無茶苦茶を考えてしまう。
ヴァルドは、ブロンドの髪をサラリと揺らし、顔を上げる。
「今、ここにいるのはアルクという名の流れ者に過ぎない。着ている服も、シャツにセーターにズボン。当然、洗濯物だって畳む」
そうだった。ヴァルドは水色のシャツに白のセーター、濃紺のズボンという、庶民的な装いをしていた。スーツやセットアップを着たら、もうそれだけで高貴なオーラが漂ってしまうので、この軽装なのだけど……。
それでもやはり品がある。それに細マッチョの鍛えられた体であることは、やはり伝わって来る。
「それに戦場では慌ただしく動くので、手取り足取り従者に手伝ってもらうわけにもいかない。自分の身の回りのことは、自分でする時もあれば、少人数での野営では、料理も作ればお茶だって淹れる。そういうものだろう、戦場とは?」
「そうですね。そうだとおも……」
しまった!と焦る。ついリヴィ団長として答えていた。チラッとヴァルドを見るが、彼はフロストの寝間着を愛おしそうに畳んでいて、何も気づいていない……と思う。
「ご自身でできるのに、ここではメイドであるニージェを必要としたのですね」
「それは……怪我もしていた。肩を動かせないと、不便が多かった」
「そうですね。失礼しました……」
ヴァルドがクスクス笑い、私は真っ赤になっていると思う。
いくら動転しても、もっとマシな問いかけをできなかったの、私!――そう一人ツッコミをすることになる。
「ニージェだけではなく、ミアも体を拭くのを手伝ってくれたり、薬を用意してくれた。……ありがとう」
「い、いえ。殿下は怪我人なのですから。当然のことをしたまでです」
感謝の気持ちに大喜びだが、後ろめたい気持ちもある。
ヴァルドのいろいろなサポートは、ニージェもそうだが、ソルレンも私もしていた。
ソルレンなんて、入浴の手伝いもしていたのだ。
でもさすがにそれは私ではできない。
だが体を拭くのを、ニージェと共に私が手伝っていたのは……見たかった、というのもある。ヴァルドのその素晴らしい体を。
だって……。
私は剣聖と言われたくらいなので、剣術を極めるため、並みの女性より筋肉がついていると思う。そしてそうなると、みんなの筋肉が気になる。戦場の騎士達は、仲間の前で平気で上半身裸になり、汗を拭いたり、着替えたりしていた。
私は性別を偽っていたし、皆からは団長だと思われていたのだ。
まさか第一王女であるとは思わず、お構いなしで服を脱ぎ、肌をさらす者が多かった。
そういう意味で、私の筋肉を見る目は肥えていた。そしてヴァルドのその体は見事だったのだ。二年前あの晩、見た時に。あれから時が流れた。今はどうなのか。つい気になり、体を拭く作業を手伝い、その体を観察してしまったが……。
変わっていなかった。
変わらず引き締まった、無駄を削ぎ落した体をしていた。それに肩の怪我が落ち着くと、早朝や夕方、右手で剣の練習をしている。ちゃんと欠かさず鍛えている賜物だと思う。
正直な話。
魔術を使えるのだから、剣はなくてもと思うが、そこは騎士でもあるヴァルド。それに剣神なのだ。剣術を鍛錬することは、欠かしたくないのだろう。
「ミア」
「ひゃいっ!」
うっかり頭の中で、ヴァルドの裸の筋肉を思い出していた時、本人に声をかけられた。当然驚き、声は裏返る。だがしかし。
何をしているの、本当に私は!
でも、仕方ない。
ヴァルドの肉体が素晴らしすぎるのが悪い!
なんて無茶苦茶を考えてしまう。
「シーツを畳むのが、苦手なのか?」
「!」
ヴァルドの筋肉妄想をしている間、一応手は動かしていた。だがシーツの畳み方がめちゃくちゃになっている。フッと口元で笑ったヴァルドは立ち上がると、背後に回り、私の手を掴む。
「皇太子のわたしがシーツの畳み方を教えるなんて。前代未聞だな」
「す、すみません!」
「冗談だ」
というか……。
背後でそんな、距離が……、ち、近いっ……!
私はヴァルドの純潔を奪っている。あの晩、ヴァルドと私の距離は、今以上に近かった。しかも服を着ていなかったのだ! なぜこれぐらいでドキドキするのか……!
息子がいるとは思えない、実に初心な反応ばかりしてしまう。
「ソルレンとは新婚なのだろう? 全然、その気配はないが」
これにはまさに「ギクリ」だ。
「寝室も別々で……。子供ができると、こういうものなのか?」
きわどい質問を耳元でされ、めまいがする!
耳と首筋にかかるヴァルドの息に、彼の体温を感じ、どうにもこうにも切なくなってしまう。
「わ、私達夫婦のことは気にしないでください! そ、それよりもヴァルド様こそ、よいのでしょうか。公務を一切なさらずで」
余計な心配かもしれないが、咄嗟に浮かんだのは公務のことだった。
「申し訳ないと思う。ただ、父上は健在であるし、私は養生している身。それにわたしがいないことで、うまく回っている気もしている」
そうだろうか。本当に。
ヴァルドが外交で手腕を発揮していると、ノルディクスは教えてくれた。
彼が不在になることで、帝国内より、帝国以外の国が困っている気もする。
そこでシーツを畳み終え、ヴァルドが私から体を離した。























































