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救済の聖女のやり残し ~闇と光の調和~  作者: 物書 鶚
第一章 第一部 二人の旅の始まり
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序幕 「シスターの迷い」

新たなる旅は希望と共に不安を予感させます


それは旅立つ者にも見送るものにも等しく訪れます


「でも、一人で無いのなら、きっと大丈夫」


朝早く、まだ日の出後間もない頃

礼拝堂で一人のシスターが跪いて祈りを捧げている


女神ルミナスの象徴である光と大地をモチーフにした

輝十字(きじゅうじ)と弧を象ったレリーフが祭壇に掲げられていた


シスターはその前で、かれこれ30分じっと祈っている


ふと、シスターは祈りを止め顔を上げた

その顔は不安気で迷いのマナが見て取れる



「おはよう、シスター・クラレア。

貴女の毎朝毎晩の祈りは女神ルミナスの敬虔なる徒として必ずや導きと助けをもたらします。」

突如、後ろから声が掛かりシスターは振り返る。


「…マティアス大司教様。」

クラレアは振り返って目の前にいた大司教にすこし驚く。


「女神の導きと慈愛に感謝いたします…。」

マティアスに向き直り、祈りの所作を捧げた。


「オゥミナ、我々に導きのあらんことを。」

彼もまた祈りの所作を捧げる。



「…浮かない顔をされていますね、何か悩み事でしょうか?」

シスターの顔をみてマティアスが質問した。


「セレナ様の事を想っておりました。」


「そういえば見送りに行ってくれたのですね、我が子の為にありがとうございました。」


「いいえ、私が望んだことです。」


「…娘が発つ時に何かあったのですか?」

伏し目がちなクラレアに対して、再度マティアスは尋ねた。


「不安と、心配が拭えないのです…。」


「あの子の一人旅の事ですね?」


「はい、そうです。

…マティアス大司教様、本当に聖女様は一人で大丈夫でしょうか。たとえ彼の地を耐え抜いた英傑だとしても、彼女はやはり年端もない少女です、余りにも多くの試練が彼女に降りかかる気がしてならないのです…!」

縋るような声でクラレアは訴えかける。


「どうか…どうか今からでも、私を遣わせて聖女様の供として旅することをお許し願えませんか!」

心配からか彼女の目にはうっすら涙が浮かんでいる。


「…貴女の心遣いに、父として心から感謝します。貴女の深い慈愛に彼女も助けられる事でしょう。」

マティアスは少し考えて、そう答えた。


「では…!」

クラレアの顔に光が指す。


「いいえ、貴女が娘の供となることは許可することは出来ません。貴女もまた若い乙女であり、多くの悪意に晒される危険な身なのですから。」

遮るように、マティアスは言い放った。


「…仰るとおりです、マティアス大司教様。

しかし、私はこのまま聖女セレナ様の無事を祈るだけでは、不安と心配で押しつぶされてしまいそうです…!」

ますます目に涙を溜め彼女は訴える。



「…あなたの心配と不安、心から察します。

しかし彼女は聖女として救済の旅を望み、そして彼女の信仰の徒として試練の為に一人旅をすることを選んだのです。貴女はそれを否定するのですか?」


「っ…。」

クラレアの顔には悲壮感すら漂い、今にも泣き出しそうなほど。


シスターの顔をじっと見ていた大司教は少しの後

輝十字を見上げて目を閉じた。


「しかし、私も一人の父として。あの子の旅路が易からぬ物である事を承知した上で許可を出しました。私自身も不安で有ることを否定できません。」

静かな表情をしているが、眉間には少し皺が刻まれている。


シスターはじっと耐えながら大司教の言葉を待っている。


「ですが、これは我々にとっても試練であり。彼女を信じ待ち続けることもまた女神への信仰となって我々の道となるのです。」


しかし、やはり大司教の言葉はシスターの望みとは違うものであり彼女の心配を消し去ってくれることは無かった。


再び大司教はシスターを見つめて言った。


「どうか耐えてください。彼女の無事を祈ってください。女神ルミナスの導きが有ることを願っていてください。私も祈ります、私もまた願い続けます。

かつて、聖女が魔王の居城へ趣き己の使命を果たすためにその身を地獄へと投じた覚悟と信仰を我々が信じ、我々が祈り続けた様に。彼女が一人試練に挑むことを認め、信じて、祈ってください。」

少し悲しそうな顔で、しかし強い信仰の意志を表した。


「うぅ…、マティアス様。どうか…どうか女神ルミナスの慈愛と、導きと守りが、聖女セレナ様の旅路と試練にありますように。」

遂に彼女は涙を零し、しかし耐えながら祈った。


「オゥミナ、貴女の強い心と安らぎが女神とともに有らんことを」

ゆっくり、力強く、大司教は同意を示した。



涙を流し鼻を啜り上げながらクラレアはそのまま祈りの姿勢を保っている。その姿を少しの間マティアスは見届け、そして跪いたあと彼女と共に祈った。


二人以外誰も居ない礼拝堂で、ただ静かに祈り続け。

大事な者の安全を祈り続けていた。


しばらくして、共に向き合い祈っていた二人。

クラレアのすすり泣く声も聞こえなくなった頃、マティアスは立ち上がり静かに声をかけた。


「さぁ、シスター・クラレア。立ってください、今日の我々の務めを果たしましょう。信仰の徒として、祈る者として、また信じて待つ者として日々の暮らしを過ごしましょう。」


すっとクラレアは立ち上がってマティアスを静かに見上げた。

目は少し腫れて鼻も赤くなっている、だがしかし強い意志がその目には宿っていた。

「はい、ありがとうございました。」


そういって、クラレアは深くお辞儀をしたあと静かな足取りで礼拝堂の出口へと歩き出した。


マティアスはその後姿をじっと見届けた後、輝十字を見上げ呟く。


「…どうか、女神の導きの有らんことを」



荘厳さを重視した序章は終わり

テンポを上げたい第一章が始まります。

でも外せない事も色々あってもどかしい。


序章の終わりに色々散りばめました。

一章の始まりには控えめにそっと置いておきます。


物事には順序ってゆーなんかが大事だそうです。

大変だ。


読んで頂いてる方々、感謝します。

引き続き楽しんで頂けると幸いです。


あ、あと。

ご意見やご質問をですね!是非!

お待ちしております!!

何でもは出来ませんけれども!!!

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