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救済の聖女のやり残し ~闇と光の調和~  作者: 物書 鶚
第二章 次なる場所
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第一幕 「二人きりの夜」

どうしても触れたくて怖がりながら手を伸ばす

それでもあなたは受け入れてくれる、心から嬉しくて甘えてしまう

こんなに心地よい気持ちになれることを母は知っていたのだろうか

だから私がここにいるのだろうか。


「だとしたら、私は最初から幸せな存在だ。

 例え、過去と未来にどんな苦しみがあろうと。」


しとしとと雨が振り、肌寒い空気が肌を通り抜けていく。

秋雨というにはやや勢いが弱いものの、野営をするには厄介な雨。


頭上に貼られたタープに雨粒が当たり、とつとつと小さな音をたてている。


タープの下には野営のかまど。ぱちぱちと薪が爆ぜる音を鳴らし、焚き火の炎が鍋の底を舐めている。その鍋の中にはほかほかと湯気をあげながら煮込まれている食材たち。


私はやや濃い目の味になるように、調味料を入れつつ味を確かめる。


ふむ、こんなものかな?




グリーンリーフ村でルーカスから旅道具一式を購入したお陰で、こんな生憎の天気でも気軽に野営を行えるのは本当にありがたい。薪も一晩火を焚き続けるに十分な量が集まったし、火もしっかり起こせたので暖も取れる。


自分一人だったら一晩の野営にここまで気を使うこともないのだが、今はそうもいかない。

旅の共柄が一緒に居るし、何ならその方は一国のお姫様だ。

粗野(そや)な暮らしで体調を崩されては申し訳ない。


全力でお世話せねばなるまいて。



などとアホなことを考えつつ、私はリリスが来るのを夕食を準備しながら待っているのだ。風に乗ってペミカンスープの香りが鼻腔をくすぐるたびに、私のお腹がグゥと音をたててしまう。


ちなみにリリスはテントの一角でシャワー中。

例の携帯型温冷式水浴び魔導具を使っての入浴だ。


野営だってのに魔術的適性がなくても水に不便することもなく、しかも風呂まで入れる。これは旅人にとって物凄い話だ。これは間違いなく魔導工学の恩恵。凄く便利。


正直いうと私としては、旅の途中で風呂に入れないなんてことは珍しくもないし。状況によっちゃ1、2週間入れない事もざらにあった。極寒の死地で2年もそんな暮らしをしてたから2、3日風呂も水浴びができなくても気にもならない。



でもどうやらリリスはそうでもないみたい。


野営の準備が整ったら私に料理を任せて、嬉々として入浴しにいってしまった。ゆえにリリスはどちらかと言うと「お姫様」なのだろう。


ただし、うっかりムチムチ淫魔のお姫様だけど。



そんな事を考えつつ、鍋をゆっくりとかき回していたらテント内の水音が止み、程なくしてリリスが中から出てきた。



「シャワーありがとうございました。とってもすっきりしましたよー。」


秋口の外だと言うのにやたらと薄着のリリスが頬を上気させながらテントの出入り口から出てきた。


薄手の生成りのロングシャツというか、ワンピースの成り損ないのような格好というか……湯上がりで汗ばんだリリスの身体にフィットして彼女の肉感あるボディラインを浮き上がらせてしまっている。



