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救済の聖女のやり残し ~闇と光の調和~  作者: 物書 鶚
第一章 第一部 二人の旅の始まり
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第二幕 「セレナとリリス」

言葉は力を持っている。

力は戦うことにも守ることにも使える。


適切に使われない言葉は、力を失う。


「なので『言葉選び』は大事です」


「……?」


リリスはポカーンとしている。

セレナの渾身の処世術(しょせいじゅつ)、見事外れる。


—こ、こいつ。

 せっかく私がっ!


「あ、あのね…?

これから二人で旅をする…、ので良いのよね?…ね?」

あまりにも要領を得ないリリスを見てセレナまでもが不安になる。


「…はい、だと…思います?」


「ぎ、疑問形なのね。」


「私も、昨晩話した通りです。

何をどうしたら良いかさっぱりですので…。」


そういえばそうだった。

と、いうことは彼女が持ってるはずの「研究手帳」は研究資料の集大成というわけではないのかも知れない。


「ならとりあえず、何をするにしても情報ね。

これから二人で旅をするにあたって情報を集めることを目的にするのが良いと思うの。」


ふんふんとリリスが頷く。


「…それでね。

とりあえず情報を集めながら、私の使命の方を片付けながら…って方法を取りたいのだけど…良いかしら?」


「セレナさんの、使命?ですか?」


「そう、私の聖女としての使命。旅の先々で困っている人を助けて回りたいの。その上でリリスの目的に役立ちそうな情報を集めて回る。有用な情報が見つかったらソコへ向かい、その先でも何か有れば対応していく。このサイクルを基本として旅をしたいの。」


ふんふんふんとリリスが頷く。


「それでね?貴女と私の関係性を不自然じゃ無いようにカモフラージュする必要があると思うの。ここまでは良い?」


ふん!と大きくリリスが頷く。



「で、まずは言葉遣い。私が世間から聖女と呼ばれている事を加味すると第三者の前で敬語なのは構わないわ。

でも貴女と私は対等でなければならないと思うの。普段の会話まで敬語なのはちょっとやり辛いわ。だから何とかならない?」


あー…!と言った具合に納得して手を叩くリリス。


—よかった、コレで何とかなりそう。

恥ずかしい思いをしたのは無駄にならなかった…

あんな媚びる様な振る舞いは本当にムリ。



そう想ったセレナだったが、リリスの答えは違った。



「ごめんなさい、セレナさん。

私、人族の言葉を勉強するにあたって父から教材をもらった上で自主学習で習得したんです。」


セレナの目が点になる。


「なので私はこの喋り方しか出来ません。この口調で日常会話なら一切遜色ない程度に話せる自信はあるんですけれども…。

砕けた会話?というのはちょっと体験も知識もなくって一朝一夕にはいきません。」


—そうだった、彼女は「魔族」だった。

あまりにも自分の記憶にあるソレと全てが乖離していて考えから完全に外れていた…!


「そう…だったのね?それに、しても。随分と流暢に丁寧語で会話するのね…。どんな教材だったの?」


「はい!『今日から使える便利なビジネス会話全集!

丁寧語から謙譲語までありとあらゆるシーンで有用な社会人必須の教本!全三巻!』です!」


—うへぇ、最悪な資料。


何やら聞き覚えのある教本の名前を聞かされて嫌な記憶が蘇る。

ともあれセレナは答えた。


「なるほど。それで貴女はそこから丁寧語を習得した、そして普通の会話に関しては知識も体験もないから暫くの違和感は我慢するしか無い。そういうことね…?」


「そう…なるかと思います。ご迷惑をおかけして大変申し訳有りませんが…。どうぞよしなに…」


「ことさら丁寧に謝罪しないで。

あなたさっきはもっと砕けた謝罪したじゃない。」


頭痛がする、と言わんばかりに頭に手を当てながらセレナは言う。


「えへへ、ちょっと私なりの冗談を織り交ぜてみました。」

照れ笑いをしながらリリスがおちゃらけた。


—このコ、案外強かなのでは?


ジトーっとした目を向けながらセレナは思った。



「それで、ですね。セレナさん。」


「セレナ。」


「…はい?」


「セレナで良いわ。」


「…えっと?」


「敬称をつけなくて良いって意味よ。丁寧語が変えられないのならせめて呼び捨てで呼ぶくらいはして頂戴。それなら貴女の知識と体験の範疇で収まるでしょ?」


「えー…っと、はい。分かりました。

よろしくお願いします。…セレナ。」

少し照れくさそうに言うリリス。


「『わかったわ。よろしくねセレナ。』

はい、繰り返して。」

セレナもちょっと照れながら言う。


「…わかったわ、よろしくねセレナ。」

更に照れながら繰り返すリリス。


「はい、よく出来ました。」

にこりと笑顔で返す。


「「…」」

会話が途切れて見つめ合う二人。


しばらくの間を開け

「「…っぷ」」

二人は同時に吹き出した。


「あははは!よく出来ましたって先生ですか!」

「ふふ!仕方ないじゃない、少しずつ覚えてもらわなきゃ!」


けらけらと二人の少女の笑い声が、川の畔に響いていた。




  太陽は昇り、日が差している。



  小高い丘の向こうから差し込む光が

   爽やかな風とともに二人を包みこんでいる。



  聖女と魔王の娘。

   奇妙な組み合わせの二人を

    自然が優しく包んでいるかのようであった。


出会って間もない二人が旅をともにすると言うことは

途方もない障害が存在するのでしょう。


少しずつ少しずつお互いを知りながら先を目指すのが良いと思います。

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