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友達の友達  作者: 長篠金泥
第3章

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21 情報交換による絶望フルコース

「おんっ、ほぁ――くいっ、ふぃん――」


 アロハ男に金蹴りを食らった金髪は、股間を押さえてゴロゴロ転がる。

 奇声を発し痛みに耐える様子は、漫画でよく見るギャグシーンそのもの。

 しかし、金髪の苦悶くもんの表情は鬼気迫ききせまるものがあり、まったく笑えない。

 しばらく転がった後、うつぶせになってピタッと動かなくなった。

 その状態でも低いうめき声が延々と聞こえるので、意識はあるようだ。


 ダウンした金髪は、たぶん自分らと同年代だな、と晃は見当を付ける。

 さっきの栗色の髪の少女や、処置室で死んでいた少年の仲間だろうか。

 そういえば、あの小デブ――霜山はどうしたのだろう。

 慶太は犯人とか言ってた気がするが、アロハたちの仲間なのか。

 そんなことを考えていると、どこかでザリザリッとノイズが鳴った。


「おう……お? マジでか……あぁ、わかった……すぐ行く」


 無線機のようなものを手に、誰かと会話しているアロハ男。

 三十秒ぐらいで通信を切ると、床に倒れている全裸少女を引き起こす。

 意識が飛んだままなのか、雑に扱われても身動みじろぎもせず声も上げない。


「大人しくしとけよ、テメェら。余計なことすっと、ああなるぞ」


 俯せで固まっている金髪をあごでしゃくり、アロハは楽しげに言う。

 そして吸い差しの煙草を指ではじいて捨てると、グッタリした少女を引きずって部屋から姿を消した。

 重そうな扉が閉まった後、重量感のある静寂せいじゃくが数十秒ほど続く。

 やがて複数の吐息といきが、計ったようにシンクロして放出された。


「へっへっへっ、ふぇ……ひぃへへっ、ひぁふっ……」


 緊張の糸が切れたのか、佳織が珍妙な笑いを力なく発する。

 隣にいる優希は、力尽きたように潰れて床にした。


「へぇええぇ、えええぇ……えぇう、えっ、うぶっ、うっ、んうぅう……」


 佳織の笑いは半泣きの声に転じ、やがて天をあおいでの嗚咽おえつになる。

 彼女の泣き声に反応したのか、意識を回復したらしい慶太が体を起こす。

 強引に拘束こうそくを解こうとしているようだが、慶太の筋力でも無理らしい。

 両手の自由を諦めた慶太は、玲次の被った麻袋を口を使ってがしにかかる。


「玲次! 大丈夫か? おい!?」


 名前を呼びながら、晃も兄弟の方へとヨロけつつ近付く。

 玲次は気絶しているようで、顔の下半分が鼻血にまみれていた。

 慶太は弟の肩に足を乗せ、強く揺さぶって起こしにかかる。


「レイジ、起きろって! オラッ、レイジ!」

「コォォオッ、ガポッ――んぶっ、べほべぶぇほっ! えぇぶっ! おぉほうぅほっ、おぉっふぉっ、んがっぷ!」


 しばらく繰り返すと、玲次は奇妙な呼吸音の後、派手にせた。

 一頻ひとしきり続いた咳が止まると、玲次が気怠けだるそうに意識を取り戻す。


「う、うぅあ……ここ、は……んっ? 晃と、兄貴ぃ?」


 いつから気を失っていたのか、玲次は不思議そうに辺りを見回す。

 慶太に晃、佳織に優希と仲間の姿を確認して、見慣れぬ金髪で視線が止まる。


「……誰こいつ」

「知らん。わかるか、ケイちゃん?」

「わからん……何なんだ、マジで」


 心底疲れた声で言って、軽く項垂うなだれる慶太。

 アロハ男とのやりとりからして、金髪はあいつらの一味じゃなさそうだが。

 ともあれ、まずは別ルートだった慶太と情報交換するべきだろう。

 そう考えた晃は、口に残る苦酸にがすっぱさをこらえて質問を投げる。


「どうなってんだ、なぁ……どこだよ、ココ?」

「詳しくはわからんが、たぶん……まだ、病院の中だ」

「その怪我……あのデカいのにヤラレたのか」

「ああ……クソボケが、思い切りやりやがって……」


 慶太が一方的に負けたとなると、ここからの逆転の目が厳しすぎる。

 そんな事実を突き付けられ、晃の声にも震えが混ざってしまう。


「に、にしても……ケイ、ケイちゃんがかなわな、ないとか……」