シャツの下には例の新開発の下着を着用してるようだ。

つまり透けちゃってる。


なんで無駄にエロくなるのかな……。



「リリス、貴女その格好で寒くないの?」

彼女の油断しきった格好に思わず非難気味の声と顔で突っ込んでしまう。


「セレナ、私はダーク・ノヴァ出身の魔族です。このくらいで寒がってたらふかふかのベッドの中で凍死しちゃいますよ?」


そんな事言われても。くらいの態度で反論されてしまった。


言われてみれば彼女は常時極低温の絶氷の地の出身者で、しかも身体は生物の頂点たる性能をもつ魔族だ。風呂上がりの初秋の雨夜風など、心地よいくらいなのかも知れない。


「確かにその通りね。どうもまだ貴女との価値観の差が埋めきれてないわ。」

私はため息混じりにそう零した。


「そうはいっても……私とセレナはまだ会って話してから8日目です。こんなものでは?そりゃ私のことを気にかけてくれるのは嬉しいですけども。」


何故か凄く嬉しそうな笑顔でそんなフォローをしてくれるリリス。屈託のない笑顔で素直にそう言われるとほっこりするやらむず痒いやらで妙な気分になる。


「ま、いいわ。食べて寝ましょ。」

「はぁい。」


そうして私達は二人で焚き火に当たりながら、器によそったスープに焼き締めたパンを浸して食べた。


「んふふ。おいひ。」


「ペミカンはちょっと脂の獣臭が強いけど、ハーブもしっかり練り込んであるから香り豊かで味わい深いわよね、このスープにして食べるの好き。」


「あの少年達の気遣いが()もってる気がします。とっても。」


「ヴィトとフロルね。ああいう次世代がちゃんと育っている村っていうのは、見ていて安心するわ。」


「……セレナは幾つになるんでしたっけ。」


「え、15ということになってる筈だけど。」


「次世代側の年齢じゃないですか……なんで既に次代を見守る側みたいな発言してるんですか。もっと若々しく居てくださいよぅ。」


「……それ、旅の仲間にも言われたわ。『心が老け込んでる』って。私ってそんなにかしら?」


思わず手を止めて真剣な眼差しでリリスを見つめ、そう質問する。


「う……悪いことではないと思います。かっこいいし。考えなしにバカやって迷惑かけるような若者よりは良いと思いますけども……」


失言だったか?と言った風に視線を外しつつ、それでも答えてはくれるリリス。



「けども?」


「せっかくこんなにちっちゃくて可愛いのにもったいないです。」


「……褒められたと受け取っておくわ。」


「セレナならもっと可愛くなれますよ?」


「可愛い事に重きを置くつもりはないから遠慮するわ。」


「私、じつは可愛いセレナが見てみたくて!」


「急にグイグイ来るわね……貴女のいう所の『可愛い』がわからないから協力は難しいわ。私自身、今まで清貧な暮らしを強いられてきたから、そこら辺のセンスは自信ないし……」

「じゃぁこんどの街で可愛くしましょう!」


「食い気味ね。ていうか発言のたびにジリジリ寄ってこないで、スープがこぼれそうで危ない。」


「……否定しない!良いんですか!?」


「別に断る理由がないけども……本当にセンスないからがっかりするわよ?」

「じゃぁ磨きましょう!夢見で色々試せます!!」


また食い気味。

ていうかもう完全に体が密着する位置だ。


「ああ……そういう。つまりリリスが色々な服の知識があるってことかしら?そういえば、メイと一緒にあなたのドレスルーム見た時、すごかったわね。トルソーとかズラーッと林立して色とりどりのドレスや衣装が……」


あのデカい鏡のあるドレスルームはかなりの広さで、しまうのが難しいドレスが並ぶだけでなく、クローゼットが幾つもあった。

あの中に色々な衣類が入ってるとすれば、そうとうな数になるわけだし。リリスはいろんな服を着るのが好きなのかも知れない。


なんて事を考えつつ話していたのだが。

ふと隣が静かなことに気づきリリスの方を見ると


……急に意気消沈してる?


「どしたの。」


「私……背が大きくて、こんなんですので……可愛い服が絶望的に合わないんです……。地肌も褐色ですから、なんというか本当にもう可愛い服が着れなくて。」


「急に冷めるじゃない。情緒の乱高下は心身に毒よ?」


「……正直セレナの可愛らしい容姿が妬ましいです。」


「まっすぐ妬まないでよ。私だってリリスみたいな女性らしい豊満な身体が欲しいわよ。こんなちんまくてガリガリで肉も脂ものってない身体は、これから大人になる身として割と絶望よ?」


「そういえば、メイが言ってました。理力の使用による影響でセレナは華奢なんだって。」


「お。さすがメイ。正解よ。私は理力の使用によって慢性的に自身の身体に溜め込む生命エネルギーを消費するから、無駄な脂肪はほぼ付かないわ。体が不調になるほどの痩せぎすにはならないけども、ね。」


