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救済の聖女のやり残し ~闇と光の調和~  作者: 物書 鶚
序章 旅の終わりと、旅の始まり
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第十二幕 「報奨」

誰かにここを見られてる気がした。


誰かがここから見ている気がした。


「高いほうが良いのです。」


さっとざわめきが霧散し、王へと注意が集まる。


「…うむ、感謝する。

本日集まった皆に、レオンとアメリアの婚約発表の他に

余が皆に伝えるべき事がある。」


はて。


と辺りと互いに顔を見合わせる。


「魔族がこの世界の各地で人々を蹂躙し…我々が奴らを…奴らと戦いを始めてどれほどの時が流れたか判らない。

そして、どれほどの血と命が流れたのかわからない。

我が国ルミナスとドワーフ族、エルフ族の面々が此度の魔族との大戦で同盟を組み連合軍を編成し、およそ15年の時が流れた。


15年だ。

子は親に成り、親は孫を見る。」



王は少し間を置く。


そうだろう?と尋ねるかのように。


参加者は真剣な面持ちで頷いている。


 

「それほどの時間が流れた、…しかしながら多くの親と子が引き裂かれたのだろう…。


しかし、英雄の手により…数世紀なされなかった魔王討伐は成った。数百年誰も成し得なかった偉業を成し遂げた。


たったの2年でだ!


無論彼らだけでなく!

多くの民と、兵と、将と、無名の英雄達が居たのだろう!

だが彼らは我々によって魔族の地へと送られ!

その任を見事成し遂げた!


故に我々は英雄を称賛し、歓待し、語り継がねばならない。

そして余は彼らに褒美を渡さなければならない!

いや許されるならば持てる全てを分け与えたい!


…それが許される身分でないのが残念でならないがな。」


最後だけは少しおどけた口調で言った。


会場に爽やかな笑いが起きている。


「さあ!英雄たちよ!

我々と余が与えられる限りの称賛と褒美を与えさせてくれ!

セバス!目録を余に!」



いつの間にか王の傍らに控えていた先程の執事長。

王にセバスと呼ばれた老人は盆に乗せた蝋封付きのスクロールを

王の眼前へ静かに持ってきた。



「ありがとうセバス。」

王は巻物を手に取り参加者へと向き直る。


封蝋を解き、巻物を広げて中身を確認する。



「…皆の物、これは同盟によって定められた契約書だ。


我々と、ドワーフ族、エルフ族の王達によって

此度の魔王討伐の任を成したものに国から褒美を分け与える契約とその目録が記されておる。


余はその契約を履行するために今此処に立っている。」



おぉ…、と会場から声が上がる。



「さぁ早速始めよう!

勇者には既に余の娘と我が一族の財産の一部を渡すことを伝えた!


 次は英雄の者たちへの褒美だ!

『炎嵐の指揮者』炎と嵐の中を踊る、稀代の天才にして

大賢者ルキウスの弟子よ!炎のアルカナ、ブレイズ家の長女!

大魔道士ソフィア・ディ・ブレイズ!


余のもとへ!」


大魔道士ソフィアは左手にボトルを持ったまま、王の眼前へと参じた。


「大いに呑んでいるようだな?」


「はい、王よ。我が生命の水、浴びるように楽しんでおります。」



会場がドッと湧いた。



「大いに結構!余も役割が終わったら秘蔵の一杯を楽しむつもりだ。」


「それは素敵ですわ。」


「さあ、汝には我が国が誇る『ルミウスの知』ルミナス魔術院魔法研究課における第三の席を与える!


 師ルキウスと姉弟子マグノリアと共に魔術の真理へと至る道へ存分に挑むが良い! そして各地へ趣き魔術の研究のために飛び回る際は申し出よ!

他国での便宜をはかり、充分な活動資金を約束する!」


拍手が起こる。


「感謝いたします、王よ。」


「うむ、下がるがよい。」

ソフィアは一礼の後、元の位置へと戻った。



「次、火と鉄の民ドワーフの奇跡にして、巨躯の守り手!

『不動の黒鉄』グラム!ドワーフの名『ゴル・ダグ』殿!


余の前に来ていただきたい!」



グラムがのしのしと王の前へ出る。

この会場の誰よりもデカく大きい、故にかグラムは王の前に傅く。


「そなたの敬意に感謝する。」


「恐縮に。」


「流石ドワーフ族、酒宴の席において些かの酔いも無いようだな。

ルミナスの酒はどうだ、参列者の方々も楽しんでいてくれると嬉しい!」


「…み、見事な味わいです。」


「はは、何よりだ。褒美とは別に様々な土産を持たそう。」


「…感謝いたします。」


「さぁ、さぁ絶大なる盾よ!英雄達の砦よ!不屈の精神を持つ大いなる山よ!汝には一族への巨万の富と、ドワーフ国との貿易における税の緩和そしてさらなる食料支援の約束をしよう!

