王道騎士道精神
ユキウサギをもっと近くで見ようと、ヴァルドと共に歩き出した時。
「!」
それはもう、落とし穴。
瞬きをする間もなく世界が一転している。
悲鳴すらあげることもできず、「ひやっ」というへんてこりんな声を出すので精一杯だった。
ただ深さはなく、傾斜した穴であり、すぐに足が底についた。と思った瞬間に。
ドサーッと何かが落下してきて、こちらも先程以上の不意打ちで、声は一切出ていない。
私の落下と同時にこの穴に落ちてきた雪が、直撃したと分かった。
バケツ三杯分ぐらいの雪を頭から被った状態だ。
踏んだり蹴ったりと思ったところで、雪が突然、白い花びらに変わった。さらにそれは頭上へと舞い上がったと思ったら、ふわりと優しく抱きしめられた。
ほんのり石鹸の香りもしてドキッとすることになる。
「ミア、大丈夫か!?」
この声はヴァルド!
口を開けようとしたら、そっと唇を彼の指で押さえられ、「しーっ」と言われる。
「ここは冬眠しているクマの巣穴だ。獣の香りがするだろう?」
ドキッとして鼻から空気を吸い込むと、確かになんとも言えない臭いがする。 あまりにも一度にいろいろなことが起き、嗅覚がおろそかになっていた。
「いろいろすることがある。クマを刺激しないよう、静かに」
そう言った後のヴァルドは、いくつもの呪文を唱え始める。
呪文の意味が分からないので推測だが、「クマの眠りを深める」「獣臭を抑える」「私の服の汚れを落とす」「雪の落下を止める」などなどだと思う。
「足を挫いていないか?」
「はい。底に枯れ葉が溜まっていたので、大丈夫です」
何より、戦士としての役割を全うするため、ズボンにブーツという装備だったのも幸いした。
「それはよかったで。それで脱出についてだが……。わたしは転移魔術でここへ来ることができた。だが自分以外を転移させる時には、魔術陣が必要。でもこの穴の中では魔術陣が展開できない。肩が問題なければ君を肩車し、上からソルレンに引き上げてもらうこともできるのだが……。肩の傷はまだ万全ではなく。そうなるとここでしばらく救助を待つことになるが、それでもいいだろうか?」
勿論、構わなかった。確認するとクマは眠りが深くなっており、冬眠から目覚めることはない。ならばしばらくここで待つ分に問題はなかった。そこで「問題ありません!」と答えると……。
「申し訳ないな。わたしが万全でないために」
「いえ、そんな。私がうっかりしていました。……本当に今日、殿下が同行してくれて良かったです。もし殿下がいなかったら……クマの餌になっていました、私」
そこで頭上から声が聞こえてきた。
「ミア!」「ミア様!」
ハナとソルレンだ。
すぐにヴァルドが状況を説明すると、二人は動き出してくれることになったが。
「わたしはここに残る。二人とも、よろしく頼む」
これにはソルレンと私が「「えっ」」と反応していた。
だって救助の算段は立っている。
しかも私は怪我もなく、クマはぐっすり眠り、雪が落下してくる心配もない。
つまりここで一人待つことになっても、何も問題ないと思ったのだ。
「ここから引きあげるために、ロープを取りに行くことになるのでは? 往復で相応の時間がかかるはず。それに今は晴れているが、この季節、天気が急変し、雪がちらつくかもしれない。何より、周囲に獣がいるような森の中。ミアをひとりにしておくことはできない」
ヴァルドのこの王道騎士道精神が発揮された言葉には、胸がジーンと熱くなる。そこまで心配してくれたのね、と。
「それならばアルク、自分が」「ロープを使い、引きあげる時。人手が必要では? アクセル一人では無理だ。わたしは肩の傷もあり、引きあげを手伝うことはできない。だがミアのそばで体を温め、獣を撃退することはできる」
ソルレンの言葉が終わらないうちに、ヴァルドがキッパリそう言い切った。しかも私の腰の剣を鞘から抜き、構えて見せたのだ。
これはもう一切の反論は受け付けないというオーラが出ており、ソルレンは「御意」と言うしかできない。
「ソルレン、君はミアの夫だ。彼女のそばにいたい気持ちはよく分かる。だがここはわたしを信じ、救助を頼む」
ソルレンはもう「かしこまりました」と頭を下げ、ハナはぽ~っと頬を赤くしている。これは事情を知らないハナのために、ヴァルドが気を遣った言葉だろう。ソルレンは夫ゆえに、私のそばにいたいと願ったが、今は救助を頼むと。
それにしてもハナのこの反応、よく分かる。
ヴァルドの言動は王子様にしか思えなかった。
レディを守るとするその真摯な姿に、ハートを射抜かれたのだろう。
ともかくこれでソルレンとハナは動き出し、私とヴァルドは救助を待つことにした。
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【お知らせ】番外編更新!
『溺愛されても許しません!~転生したら宿敵がいた~』
https://book1.adouzi.eu.org/n3408ij/
最終選考中記念で特別更新。
今回はあの人物の切ない始まりの物語です。
併読されている読者様がいたらお楽しみくださいませ☆彡























































