒そうです。」


「承知しております。創生の産物を近しい者に見せるのは気恥ずかしいモノですから。無用に騒ぎ立てる方も居そうですし…ま、私もしっかりと隠し仰せてます。」


「あら?あなたも何かの世界創生を?」


「ご存知無かったですか?隠せるものなのですね。偉いぞ、私。」


「そういわれてみれば…いつだったかの【新たなる時の集い】にで逢った時に言ってたかしら?」


「そうでしたか?」


「口が硬いと物覚えがおぼろげになるものですね。」



そんな他愛のない会話。

しばしの間。



「そうそう、この世界。実は別の『協力者』からも手を借りてます。幾つかの要素の構築にアドバイスをもらうなどしてね。一応、その方にも矛盾など無いかを確認していただいてますけれども。」


独り言かのように『彼女』は話し続ける。



「…ほんと、こんな事を一人で『全部』やるなんて、正気を疑います。」


そんな事を呟く。



しばらく後。


「この時代設定に剣と魔法。良く有るファンタジーな世界に我々の医学的要素を組み込むのは面白いですね。雰囲気を損なわない程度に仄めかしつつも謎として物語に組み込んでらっしゃるのは良いかと。

主要人物達の構成も王道ながら個性的。硬派な感じが印象的です。

大国の王が親しみのあるキャラも持ち合わせていて…他の人物もしっかりと性格の作り込みがなされていると読み解けました。

時折挟み込まれる、幕間の言葉が思わせぶりで…この先何が起きるのかという不安が漂っているのも良いエッセンスかと。」


何者かから返事が届く。


「あら、大絶賛のようで。

どんな感想が出るか不安に思っていたから、心から嬉しいです。」


『彼女』の顔に小さな微笑みが浮かんでいる。


「ほんとうに、どなたからも声が上がらず不安でした。

あまりにも不安で、夜も七刻ほどしか寝てませんでしたよ?

良かった。」


しっかり寝れている。


「同意します。世界創生にかかる心身への負担たるや。形を完成にまで持っていくその過程が一番苦労いたします。それを披露した暁に届く『感想』こそ創作者が求めてやまない一言なのでしょう。同好の士達も声高に申し上げてます。

故に、無から全てを作り上げて物語を紡ぎ、命を吹き込み世界を創造できる方々は『神』とされるのでしょう。」


「えぇ、先達の神々の偉大さを噛み締めてます。

それで、構成要素への不満や違和感はないのかしら?言い回しが難解過ぎるとか詩的すぎるとか。」


「それについては…細かな所についてですけれども。

 ■■様の創生環境のせいもあるのでしょうけど、所何処に妙な途切れが散見されたり区切りが不自然だったりする印象があります。」


何者かが品評を始める。


「私、基本的に小窓から拝見してるのですけども。構築規格の差異からか一見した構成要素に違和感を覚えます。■■様の環境での構築完了後に、一度閲覧規格を変更して構成要素の確認をしてみるのも良いかもしれません。」


「なるほどねぇ。」


「専門的な創世器を用いているのであれば自動補正がある程度望めるのでしょうけれども…昨今の神々は如何なる器を用いて世界創生を行っているのでしょう?」


「わたしは最初の頃は適当に目についた備忘録用手帳に手癖でいい加減に記していましたけれども…。最近ようやく●●製の書器を用いる様になってます。構成作法の稚拙さについては…ほんとうに悩ましい所ですけども、こればかりは経験と知識の結実ですから、無いものをひり出そうとしても無理が有るかと。誤りと矛盾の修正に追われて精神が引き裂かれそうになります。

専任の構成官でもつかない限り、そうそう治る物でもないかと。」


「一応把握されている、という事ですね。では致命的な異常や矛盾を目にした時はお知らせいたします。」


「それは心から有り難いです。

 明け方まで作業していて新編を【神々の観覧台】で披露した時に…構築したはずの要素が2つ3つごっそり抜け落ちていたのを見つけた時には睡魔の恐ろしさに戦慄したものです。」


「楽しいのは判りますが、無理をし過ぎると品質を損ないますよ。

とは言え、己の創作物を見直すのは非常に辛酸たる思いが満ちて来るのは理解できます…作りあげる道すがら行き詰まり、一時置いて再度見直し、修正し…完成へと至らぬ負の円環へと陥ってゆく。