「いや、あのクソマッチョ……リョウ、とか呼ばれてたけど。アレとは直接やりあってない。縛られた状態で、ボコスカ殴られたけど」


 慶太は縛られた手をクイクイ動かし、ふくらんだ顔で凄惨せいさんな笑みを浮かべる。

 しかし、晃が不自然に目をらしたと気付き、真顔に戻って訊いてきた。


「結構、殴られてっからな……どうなんだ、俺の顔。ヤバい感じか?」

「ま、まぁ、ちょっとね……いぃ、いつもより三割、くっくらい、ヤバい」

「おい、俺のルックス評価、普段どうなってんだよ……アキラ」


 さっきよりも、少しだけやわらかい笑顔になった。

 それでも、晃としては直視するのがかなり厳しい。

 慶太の顔面は今、アチコチが普通じゃないれ方をしている。

 下手をすると、打撲だぼくの内出血だけでなく、顔面骨折してるかも知れない。

 右の白目部分が、見たことないほど真っ赤になっているのも気懸きがかりだ。

 晃が黙って考え込んでいると、玲次が代わりに質問役を受け継ぐ。


「で、アニキよ……あのマッチョじゃなきゃ、誰に負けたんだ」

「負けたっつうか……探索中に、アロハ着たオッサンと、あともう一人、お前やレイジくらいの若い奴に絡まれて。そいつらは撃退したんだけど、そこであの小デブ……シモヤマの野郎がな、いきなりカオリを人質に取りやがったんだわ」


 玲次は佳織の方に視線を向けるが、まだ落ち着いてないようで反応はない。


「そんで、遠距離攻撃スタンガンみたいの撃ち込まれて……このザマだ」

「ああ、アメリカの警官が使ってるの、前にニュースかネットで見たわ」


 確かテーザーガン、とかいうんだったか。

 海外の事件映像を紹介するサイトで、晃も見た覚えがある。

 かなりの威力があるようで、薬か酒がガンギマって大暴れしてる巨漢が、警官二人に使われて数秒で無抵抗状態に追い込まれていた。

 そんなのを持ち出されたら、慶太がKOされるのも無理はない。


「レイジたちは、何があったんだ」

「俺らの方は……二階を探索してたら、若い男の死体を見つけて。こりゃガチでシャレんならねぇってんで、兄貴に連絡しようとサイレン鳴らしてたら、あの大男……リョウだっけ? あいつが出てきた」

「はぁ!? 死体って……誰か死んでんのか? マジで?」


 玲次は眉根まゆねを寄せながら、晃は神妙しんみょうな顔をしながら同時に頷く。

 慶太は拳で加工済みの顔を更にゆがめ、フラフラと首を振る。

 相手の頭のオカシさを再認識させられ、衝撃に耐えているのだろう。


「それで……玲次と俺が、RPGの強制負けイベントばりに惨敗だ」

「まさか、本気の蹴りをガードされるどころか、足を掴まれるとか……もう意味わかんねぇんだよ、アイツ。完全にバケモノレベルだから、やるんなら……やるんだったら、殺す気で行かないと無理だぜ、兄貴」


 言葉の重みに気付いてか、玲次は後半部分で声をひそめる。

 晃も同感だったが、気持ちだけでどうにかなるものだろうか。

 元から勝負にならないのに、ダメージの蓄積ちくせきした現状では更に不利だ。

 ポジティブな要素が一つもない情報交換を終え、晃と慶太と玲次は三人揃って湿しめった溜息を吐く。


「そういや、二人とも……怪我はどうだ」

「俺はデカブツに突っ込んだ時、カウンターでヒザ食らって頭と首が軽くイッてるくらい、かな。動くと痛みがある程度で、まぁ普通に動ける」

「オレは壁にぶつけられた左肩に違和感あるが、多分大丈夫。それより、こん中じゃあ兄貴が一番重傷だぜ……右目、見えてんのか?」

「あー……腫れてっから、ちょっと視界が狭い。けど、こんくらい空手の試合じゃ日常チャメシだし、問題ねぇよ」


 何でもないように言う慶太だが、顔面の右側を中心にした膨張ぼうちょう鬱血うっけつぶりは相当で、無理しているのはバレバレだ。

 発音も時々怪しいので、もしかすると歯も数本折られているかも。

 そう気付いてしまう晃だったが、指摘してもしょうがない。

 余計なことを言えば、女性陣がおびえるだけだろう。

 その佳織と優希はどんな様子だ――と視線を移動させると、グニャリと表情を崩した佳織と目が合った。

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