「むむむ、けしからん身体。」


「同じ理由で、筋肉も成長しづらいの。そもそも私は筋力を増加させて身体能力を強化している訳ではなく……性質、性能そのものを変化させてると言ったほうが正しいわ。だからムキムキの筋肉も育たない。」


「なんと、うらやましい身体。」


「つまるところ、私は大食いで寝るの大好きだけども、太れない身体ってことね。」


「なにか女として……どす黒い感情が湧いてきそうな予感がします。」


「指環があって良かったわ。」


「うぇーん、セレナがずるいよぅ……うらやまけしからんですぅ……。」


そういって泣きべそ顔で私にもたれかかってくるリリス。

器をしっかり水平に持ってるあたり、まだ正気なのか。

そういう戯れ方だろう。


「ま、私もあなたも無い物ねだりってことね。不毛だわ。」


「そうですねー…」


本気で気落ちしてるのか判断に悩むくらいには、心底残念そうな消え入りそうな声で同意するリリス。


見ていてちょっと気の毒になる。



「ほら、あとで夢見中に着せ替えに付き合ってあげるから元気出しなさい。」

そういって私は食事を再開する。


こう言っとけば機嫌も治るでしょ。


「ねぇねぇ、セレナ……」


「んー?」

すぐ隣から呼び声がかかり生返事をするものの、続きの言葉が来ない。もぐもぐと咀嚼(そしゃく)しながら相変わらずもたれかかっているリリスの方を向いた。


すると唇が触れそうなくらい近くにリリスの顔。

凄く潤んだ目でじっと私の目を見つめてくるリリス。


理力感知と魔力感知によって増強された知覚により、状況は常に把握してるものの……あまりにも悩ましげな瞳に一瞬硬直する。


ごくり。


と口の中にあったものを飲み込んでから、ふれそうな唇を警戒しながら口を開く。


「近いわよ。」


「抱っこしていいですか。」


「唐突にサキュバス性を発露しながら妙な発情の仕方をしないでくれる?対応に困るわ。」


「セレナが可愛くて優しいので。」


「理由もわけがわからん。」


「何か、私の中で……目の前の可愛いくて優しい物体を全力で愛でろという魂の叫びが鳴り響くのです。」


「余計わからんわ。」


「本能の慟哭です。サキュバスとしての野生が暴走しそうなので助けてください。」


「真面目な顔して目を潤ませながらアホな事言って助けを乞わないでくれる?どれが本意か判断できないわ。」


「全部。」


「スゴいわね、迷いなしの即答じゃない。……まぁ食事が終わるまで待ってて、貴女も終わらせてから――」


そう私が言いかけるやいなやリリスが動く。


ばくん!と大口を開けて硬めの焼き締めたパンを一気に口内に収め、その状態のままスープの入った器を煽り、中身を具ごと口に流し込む。


もももも!と頬を膨らせたまま高速で咀嚼すると、ごっくんと嚥下(えんげ)してしまう。


「終わりました。抱っこしますね?」

豪快な食事を終え、すぐさま私の眼前に再最接近して、なにかのたまう淫魔(サキュバス)


「私も目的のためにスゴい食事法をしたことのある身だから、(うるさく)くは言わないけども。もう少し落ち着いて食べなさい?」


「抱っこします。」


宣言すなや。


「いいけど。食べかす、ちょっと付いてるわよ。唇左下。」


泣きぼくろ見たく香辛料の粒か何かが付いてるのを指摘する。

私の発言に反射するかのように、即座にリリスの舌がベロリと伸びて、器用に口周りを舐めて綺麗にした。


ひぃ、舌なっが!

ちょいこわ!


