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戴冠式と結婚式

ヘルフリートの戴冠式は、(おごそ)かに行われた。

兄である前王と王妃を弑し、子供である王子まで逃走を図った罪で断罪しての王位である。

そして、それを祝うために参列したのはレクーツナ王太子。


ヘルフリートが教会の法王から王冠を被らされると、列席していた貴族達からは喜びの声があがった。

30年にわたる長き期間、希望を失くしそうな時もあった。だが、それがここに実ったのだ。

連血状に名前を連ねた貴族達の多くは、王家の秘密を知らないが、ヘルフリートを王にするという意志で集まった者達だ。


その後は、ヘルフリートとエヴァンジェリンの結婚式である。

祝い事を続けることで、恩赦を増やして新体制を確立させるためだ。

そして、レクーツナ王太子を迎えるにあたり、王だけよりも王妃が揃っている方が望ましいという事でもある。

結婚式を早めることに、ヘルフリートが意欲的であった。




長いレースのベールのエヴァンジェリンは、赤い絨毯をヘルフリートの待つ祭壇へと歩む。

祭壇に立つのは、戴冠式を執り行った法王、その前には新郎のヘルフリート。

近づいて来るエヴァンジェリンに、ヘルフリートは手を差し出した。

「とても綺麗だ」

その言葉を聞いて、エヴァンジェリンは少し落ち着いてきた。

「ありがとうございます」

それを言うのが精一杯で、殿下もステキです、と言いたいのだが言葉に出来ない。


「横に立ってくれるだけで、嬉しいんだ」

ヘルフリートは、エヴァンジェリンが緊張しているのを分かっているかのように微笑んだ。

そして、エヴァンジェリンの手を取り、祭壇に向き直ると、法王が結婚の誓いを確認する。

「ヘルフリート・フォン・メルデアは、エヴァンジェリン・シェレスを妻とすることを誓いますか?」

「はい」

「エヴァンジェリン・シェレスは、ヘルフリート・フォン・メルデアを夫とすることを誓いますか?」

「はい」

ヘルフリートがエヴァンジェリンの顔にかかるベールをあげて、口づけをする。

「ここに、メルデア王の結婚と王妃の誕生を宣誓する」

法王が宣誓したことで、結婚式が終了する。




従来なら、新郎、新婦が蜜月に入るのだが、この後にレクーツナとの条約締結がある。

新居となる夫婦の居室で、エヴァンジェリンはウェディングドレスを脱いでいた。

侍女のアネットがそれを手伝い、お茶の用意をしている。

着替えるのは夜着ではなく、豪華なドレス。


初夜は、条約締結を終え、国の体制が落ち着いてからと言われていた。

結婚が急遽早まった為に、不安だった部分が延びて、ほっとしている、というのがエヴァンジェリンの気持ちである。

それに、ヘルフリートがそう言うのなら、不安などない。ヘルフリートがエヴァンジェリンを好き、というのを知っているから。

何より、ミッシェルの時のように、婚約解消になる心配はもうない。


「アネット、食事はこちらに運んでちょうだい。

ヘルフリート様は、今夜は来られないから」

今日だけでなく、当分来られないのだが・・

ヘルフリートだけでなく、宰相もケーリッヒも徹夜で草案作業が続いていた。それが当分、続くのだ。


ビスクス伯爵夫人となる予定だったエヴァンジェリンは、王妃教育など受けていない。

結婚して王妃になったけれど、何をしていいのか分からないのだ。

対外的に王妃が必要なら、王の横で笑っていればいい、それぐらいしか思いつかない。

「はぁ、疲れた。

少し寝るから、食事は遅めにしてね」

言いながら、ソファにゴロンと横になる。


「エヴァンジェリン様、こちらでは風邪を引かれます」

アネットが心配しても、エヴァンジェリンは平気である。

「だって、ベッドに行くの面倒だし、ドレスが(しわ)になっちゃうもの。

他の侍女もいないし、アネットだけだもの、いいじゃない」

はぁ、と手足を延ばしてノビまでしている。


これからの時間はいっぱいある、王妃の勉強はこれからでも出来る。

友好条約の後はレクーツナ王太子の歓迎会でしょ、病院の訪問もしたいし・・・

でも、今は少し休ませて、とエヴァンジェリンは眠りについた。


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