コミック二巻発売記念 失敗作
本日コミック二巻が発売です!皆様ありがとうございまああああす!
下のあとがきに表紙を掲載してます!
間違いなく失敗作だった。
『【宿命】や【粛清】と同じでは不可能だな……』
『柔軟性が欠片もない』
『マニュアル通りの対応しかできないぞ』
基準をはみ出さないように企み、一応その設計通りの存在が完成したことで、彼らは枠組みの中をコントロールするモノを欲した。
しかしそれには、言葉遊びではあるものの全能が必要だ。
もし洗脳力を持っただけの馬鹿が出来上がれば箱庭は無茶苦茶になるため、あらゆる出来事に完璧な対処を思いつき、それを実行できる能力が求められた。
その結果、彼らは問題にぶち当たった。
作り上げた枠組みを維持するための装置と同じようなものでは、限られた問題に対処できても、想定外が起こった時に固まってしまうのが目に見えていたのだ。
ただ先に完成した装置は、千年後に壊れ果てて自由意思に目覚め、自分で考え対処するナニカに変貌を遂げてしまう。
『そうなると……』
『人をベースにした万能スキル?』
『それが正しい気がする』
『呼称は……【全能】にしよう』
話を戻そう。
装置では統治に向かないと判断した彼らは柔軟な発想ができる、人型の万能スキルとでも呼べるような存在を目指した。
『カリスマが必要だ』
『ああ、誰もが無条件で従う洗脳力は必須だ』
『容姿も忘れないでね』
『一目見ただけで虜にする水準だな』
最初は酷く単純な発想で、洗脳と言ってもいいレベルの強制力を【全能】に持たせる。そして誰もが平伏するような容姿も、声も、全てが美しい……分かりやすい統治者が支配する。そんな子供のような考えだった。
この時から既に愚かを極めていたのかもしれないが、そんなことも分からないまま彼らは、自分達ならなんの欠点もない完全なる統治者を作り出せる。その後は箱庭を任せればいいという楽観を持ち続け……失敗した。
『これは……中々に難しい』
『詰め込めば詰め込むほど、洗脳力が高まってしまう』
『ざっと試算したが、コントロール出来ないと思うぞ』
設計段階の時点で彼らは、【全能】にスキルを詰め込むほどに基幹となる洗脳力が強化され、恐らく制御不可能な垂れ流しの魅力を振りまくことに気が付いた。
それだけだ。
『多少削るか?』
『いや、もう少し調整してみよう』
『まあ、暇だから付き合おう』
『同じく』
『他にすることがない』
もう無理だった。
自分達で作り上げた枠組みが認識を、感性を、知能を少しだけ。ほんの少しだけ……下げ続ける。
熱量は暇に。
暇は飽きに。
飽きは怠惰に。
そして怠惰は終わりに。
『……失敗か』
『……だな』
『……別の趣味を見つけよう』
彼らが目指した【全能】は失敗作の烙印を押され、【傾国】として古代アンバー王国の崩壊と、神々の死の混乱に紛れ世に解き放たれた。
柔軟な発想であらゆる出来事に対処する、完全なる神の後継者にして代弁者という夢物語は、その役割上、最初から自由意思を軽視したものだ。
そこに目的意識など必要ない。
愛など想定されていない。
なんのことはない。
彼らは装置では対応できないから人型のスキルを必要としたのに、感情の力を想定も想像もしなかった。
そして……それでも失敗作は後世に血を残し……。
◆
(神よ。ただジェイクと……皆と平穏に暮らしたい。それがこんなにも難しい事なのですか?)
対エメラルド王国戦でジェイク、イザベラ、リリーが戦場に向かい、ただ待つしか出来ない今代の失敗作レイラが、とっくに死滅した神を名乗りし者達に問いかける。
愛するジェイクがいる。
友人のエヴリンがいる。
抜け目ない妹分のリリーがいる。
頼りになるイザベラ、アマラ、ソフィーだっている。
だが世界は愛する者達と一緒に暮らすという、レイラの願いからどこまでも遠ざかっていく。
故にこそ。
(絶対に、絶対に失いたくない!)
たったそれだけの目的意識が、愛が、至る筈の無かった失敗作を急速に補完していく。
長かった。
【宿命】、【粛清】の完成から遅れること千年。
そしてそれらが壊れ果て神の思惑を外れたように。
神の後継者ではなく。代弁者でもなく。世界の統治者ですらなく。
愛のために【全能】が完成に近づいていた。
◆
『母は私を、子はあの娘を。ほほほほほ。定めとやらは信じてませんが、さて……どうしてこうなったやら。おばちゃ、ごほん。お姉様としてもう少し見届けたいものですね。ほほほほほ』
親子二代で神の作った道を壊している。
それを露悪的に笑うのではなく、柔らかで穏やかな笑みが地下の闇に溶けた。




