第一幕 「朝の目覚め」
目が覚めた時、心が軽かった事に気づいた
目が合った時、心がホッとしたことに気づいた
「知らない誰かを信じることがこんなにも…」
「ふぅ。」
川の冷たい水で顔を洗い、さっぱりした顔でセレナは息をついた。
少し重かった頭が、靄が晴れた様にすっきりする。
ベルトに挟んでおいた手ぬぐいを取り顔を拭く。
寝ずの番だったが特に問題もなく、少し硬くなった身体をぐいぐいほぐしながら空を見上げた。
「んー!今日もいい天気になりそうね!」
明け方の清々しい空を見上げて独りごちる。
「う…んっ」
その時、背後から小さなうめき声がしてセレナは振り返る。
どうやら彼女が起きたようだ。
もぞもぞと起き上がる彼女から毛布代わりに掛けられていたセレナのローブがずり落ちる。
寝ぼけ眼で辺りを見回し、セレナと目が合うと
「…あっ。」
と、小さく声をあげた。
—あっ。って何かな。
そう思いながらセレナは声をかけた。
「おはよ。」
「…おはようございます。」
「こっちきて顔を洗ったら?スッキリするよ。」
爽やかな笑顔で朝の身支度を提案する。
「…はい。」
どこか居心地が悪そうに立ち上がると、しずしずとセレナの方に歩き川の畔へ立つ。
ぱしゃぱしゃと彼女が顔を洗う音を聞きながらセレナは辺りを見回した。どうやら周りには人影は無く、今日も今日とて快適な旅が期待できそうだな。と、旅の行く末に思いを馳せる。
「ぷぅ」
顔を洗っていた彼女が顔を上げ止めていた息を吐きながら口から間抜けな音を漏らした。
—この子は…、アレか、顔洗う時に息を止め続けるタイプか。
…ちょっとかわいい。
なんてことを思いながら手に持ってた手ぬぐいを差し出す。
「はい、これで顔ふいて。」
「…ありがとうございます。」
濡れた顔のまま、ぱちくりと目を瞬かせ礼を言う。
ごしごしと顔を拭う姿をじーっと見つめながら興味深そうに彼女を観察しているセレナ。
やがて顔を拭き終わった彼女は手ぬぐいを見つめた後。
「ありがとうございました。」
といってセレナに手渡した。
「どーいたしまして。」
「ねてる間に診たけれど、特に異常も無かったわ。
気分が悪いとかも無かったかしら?」
渡された手ぬぐいをぱんっと払い、軽く畳みながらセレナは彼女に尋ねた。
「え…。あ、はい。大丈夫、…です。
お気遣い有難うございます。」
「別に気遣うって程のことはしてないわよ。
ずっと独りで付いてきてたんでしょ、大変だったろうに。」
「えぇっと、…はい。」
—この子はちょっと口下手なのかな?
畳んだタオルをサイドポーチにしまいながら思う。
「あのっ、昨晩はすみませんでした。
ろくに話もできずに、泣いてしまって…。寝てしまって。
ローブまで掛けて頂いてありがとうございます。」
—お、ちゃんと喋れるじゃん。
「きにしないで、貴女の苦労は判ってるつもり。
緊張が解けて疲れがどっと押し寄せたんでしょ。」
「はい、そう言って頂けると助かります。」
—なんか喋る所みると、すごい丁寧な子なんだなぁ
なんて事を考えていて、セレナはふと思い出す。
ポーチの蓋を締め魔王の娘に向き直る。
彼女もまた、ずっとセレナの方を向いており、二人は向き合う形で顔を合わせた。
「初めまして、私はセレナ。
セレナ・ルミナリス。」
そう言いながら右手を差し出した。
ぱちくり、と魔王の娘は逡巡したあと
あっと小さく声を上げてセレナの右手を握り返す。
「初めまして、リリスと申します。
…我々は姓を持ちません。リリス、とお呼びください。」
そういって笑顔で返す。
「よろしく、リリス。」
セレナも笑顔で返した。
—自己紹介、忘れてた。挨拶は大事。
「あのっ、それと。
一晩中ずっと番をしていただいた様で
ご迷惑をおかけして申し訳有りませんでした。」
「構わないわ、旅は慣れてるもの。アレくらい平気よ。」
「はいっ。えっと…。
それと、身体を診て?頂いて?有難うございます。」
「それもへーき。
暇だったし、私の回復役としての癖みたいな物よ。
気にしないで。」
「はいっ。ありがとうございます。
それとー、えっと。…あー。」
—間が持たないのか、考えがまとまらないのか。
大丈夫だから落ち着いて。そう言おうとしたセレナより先にリリスは話しだした。
「昨晩は、本当に有難うございました。
…父のこと、私のこと。…その、うまく言えないんですけど。
本当に嬉しかったんです。」
すごく安心した表情で、リリスは言った。
「…そう、なら良かった。」
すこし面食らった表情をしてセレナは答えた。
「それでっ、あの父の事をお話させて頂きたいのですけど。
宜しかったでし」
「ちょっとまって」
セレナがリリスの口を手で制すように止め、周りを見渡す。
んぐ、っとなって何事かとセレナと周りを見渡す。
「その話は歩きながらにしましょう。」
セレナもまた周りを確認しながら言う。
「…は、はい。」
セレナが見ている方を見ながら腑に落ちない様子でリリスも頷く。
「ごめんなさいね、貴女と色々話したいことは有るのだけれども。ここで立ち話も何だし、何より不用意に話して良いことでは無いでしょ?多少なりともひと目につかない場所で話したいの。」
声のトーンを落としセレナはリリスに耳打ちするように言った。
「あっ、はい。そうでした。
申し訳有りません…。」
自分の浅慮に気づいたリリスは少し落ち込んで謝罪する。
「いいわ。
私も言葉足らずだったし、ごめんね。」
セレナは少しはにかみながら続けた。
「それと。」
「…はい。何でしたでしょう?」
リリスは首を傾げる。
「その口調、もうちょっと何とかならない?
なんか他人行儀で、…その、ちょっと悲しいわ。」
すこし照れながらセレナは言った。
こんにちは こんばんは ごきげんよう
皆様
挨拶は基本。だいじ。
始まりました第一章、何やら強い波動を感じつつ書いております。
色々と悩みながら。
これで良いのか。
悪いのか。
悪いこたないか。
「引き続きの拙作ではありますが、楽しんで頂けたら嬉しいです。」