これは国同士の契約でも有り、無欲な彼へのできる限りのものだ!」


拍手が起こり、会場は少しどよめいている。



「感謝します、王よ。」


「うむ、下がるが良い。」


グラムは立ち上がり、元の位置へと戻った。


「次、森と水の民エルフの守り人にして、英雄たちの導き手。

『神弓』のシルヴィア・グ・ウィネリン殿!


世の前に来ていただきたい!」


シルヴィアは風のように軽やかに、王の前にでた。


穏やかに軽やかに、王へと傅いた



「そなたの敬意に感謝する。」


「いいえ、偉大なる王よ当然のことです。」


「やや顔が赤いが、我々の酒がエルフ族のお口に合ってると良いのだが。」


「今日初めて、酒というものを飲みました。良いものですね。」


「ほぉ…、初めてとな。この祝宴がそなたの新たなる知見になれば嬉しい。」


「大いに。」


朗らかな笑いが会場にあった。



「さぁ、神代の弓手!一矢で千を討つ『神弓』!自然を愛し賢樹に愛されし導き手よ!


汝には次の褒美を約束する!


まずは汝が提案したシルヴァ大陸における人族領の一部、これを返還する。


そして現在の資源地帯においても積極的な自然保護活動を命ずることを約束しよう。


これらはエルフ国家と我がルミナス国家との新たなる協定として、後日正式に調印式を行う!議会とも話し合いは済んでおる!人とエルフの新たなる歴史を刻む為だ!


…シルヴィア殿個人への報酬が無いのが悔やまれるが

…良いのだな?」


会場のどよめきは大きいが、大きな拍手が起きた。



「私が求めるものは自然に在るもの故、充分に満足しております。」


「ならば良しとしよう、下がってくれ。」


シルヴィアは立ち上がり、嬉しそうに元の位置へ戻った。



ここで王は会場を見渡し、ドワーフ族とエルフ族の参列者達に目をやる。


「お聞きの通りだ。我々の同盟の契りの一部は果たされた。

これからも魔族との戦いにおいて手を取り合い。

そして良き未来のために、新たなる時代の為に。

共に歩んでいけると信じている。」



ドワーフ達は全員盃を高々と掲げてその後に一気に飲み干した。


エルフ達は一様に王を真剣な眼差しで見つめ、一様に頷いた。




「ありがとう、感謝する。」




「さぁ、最後だ!

我がルミナスにおける奇跡の証明!慈愛の癒し手!我が民にして敬虔なるルミナスの徒!我が一族!!


『聖女』セレナ・ルミナリス!


