近寄る想い
ヘルフリートとエヴァンジェリンは、公爵邸の庭を歩いていた。
王都のタウンハウスは、厳重警戒態勢になっているため、どこにいても警備の目がある。
ヘルフリートにしても、エヴァンジェリンの安全を守る為には、これでも足りないと思っている。
庭のベンチにエヴァンジェリンを座らせて、ヘルフリートはその前に立つ。
これなら、警備からエヴァンジェリンの表情は見れない。
「殿下、勝つと信じておりますが、ミッシェルは軍人です」
王族として剣の訓練をしていても、ミッシェルは騎士として軍夫訓練を受けているはずだ。エヴァンジェリンは不安が拭えない。
ミッシェルの事が好きだと思っていた。
でも、ヘルフリートから大事にされて気持ちは動いた。
好きになった人が、エヴァンジェリンを好きでいてくれる幸せを知った。
「ミッシェルが死んでも、殿下にかすり傷さえ負って欲しくない、と思ってしまうの」
涙をためて、エヴァンジェリンにこんなことを言われたら、ヘルフリートが嬉しくないはずがない。
エヴァンジェリンの手を取ろうとして、手袋をしている事に気が付いた。
手袋を外して、エヴァンジェリンの手を握る。
二人の体温が伝わるようで、気持ちも温かくなってくる。
二人で見つめ合うと、どちらからともく笑顔がこぼれる。
「エヴァンジェリン嬢、私は絶対に勝つ。貴女の為に」
エヴァンジェリンの元婚約者は、軍人と言っても、伯爵子息の身分で士官にはなっただけで、訓練を熱心にしていた部類ではない。騎士という身分をひけらかせて、女性を物色していたようだ。
軍人というのに、実戦に出たこともない。
それに比べ、ヘルフリートは国境の砦に行った時も、刺客の部隊長と一戦を交えたのだ。
エヴァンジェリンの唇に触れたいと思うが、ここは警備の目があると、ヘルフリートは気持ちを逸らす。自分はいいが、エヴァンジェリンは恥ずかしいだろう。それで嫌われたらと思うと、手が出せない。
繫いだ手を口元に引き寄せ、エヴァンジェリンの指にキスをすると、一瞬でエヴァンジェリンが赤くなる。
「殿下、私の事はエヴァンジェリン、とお呼びください」
名前を呼ぶ許しが出て、また近づいたように思う。
「エヴァンジェリン、私のことも殿下でなく名前で」
「はい、ヘルフリート様」
赤くなったエヴァンジェリンが、自分の名前を呼ぶ、ヘルフリートは幸せをかみしめていた。この幸せを守る為には、エヴァンジェリンに害をなす者を排除せねばならない。
ベンチの横に咲いている花を一輪千切って、エヴァンジェリンの髪に挿す。
「ヘルフリート様」
「とても、綺麗だ」
庭の小石を踏む音に振り返れば、ケーリッヒがいた。
「殿下、そろそろ王宮に戻る時間です」
「そうか」
ヘルフリートは名残惜しそうに、エヴァンジェリンの手を離す。
「また来る、それまでリュシアンを頼む」
「はい、ヘルフリート様」
ミッシェルの時も、はい、と言った。だが、今はあの時とは違う。エヴァンジェリンにはすべきことがある。
厩に向かいながら、ケーリッヒがヘルフリートに告げる。
「あの二人は、黒騎士でした」
眉をピクリと動かしたヘルフリートだったが、さほどの驚きはしない。
「そうか」
なら、惨めな戦いを見せるわけにいかない。
それにしても、黒騎士、やっかいなのが来たな。
来るときは、エヴァンジェリンがいたので馬車だったが、帰りは馬に乗る。
ヘルフリートの服の隠しには、リュシアンが持ち帰った書状と、エヴァンジェリンが作ったリボンが入っている。