「綺麗になりました?」


「なんなのよホント……変なことはしないでよ?」


「抱っこしてギューってしたいです。」


「……変だけどリクエストには応じるわ。」


「んふ。」


そう言って満面の笑顔になりながら立ち上がり、鼻息荒く私の後ろに回り込むリリス。なんかもう、仕留めた得物を目の周りをのしのしと歩いて所有権を主張する猛獣みたいだわ。


私はそんな興奮気味のリリスに呆れつつ、スープの器を一旦地面へと置いた。どうせこの後の展開は予想がつく。


「では、失礼します。」


そういってリリスはいつものように私の脇下に両手を挿し込むと、スッと持ち上げて自分の体に抱き寄せると、私のいた場所に座ってしまう。


「無礼はマネは止めてね。」


「善処します。」

「厳守して。」


「はーい。」


そういって身体を密着させて私を嬉しそうに抱っこするリリス。腕の動きは自由だけども体が全然曲げられん。


想像以上にしっかり抱きついてくるじゃないの。


「ねえリリス。このままだと器が取れない。」


「はぁい。」


そう言ってニコニコ笑顔のリリスはスラリと長い右手を伸ばすと、私が置いた器を手に取り、自分の側へと置いた。


あれ、渡してくれると思ったら寄せただけ?


なんて思ってたら、唐突にリリスは左腕を動かすと私をくるりと回転させる。腰を軸に90度方向転換させられた。


何が起きてるんですかね?コレ。


驚いて目を剥きながらされるがままに状況を見守る。


リリスは左腕で私の背中を支えながら右手で器を取り、そのまま左手に持ち変える。木製のスプーンで中身を掬うと、ふーふー息を吹きかけて冷まして私の口元にもってきた。


「あーん。」


「あーん。じゃない!何ナチュラルに給餌してんの!?赤子か私は!」


目の前にある匙を揺らさないように注視しつつ、リリスの腕に身を委ねたまま私は声を張り上げた。



「?」


「小首を傾げないで。ねぇ、ちょっと本当に正気?」


匙から視線を外し睨みつけるようにリリスの目を見て、私は普通にびっくりしてしまう。


なんかもう、慈愛と母性に溢れた聖女のような穏やかな眼差しで、心底愛おしそうに私を見つめてる。そしてその眼差しは駄々を捏ねる赤子を見るような困ったような嬉しいような眼差しへと変わる。


「……嫌ですか?」


「嫌とかじゃなくて!どしたの!?」


「……なにかこう、そうするべきだと本能が。」


「サキュバスの本能ってそんなだっけ!?」


突拍子もない行動理由に驚いて思わず体が跳ねる。


「もー、暴れないでください。スープがこぼれちゃいます。」


「こぼさないように自分で食べられる人に、こうするからちゃいます!?」


「むぅ。我儘いっちゃだめでちゅよー。」


「でちゅよ!」


「ふふ、セレナは元気ですね。……私、赤ちゃんて触れたことなくて、こういうの全く判らなくって。でも、なんか……やっぱり凄く良いですね。」


「驚くほど様になってるわよ?聖母かと思ったわ。」


「じゃ、あーん。」


「やめい。器返して。」


「むー、残念。」


そういってリリスは素直に私の左手に器を持たせてくれた。

私は照れ隠しにすぐさま食事を再開する。


何なのこの母性。マジで。



「食べづらくないですか?」


相変わらず嬉しそうな慈愛の眼差しで私の食事を見守っているリリスだったが、そんな事を聞いてきた。


相変わらず赤子を抱く母のように、私の背中を左手で支えて右手は体に添えるだけ。時折とんとんと優しく叩いたり撫でたり。



なんであやされてるんだろ私。


「もうめんどいからこのままでいい。リラックスできるし。」


「ふふ。やっぱり優しい。」


そういって紅潮した頬を(ほころ)ばせながら、リリスはまた少し私を抱き寄せる。

私も頬の熱さを感じながら、ゆっくりと食事と心地よい感触を満喫した。



食事を楽しんだ後、一時を静かにのんびりと過ごし、片付けも済ませ、お腹もこなれた頃。


未だ降りしきる雨の中、色々と身支度を済ませた私達はテントの中で普通の寝具にくるまり、()()()()()抱き合って眠りに落ちた。



遠慮なく甘えろって言われてんだから、いっぱい甘えよっと。


初手

らぶらぶイチャコラフィールド

この空間に挟まれた対象は死ぬ


3人でいちゃつかせるのは大変だと思い知りました

やはり……勝負はタイマンでなくてはな


本作品は非常に甘えた交流シーンを含みます

お体に適性のない方は諦めてください

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