我もとへ!」




セレナは静かに、ゆっくりと歩みを進め、王の前に立ち。


両膝をついて手を組み祈りの姿勢を取った。


「我は敬虔なる女神ルミナスの徒、セレナ・ルミナリス。

この場に在ること、女神の導きに感謝を。」


セレナは少し声を大きくし、会場に聞こえるように祈った。


「オゥミナ、女神の導きに感謝を。」


王もまた祈りに同意を示した。


「さあ、セレナ。立ってくれ。」


小さく小柄なセレナがひざまずくと、王の背の半分にも満たない。


セレナは言われた通り立ち上がる

それでも王を見上げる形となる。



「聖女セレナよ。此度における汝の行い、心の底より敬服いたす。

女神ルミナスの力を宿し『奇跡の抱擁』にて五千の兵を救い、万の兵を奮い立たせ、多くの民に救いをもたらしてくれた…。


そなたの活躍もまた、これ無くして此度の勝利に欠かせぬ大きな導きであった。」


「全ては女神の導き故に」


セレナは優しく微笑んだ。


「しかしセレナ、そなたはルミナスの徒にして聖女。

義父マティアス同様に清貧を誓い、その身を女神に捧げることを約束した身だ。金品や爵位の類は褒美にならない。


…故にこうしよう。

我が国の導き、ルミナス教において新たなる位を設け、そこへ奇跡を成した聖女として新たなる教えと救いを民たちへもたらす務めを与える。



…そして、汝が望むのであれば我が一族へ迎え入れることも。」



会場がざわめいた。


皆これがどういう事なのか、意味を測りかねて居るようだ。

英雄たちは顔を見合わせて驚いた顔をしている。

将軍と先生も目を見開いているようだ。



王族の面々は同様はしていない、聞いてたか想定の範囲内か。


大司教も静かに目を閉じている。


しかし隣の司教は目を見開いて口を開けている。



「大司教マティアス、我が弟にして信仰の導き手の長を務めるものよ。どう思うか。」


王は振り返り、血縁である大司教に向かって問うた。


「…王よ、私はルミナスの徒として、彼女の義父として、そなたの弟して賛同しよう。」


おぉ…、と声があがり拍手がおこった。



「しかしながら我が義子セレナ。お前がそれを望むか、受け入れるか否か、それが重要だ。」


大司教マティアスが立ち上がりセレナの方を向いて声を張り上げた。


拍手が止み、また少しざわめく。



「セレナよ、どうだ?」




王もまたセレナを向き問うた。





「…わたしの義叔父であり、偉大なる指導者エリオット王よ。

少しお話をさせて頂いて宜しいでしょうか。」


普段の可愛らしい口調とは違い、その発言には決意が満ちていた。


「許そう、話すが良い。」


王もまた、何かを感じ取り応えた。



「…私は今回の旅で世界各地にまだ『救われぬ者たち』が数えきれぬほど助けを求めている事を識りました…。


…この身は女神の導きのもと『あまねく全ての者たち』に救いを差し伸べるために、聖女の権能を授かったと思っております。」


聖女は間を置き、義叔父の王と義父の大司教を見つめる。


そして参加者の方へ向いた。


「王よ、我が父よ、この国の力ある者たちよ、そして各国代表の皆々様。


 どうかこの身がこの先、身命を果たすべく『世界をまわりこの手が届く全ての者たちへの救済を与える事』をお許しください。


 そして願わくば世界に残る弱き者たちへの救いの手を差し伸べる事にご助力ください。」


そう、高らかに宣言したのだ。


会場に大きな拍手と驚きの声が上がった。


「これぞ救済の聖女である!」と、誰かが声を上げ


会場の拍手は更に大きくなった。



セレナは穏やかな表情で少し嬉しそうに会場を見渡し


王へと向き直った。



「うむ…、そなたの意志と覚悟、あいわかった。

余はそなたの信念を、ルミナスの徒としての信仰を支持しよう。」


そして王は振り返り、少し驚いた顔でセレナを見つめる大司教の弟を見る。


「『マティアス』そなたはどうだ。大司教として義父として。

この小さき聖女の意志を尊重できるか!」


声を張り上げて、弟の意志を問うた。



「…良いでしょう、大司教として、義父として。セレナの旅を許可します。」


すこし目を瞑って、そしてゆっくり開きながら大司教マティアスは応えた。



「うむ、よかろう。ならば余は聖女に次のように褒美を取らす!

聖女セレナの世界救済の旅の助けとして、従者選定と護衛の部隊を結成を成し、各地各国へ先触れを…」


ここまで喋ったところで聖女が大きな声で王を制した。


「お待ち下さい!」


王はびっくりして聖女を見た。



「…申し訳ありません、王よ。貴方様のお気遣い、心の底より感謝いたします。しかしながら王よ、私は同行者を望みません。この身一つで世界を周り、そしてこの身が成せることを確かめたいのです。」


「誰も供を連れずに世界をまわりたい。そう申すか。」


「その通りです。」


「いやしかし、…その様な身で一人旅とは、いささ…」


「大丈夫です!この身はかの『極寒の死地』の旅を耐え抜いております!」


食い気味に聖女は王の言葉を塞いだ。



「そうは言ってもな、セレナよ…。」


「この身が用いる女神ルミナスの権能『理力』は癒しの御業だけでは有りません。我が心身を強め、速め、そして飢えにも、暑さも寒さも物ともしない力を与えてくださいます!そうですよね?ね!皆様?」


なにかちらちらと淡い光が見えるようだが、と思いつつ王は仲間を振り返る聖女同様、自分の左側に並んでた英雄たちを見る。



…どうやら、皆一様に驚いているようだが…?



「セレナの言ってることは間違っていません…彼女は見た目以上に強く勇敢な心を持っていて、そして皆さんが考えてる彼女の力に俺たちは助けられました…。」


レオンがセレナの意見を全面肯定した。しかし戸惑いは隠せてない。



「でも、レナ?本当に良いの?

