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【完結】その聖女、悪魔と契約中につき〜落ちこぼれ聖女の私は召喚した悪魔と禁断の契りを交わしました〜  作者: 葉南子@アンソロ発売中!
第三章 聖女と幼馴染

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第三十八話 この気持ちは恋になる。


 ゆるやかに続く道を歩き続ける。

 脇には草が生い茂り、ところどころに咲いている野花が風に揺れている。

 遠くから川のせせらぎが微かに聞こえ、鳥たちは歌うかのように声を鳴らしている。

 レイとの間にしばらく言葉はなかったが、沈黙が居心地の悪いものに感じることはなかった。


「……あっ!」


 穏やかに流れていた時間が、マナのひと声でふっと途切れた。

 何か思い出したように口元に手を当て、また足を止める。

 

「……今度はなんだ?」


 仕方なくレイも立ち止まり、少々面倒くさそうに振り返った。

 

「忘れ物したの! 新しい日記帳を持ってこようと思ってたのに!」

「日記帳?」


 レイが眉をひそめると、マナは(うなず)き、力説する。

 

「そう! 私もお母さんみたいに、旅の日記を書こうかなって! ……思ってたのに〜」


 そして、がっくりと肩を落とした。

 

「そんなもの、どこの街でも買えるだろう」


 落胆の色を見せるマナに、レイは肩をすくめ軽い口調で言う。

 

「……だよね。それに、あんな見送りまでしてもらって『忘れ物した』、なんて帰りづらいよね」


 苦笑いをしながらマナは頬をかいた。

 村を出たばかりなのに、少しだけ戻りたいという気持ちが湧いてくるのは、やはり心のどこかで名残惜しさを感じているからなのだろう。


 そんな彼女の様子を横目で見ながら、レイは(せま)るように呟く。


「それよりも、お前はもっと大事なことを忘れている」

「大事なこと?」


 マナはきょとんと目を(またた)かせる。


「約束しただろう。お前も小僧も、無事に帰した」

「そういえば……そうでした」


 ベルエスト山でした「生気をあげる」という約束をはたと思い出したマナは、ばつが悪そうに視線を逸らした。


 ──いろいろあって、すっかり忘れてた……。


 けれど、自分から交わした約束を破るのは気が引ける。

 さらには予期せぬ事故で怪我をさせ、約束以上のことをさせてしまったのだ。


 ──もし、レイがいなかったら……。

 

 そう考えると、彼は自分とアルトの命の恩人と言ってもいい。


 ちらっと目線を向けると、腕を組んでいるレイと目が合った。

 特に急かすでもなく、こちらの反応の一つひとつを楽しんでいるかのように、ただうっすらと笑っている。


 ── お願いだから、そんなふうに見つめないで……!


 恥ずかしさが襲いかかって、すぐにまた視線を逸らしてしまう。

 余裕たっぷりな彼の表情に耐えきれなくなったマナは、観念したように口を開く。


「じゃあせめて……、目……つむってて」


 はにかみ顔を赤くしているマナを前に、レイは少しだけ首を傾げる。

 彼はふっと笑うと、黙って目を閉じた。

 

 羨ましいくらいに長いまつ毛、怖いくらいに整った顔立ち。

 青い瞳は閉じられているのに、すべてを見透かされているかのようだった。

 

 マナは小さく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。

 何度繰り返しても心臓の鼓動は速いままだが、ついに覚悟を決めたように「えい」と気合を入れる。

 そして、ふわりと(かかと)を浮かせ、彼の頬に唇を寄せた。


「…………はい! もうおしまい!」


 すぐに身体を引いたマナは、ぱんっと手を打ち、無理やりこの空気を変えようと試みる。

 

 ──落ち着け、落ち着け……!


 そんな自己暗示も(むな)しく、心臓はドキドキとうるさいくらいに鳴り響いている。

 火照った頬を両手で押さえるも、熱は引くどころかますます広がっていくようだった。

 レイの顔なんて、まともに見られるはずがない。思わず彼に背を向ける。


 ──もうレイに何かをお願いするのやめよう……!


 この調子だと、きっとまた心臓がもたない。

 しかし、その考えが甘かったことをすぐに思い知る。

 

「まだ足りない」


 低い声が聞こえたと同時に、腕を取られた。

 とても軽い力なのに(あらが)えない。

 目の前には、レイの整った顔。

 こちらの動揺がわかっていたかのように、青い瞳が細められる。


 次に感じたのは、頬に触れるあの感触。


「……っ!」


 キスされたと気づいた瞬間、頭が真っ白になった。

 ピクリとも動けずにいるマナを見下ろしながら、レイは満足げにぼそりと呟く。


「やはり、生気は奪うより与えられた方が美味い」


 妖精の聖樹地で突然キスされたとき、彼が「何か違う」と言った意味がようやくわかった。

 続きを待っているように、レイは意地悪く笑っている。


「……だから?」


 戸惑いながら問いかけると、レイはあくまで当然のように言った。

 

「お前から口付けしろ」

「私からキスするなんて……無理に決まってるでしょ⁉︎」


 顔を真っ赤にしたまま叫ぶと、彼は余裕たっぷりに肩をすくめる。

 

「だろうな」


 レイはくっくっと小さく笑い、マナの腰を引き寄せた。

 抵抗する間もなく抱きしめられ、耳元に彼の吐息と一緒に甘く(ささや)く声が落ちた。


「だからしばらくは、俺からで我慢してやる」


 そう言って、レイがまた顔を寄せてくる。

 

 ──ちょっ……!

 

 身体を引こうとするけれど、レイとの距離は縮むばかり。

 耳元に残る熱を振り払うように、必死に声を振り絞る。

 

「……命令よ」


 そして、思いっきり言ってやった。

 

「私から……離れなさぁぁい!」


最後までお読みいただきありがとうございました。


面白かったと思っていただけたら、ぜひブクマや評価をよろしくお願いします★★★★★

「面白かった」の一言感想だけでもとても喜びます!


マナとレイの旅は始まったばかりです。

またいつか、二人の旅が再開するかもしれません。

その時は、また温かい目で見守ってくださると嬉しいです。


ここまでこれたのも皆様のおかげです。

本当に、ありがとうございました。


葉南子

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ここまで見ていただきありがとうございます
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更新は遅くて申し訳ないですが、ゆっくりとマナとレイの行く末を見守ってくださると嬉しいです★★★★★
今後ともよろしくお願いいたします
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― 新着の感想 ―
こんばんは!この度は、完結おめでとうございます……! 半年ほど読ませていただいていたので、胸にぽっかり穴が空いたように寂しいですが、これからもふたりの幸せな日々は続くだろうと信じています。 出会いに繋…
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