番外編 ある潔癖症の崩壊
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読者の皆様のおかげです、嬉しい!
完結になったばかりですが、番外編を追加します!
その日、王都の空に祝砲が響いた。
ヘルフリート王の治代は、アナクレト王の敷いた登用制度を引き継ぎ、貴族も平民も能力主義を貫いた。
ただし、幼い頃より教育の機会に恵まれていた貴族に有利ではあったが、真に能力のある平民は台頭してきた。
レクーツナ王国と友好条約を締結したことにより、レクーツナの脅威が減ったばかりでなく、レクーツナと友好状態にあるメルデア王国を侵略しようとする周辺諸国は無くなったことで、過重だった軍事費用の一部が税負担の軽減に回された。
そうなると経済は安定し、生活が良くなってきて、あれほどアナクレト王を慕っていた平民達も、ヘルフリートを支持しだした。
廊下にバタバタと足音が聞こえ、侍女が扉を開けるのと入れ違いにヘルフリートが飛び出した。
それまで、落ち着きなくウロウロしていたヘルフリートの姿を笑っていたケーリッヒも、後に続く。
「エヴァンジェリンは無事か!?」
部屋に飛び込んて来たヘルフリートは、一直線にベットに歩む。
エヴァンジェリンは、医師や看護婦に囲まれて、ベッドに寝ていた。
「ヘルフリート様」
エヴァンジェリンの顔はむくみ、歯を食いしばったのか唇が切れ治療を受けているが、嬉しそうに笑っている。
その腕には、小さな塊を抱いていた。
「王子です」
エヴァンジェリンから、その塊を受け取ると、ヘルフリートは涙がこみ上げてきた。
「可愛い」
赤い顔で一生懸命、ふにふにしている。小さな手はさらに小さな指を握り込んでいる。
「ありがとう、エヴァンジェリン。よく頑張ってくれた」
出産で命を落とす女性もいるのだ。それほど過酷だと、むくんだエヴァンジェリンの顔が物語っている。
ヘルフリートの頭に、父親であるクレーメンスの顔が浮かんだ。
幼かった自分でさえ噂は耳に入っていた。
噂好きの王宮の侍女達。
『アナクレト王太子殿下は陛下の子供なの?』
『正妃様が嫁いで8年も懐妊されなかった。他の側妃様は懐妊の兆しがなく2年で実家に戻されたけど、再婚先で出産されたようよ』
『でも、ヘルフリート殿下は陛下にそっくりよ』
『そうよね』
王である父が、気付いてないはずない。
父は母を大事にしていた。
今なら分かる、父は母を愛していた。
母も父を愛していたんだ。
そして、アナクレトも噂を知らないはずがなかった。
それでも、自分を王補佐として側に置いてくれた。
血の繋がりがなくとも、兄であった。
失くしてしまった家族。
「エヴァンジェリン、ありがとう。私に家族をくれて」
小さな命は、強く抱きしめると壊してしまいそうで、それでも温かくて、安心したように眠っている。
こんな大事な存在を与えてくれたエヴァンジェリンは、やはり天使だろう。
「ヒューメンス、という名はどうだろう?」
父上、貴方の名前をいただきました。
「ヒューメンス、とてもいい名だと思います」
エヴァンジェリンは幸せを感じていたが、出産は痛くて辛くて、二度としたくないと思っていた。
ヘルフリートは子煩悩な王であった。
時間を見つけては、ヒューメンスの様子を見に来ていた。
乳母から取り上げては、抱き上げている。だが、赤ん坊はよく吐く、おもらしも頻繁にする。
ヘルフリートの絹の手袋に、ゴボゴボと遠慮なく吐く。
抱いているヘルフリートの胸元を舐めて、涎でドロドロにするのが日常茶飯事となった。
歩くようになると、ヘルフリートが整頓してあった書類や本を倒し歩いた。
すぐに抱っこをせがんだり、手を繋いでくる幼児には、手袋を外すのが間に合わない。
手袋をしなくなったヘルフリートは、ヒューメンスと手を繫ぎ、王宮の廊下を歩くのが日課となっていた。
あれほど二度と出産しないと誓っていたエヴァンジェリンは、その後、第2王子と王女を出産することになる。
読んでいただき、ありがとうございました。
次のお話も書いているのですが、少し休憩します。
また、お会いできることを願って!
violet