一人で旅なんて…何だったら私が一緒に…。」


ソフィアが似合わずおろおろしながらセレナに問うた、酒瓶が床に転がってる。



「セレナさんがそれを望むのなら…私はそれを支持したいと思います。」


シルヴィアは珍しく目を見開きセレナを肯定した。



「…こうなるとセレナは頑固だぞ。ワシは彼女の意志を支持したい。」


少し驚いたがうんうんと頷き、グラムは彼女を押した。



「セレナ様、すごい…」


「セレナ様、そんな事を…、本当にあなたは…」


アメリアとヴィクトルが驚いている。




セレナはにっこりと微笑むと王へと向き直る。


「ご覧のとおりです、概ね皆様私の意見に賛同していただいておりますわ!ですからどうか、どうかこの身が一人旅立つことをお許しねがいます!


 慈悲深き女神ルミナスの徒、民に愛されし聡き王よ!

 おとう…じゃない、大祭司マティアス様!貴方にもお願いいたします!どうか私の一人旅を認めてくださいまし!」


段々と必死になってきている聖女。



それを見て大祭司マティアスは小さく息を吐くと口を開いた。


「良いのではないでしょうか、王よ。」


「マティアス、お前!本気で申しておるのか!」


「お義父様!」


王は驚き、聖女は喜色をにじませた。



「ただし、一つだけ。聖女の救済の旅が行われることを世界中に触れ回ります。こうすることで各国各地で彼女の助けになってくれる人が出るでしょう。 ルミナスの信徒や聖女セレナの信奉者の力を借りることが出来るでしょう。危険な目に遭う可能性もへります。如何か?」


「それで構いません!流石お義父様!」


なにか…、いつもと違う様子の聖女と周りの反応を見て…王はふと色々考えてから言った。


「…あいわかった、マティアスの意見を条件とし。

聖女セレナの一人旅を国王として認めるとしよう。」


…ぱぁっとセレナの顔は煌めく星のような笑顔を浮かべた


「有難うございます!王よ!この身に課せられた真命!

全てを賭して必ずや!」


「そんなに自由に一人旅がしたかったのか?」




「…はい?」


「そんなに必死になるほど、自由な旅がしたいとは思っとらなんだ。聖女もお年頃、世界に興味を示してもおかしくなどは無いがの。」



「…あっ。」


「まぁ、なんだ。しっかりと準備して救済の旅を『楽しむ』のだぞ。」


先ほどの子を見守るような父の顔、そのような暖かくすこし意地悪な顔で王は言った。



「い、いえっ、あの決して窮屈な暮らしから抜けるための方便ではなく!


 聖女として必ずやこの手に届く限りの救いを差し伸べること目標とした、れっきとした修行の旅にございます!」


チカチカとセレナの周りを淡い光が包んでいる。



会場からはくすくすと温かい笑いが。


「っだ、だから。あのっ…、うぅ…。」


だんだんと顔を真っ赤にしながら聖女はうつむいてしまった。



王はニヤリと笑い、そして会場を見渡して声を張り上げた。


「皆も聞いたな!これより世界中に触れを出す!

『救済の聖女』セレナ・ルミナリスは各地を周り己の真命を賭して世界中を救って回ると!

 各々それぞれが持ち得る伝手を使いこの事を知らせてくれ!

余もルミナス国王として正式にこの事を知らせる!

『聖女セレナの世界救済の旅』必ずや成功させようではないか!」



会場は拍手に包まれた。




―かくして、英雄たちの旅は終わり。


  新たなる旅の始まりがもたらされつつある。




セレナは真っ赤な頬を抑えながらとぼとぼと皆の元へ戻った。


皆は笑顔でそれを迎え、聖女の旅を無事を思い


それぞれがそれぞれに声をかけている。




―強い意志をもって一人旅を続けることを仲間と王と皆に誓った聖女は、その『想い』を胸に秘め新たなる旅路の事を思うのであった。




不安な想いも在るだろうが。


それを気にしていては、そればかりに縛られては我々は何も出来ない。


そんな思いを振り払うかのように、そこには笑顔と称賛が溢れている。




―ふと、聖女は夜会の窓から夜空をみあげる。


 高い木から枝が伸び、そこには丸く輝く月が見えた。


 まるで月が横に伸びた枝に腰を掛けているようだ。



 闇が満ちている世界に月の光が輝くように。


 太陽の光が大地に影を落とすように。




 『彼女』もまた、不安げにその月を眺めていた。




本当の秘密は嘘の中に隠すのが良いとか。


もっともらしい嘘って難しいですね?

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