鐘の音
フロストを抱っこすると、じっと私を見て、目をパチパチとさせていたが……。
その青紫色の瞳で、じっと私を見た。
笑顔になった!
「私が誰なのか、分かっているのかしら!?」
「マァマァ~」
「ミア様。フロスト坊ちゃんは、分かっているようですよ」
「まあ、嬉しいわ」
「これはすごいな」
もうニージェとソルレンと大喜び。ではと今度は眼鏡もかけて見たが……。
フロストは眼鏡を外そうと手を伸ばし、そしてキャッキャッと笑っている。
これが……親子の絆なのかしら?
喜びが高まり、胸がジーンと熱くなる。
ヴァルドにも見せてあげたい気持ちになっていた。
たとえ私のことは憎いと思っても。
この姿を見れば、ヴァルドもフロストのことを、愛おしいと思うはずだ。
夢の中のヴァルドが浮かぶ。
私の理想が具現化した、夢の中のヴァルドなら。
間違いなくフロストを見て喜んでくれる。
夢の中にフロストも出てきたらいいのに。
今度ヴァルドの夢を見たら、フロストのことも思い出そう。私の夢なのだから、いくらだって自由にできる!
こうして秋の狩猟シーズン、私はサンディブロンドに髪を染め、眼鏡で過ごすことになった。
◇
「今日は天気もいいですし、森の紅葉も始まっています。そしてミア様とソルレン様のお休みも、重なっているんですよ。昼食はフロスト坊ちゃんも連れ、パン屋のテラスでどうですか?」
ニージェがそんな提案をしたくなるぐらい、秋晴れの青空が、澄み渡る日だった。
陽射しがあり、風は弱く、気温は快適。
これならフロストを連れ、外へ出ても「寒い!」とはならないだろう。
「どうしますか、ミア? フロストは庭園で日向ぼっこをしたこともある。外へ出る分に問題はないと思いますが」
「せっかくだから、テラスでみんなで昼食にしましょう」
こうして傍から見ると「家族」と言われる四人で、外出することになった。
ソルレンは白シャツにグレーのスーツ、ニージェは黒のワンピースに白のエプロンのメイド服。私は髪を三つ編みにして、眼鏡をかけ、クリームイエローのワンピースに着替えた。
髪をブロンドからサンディブロンドに変えたことで、明るい色の服を着る機会が増えたと思う。髪が暗い分、服を明るくしたくなるのだ。
ちなみにフロストはベビーブルーのローブを着せ、ソルレンに抱っこしてもらい、家を出た。
すれ違う村人のみんなには、幸せ家族に見えるだろう。
こんな風に本当の父親……ヴァルドと外出できたらいいのに。
そう思うがそもそも。
皇太子であるヴァルドが、村人のように外を出歩くことは、まずないだろう。
でも王女である私がこんな生活をしているのだ。
ヴァルドだって……ない、ない。
そもそもヴァルドは私を憎んでいるだろうし、一緒に出歩くなど、言語道断のはず。
憎んでいる……憎んでさえいないかもしれない。
一切の追っ手もないのだ。
無視、相手にしていない、眼中にない、存在を忘れられている……そんな可能性の方が高い気がした。
「ではパンを手に入れてきます。ミア様とソルレン様は、こちらでお待ちください」
ニージェがパンと飲み物を用意してくれる間。
私はフロストに持参していた離乳食を食べさせ、ミルクを飲ませる。
ソルレンは周囲の席の村人から声をかけられ、それに応じていた。その受け答えの様子は、しっかりパパになっている。
冷静に考えるとソルレンと私って、契約婚、いわゆる白い結婚なのでは?
よくある小説では、そこから発展がある。だが私とソルレンは……恐ろしい程、何もなさそうだった。
そんなことを牧歌的に思っている時だった。
突然、鐘の音が鳴り響く。
これは、獣や外敵の侵入を知らせる鐘の音だ。
この鐘が鳴るのは初めて聞いた。
周囲の村人も同じようで、何事かと動きが止まっている。
だが。
戦場で生きた経験のある私は分かっていた。
こういう時は、迅速に動かないと危険だと。
「皆さん、獣か外敵が侵入したのです! 急いで教会へ逃げてください。急いで。すぐに!」
私の叫びに皆、ようやく動き出す。
でもその動きは半信半疑であり、緩慢だ。
前世で言うなら、平和ボケ状態。
危険を実感できていない。
「ミア、逃げよう。自分達は丸腰だ」
実は私は短剣を隠し持っている。
ただ、敵が人間ならまだしも、獣だった場合。
短剣では焼け石に水となる。逃げた方が早い。
「フロストは自分の命に代えても守るから」
フロストを私が抱えて逃げるより、ソルレンに任せた方が、避難は迅速に進む。
ここで迷う時間はない。
フロストはソルレンに任せる。
そして有事の際の避難場所に指定されている教会へと走り出す。
「ミア様、ソルレン様!」
パン屋から飛び出して来たニージェとも合流し、駆け出すと。
「きゃあ」「わぁぁぁぁ」「うわーーーっ」
村人の悲鳴が聞こえてきた。























































