変わったもの
「そうか」
ヘルフリートは、護衛の騎士から報告を受けていた。
残存する不穏分子はまだいるだろうが、これで多くを討ち取ったと思っていいだろう。
レクーツナ王国とヘルフリートという、彼らにとっての悪を揃え、大々的に祝賀会をしたのだ。
『待つのは性に合わない。炙り出せばいいのです。
まだアナクレト王の喪中というのに、豪華な祝賀会。彼らの苛立ちは最高潮になるでしょう。
庭園に警備の穴を開けておきましょう』
案を立てたのは、ケーリッヒである。穴の開いた警備と思わせて、密かに多くの騎士を配備してあった。
待ち伏せしていた所に現れたのは、予想より多くの男達だった。
それほどアナクレトは、良き王であったのだろう。
騎士が下がるとヘルフリートとエヴァンジェリンは、貴族達の挨拶を受けていた。
戴冠式に参列出来なかった低位貴族も、王となったヘルフリートに挨拶しようと列をなしていた。
数が多すぎて、顔なんて覚えていられないし、長時間立っているだけなのは辛い。
相手が名前を述べて、ヘルフリートに美辞麗句を言って下がる。その挨拶を延々と受けているのだ。
頭の中で文句を言っても、私は王妃、と笑顔を貼り付ける。
エヴァンジェリンは、ドレスの中でこっそり足を動かして血流を良くしていた。
ヘルフリートはそれに気が付いていたが、気付かぬ振りをしてあげようとしても顔が緩んでしまう。
なんでこんなに可愛いかな、と先ほどまで尖っていた気持ちが和らぐ。
「きゃ」
挨拶の終わった貴族が動こうとして、娘の方がヘルフリートに倒れ込んだ。
紳士ならば令嬢を受け止めるべきなのだが、ヘルフリートは令嬢を避ける。それでもヘルフリートの腕をかすってよろけるのを、護衛の騎士が支えた。
エヴァンジェリンは、その令嬢が胸からヘルフリートに倒れ込むのを見た。
絶対に、わざとだ!
王になったヘルフリートの側妃を狙ってアピールしているのだろう。
女性を遠ざけていたヘルフリートが、エヴァンジェリンと結婚したなら自分もということか・・
ヘルフリートの子供を最初に産んだ方が勝ちとでも思っているのか、頭が悪すぎる。
顔に見覚えがあり、夜会でミッシェルに引っ付いていた令嬢の一人だと思い出した。
ミッシェルは彼女達の元に行き、エヴァンジェリンは壁際に一人取り残されていた。
ミッシェルと同じように、エヴァンジェリンから取ることが出来ると思っているらしい。
過去のエヴァンジェリンならば、何も言えず泣き寝入りするが、王妃となった今、許すわけにいかない。
エヴァンジェリンが一歩前に出た時に、隣からパンパンと服を払う音がした。
ヘルフリートが、令嬢がかすめた腕を手袋をはめた手で払っているのだ。
しかも、その手袋を外すと侍従に渡して、新しい手袋をはめたのだ。
「それは捨てろ。その女は二度と私の前に出すな」
ヘルフリートは、やはりヘルフリートなのだ。変わっていない。
周りが茫然と見ている中で、ヘルフリートは消毒とばかりに、エヴァンジェリンの手を握ってきた。
「エヴァンジェリン」
「はい」
エヴァンジェリンが返事をしても、ヘルフリートはそれ以上は言わない。
ならば、私が言ってもいいよね、とエヴァンジェリンがヘルフリートの握る手に力をこめる。
「好きにしていい?」
エヴァンジェリンが尋ねれば、ヘルフリートが答える。
「君は只一人の妻だ。この国の王妃だ」
笑顔を見せながらエヴァンジェリンはヘルフリートの肩に頭を預ける。
それをヘルフリートが嫌がらないと皆に見せて、横目で騎士に追い出されるように連れていかれる令嬢と父親を見る。
エヴァンジェリンの視線を、列に並んでいる皆が追う。
エヴァンジェリンが何もしなくとも、この人達が何かしてくれるだろう。
私って、悪い~。
ずっと、こうしたかったのよ。
あの時は、ミッシェルの言う事をきいていれば、自分の所に戻って来てくれると思っていたし、見苦しい事をすれば嫌われると思っていた。
ミッシェルの事が好きだった。それは嘘じゃない。
好きだった分、ミッシェルが不幸になればいいと願った。あさましい私。
でも今は違う。
あれから、いろんな事が変わった。
私が変わったからか周りが変わったのか、立場が変わったから私が変わった?
どちらかは知らないけど、私は今の私が好き。
そして、ヘルフリートと一緒に歩いて行きたい。