そう考えると、作り上げた物を世に出す事は…最も尊き行いなのかもしれません。」


「創作の神々の導きを渇望しますね。」


「■■様の世界における表現の重さについても、厚みや深さが世界観に合っているかどうかであり、私個人の好みとしては大変良いかと思いますよ。

情景がありありと目に浮かびます。

他の■■■産まれの『世界』を拝見することが有りますけど…『戯典』を見てから『原典』を拝見することも有るのですけども、表現の軽さに驚く事があります。これについては好みの問題でしょう。話半分に聞いて頂ければ良いかと。」


「残りの半分は気遣いですね。」


「寄稿先の雰囲気や土壌みたいなものも有るでしょうし。」


「わたしの協力者からは別の【神々の閲覧台】にも寄稿してはと言われましたけども。■■■■にでも試しに披露してみましょうか。」


「反応に違いが出ると面白いですね。」


「ええ。」


「にしても、女の子二人旅ですか。」


「尊い。」


「まことに。」


「男女の旅は関係の深化が必然的に恋愛描写になるので面倒です。」


「別に男女で恋愛を超えた相棒に至ることも有るのでは。あ、いえ。やはり面倒ですね。その描写が無いと不自然かも。」


「それに清き百合の間に挟まろうとする者は『死罪』と世界が認めております。実に迷いなく、流れるように処せます。とっても便利。」


「げに。」


「それと、別に彼女たちを恋愛関係に浸らせる気も有りませんし。」


「別に良いのではないですか、浸らせてあげても。実年齢に差が有って見た目に差がある二人…良いですね…。」


「えぇ、それはもう魔王の娘は素敵な…。」


「素敵な?」


不当な読み進め(ネタバレ)をご所望で?」


「気になりますわ。」


「後で判ります、大人しく見ておきなさい。」


「あい。」


「待つことも貪食には大事なスパイスですよ。」


「あい。」



その後も『彼女』と何者かは物語について語り合う。


聖女の能力について、登場人物の成り立ちについて、彼らの戯れについて、その後の展開について。近しい者たちが語らう気兼ねのないやりとりは続く。


演目を語り、評し、尋ね、答える。


ひとしきりの談義を終えて、ふと『彼女』が思い立つ。


「そういえば、あなたとのやり取りも物語の一端に描きたいのだけれども。許可を頂ける?」


「ええ。」


「あら、快諾。神々の目に晒される訳だけど?」


「御随意に。」


「素晴らしい器の大きさで。」


「ああ、どう貪られ、咀嚼され、吟味されるのか。とっても愉しみ。」


「余裕ありますわね、流石■■■。」


「どうせ神々の目に触れたとて、判り様もなく装われるのでしょう?」


「ふふふ、何かご希望はある?私の『世界』の端くれに顕在化するあなたは一切合切を自由自在に形作れるのよ?」


「えー…、そんな急に言われましても…。」


「そこは悩むのね。」


「ではグンディをモチーフに。」


何者かから糸を通して意識が届く。

…なにやら毛むくじゃらの獣が鎮座している。


「なんですコレ。」


「鳥のエサ。」


「あぁ…面白いセンスをしてるわね。」


「かわいいでしょう?」


「まぁ…そうね、悪いようにしないわ。

 『コレが読める頃には決めておきましょう。』」


「わーい。」



そうやって気兼ねないやり取りは区切りを迎える。

『彼女』はこのやり取りを文字盤にて綴り、虚空の指先を用いて自身の書庫へと仕舞った。




その時に『何者か』の名を書き換える。



『エシーラ』


とある言語の星の名『アル・シーラ』に由来し、星読みの学者達が呼ぶ所の「夜空で最も明るい星」を意味する。

古い言語では「リーダー」や「毛むくじゃらのもの」という意味も。


『彼女』はほくそ笑む、


「私に最初の外界から光を『読者』として指し示した『毛むくじゃら』鶚のエサ。出来すぎな位にぴったりの名前。」



こうして『彼女』の顔には何度目かの小さな微笑みが浮かぶ。



一章 異界談義。

ひとときの間、その『場』は閉じられる。


「異界談義」をお読みいただき、ありがとうございます。

この抽象的な眺めが、本編にどんな影を落とすか—あるいは何も落とさないか。

フレーバーとして軽く流すも、物語の謎を解く鍵として扱うも、すべて読者の皆様に委ねます。


続きの本編でお会いしましょう。

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