公爵家の父息子
ヘルフリートは王宮に戻り、シェレス公爵とケーリッヒは書斎に閉じ籠っていた。
何年も時を待っていたのか、すでに招集する名簿は出来上がっていた。
「父上、これはいつから?」
ケーリッヒは書類を確認しながら、父親のシェレス公爵に確認するが、公爵はそれには答えなかった。
「殿下は変わられた」
ケーリッヒもそれは分かっていた。
王宮に戻る時の後ろ姿が、今までとは違っていた。
「はい、信用できると思えるお姿です」
「我らは、何度も前王に王太子を替えるように進言したのだ。
だが、ヘルフリート王子は幼いだけではなく、争いを好まない性格で頼りなかった。
反面、アナクレト王太子は好戦的で地位に固執をしているのは明らかだった」
公爵は、王子二人の性格の違いだけではないと続ける。
「ヘルフリート王子が王となったとして、母上であられるサラティ王妃の母国レクーツナの傀儡になることも危惧された。
結局は、アナクレト王太子が王位を継いだのだ。それはレクーツナ王国にとって友好条約を解消すると宣言するに等しいことだ。
友好の為に嫁いだ王妃の子供でない、側妃の子供を王にしたのだから」
「でも、今は違う。そう言いたいのでしょう?父上」
「お前もだ、私から逃げ出して軍に入ったと思っていた」
ケーリッヒが思わぬ反撃に遭い、眉をひそめる。
「結果的に新しい人脈が出来ました」
ケーリッヒは否定しない、父親が苦手だったと言っているのと同じである。
「エヴァンジェリンは可愛い。
体調も戻ってない弱いエヴァンジェリンが狙われるなど、許せる事ではない。
エヴァンジェリンを守るには、強くなければならない。
殿下もそう思われたのだろう」
家族の前で無口であった父だが、本当はこんな姿だったのか、とケーリッヒは聞いている。
「父上は、エヴァンジェリンの安全の為に王妃になるのを阻止しようとしないのですか?」
ヘルフリートと婚約したから、エヴァンジェリンが危険になったのは分かり切っている。
「殿下ほど思ってくれるなら、娘が幸せになれると思えた。
そして、全てを排除して王妃になるのが安全だと考えた。
今は、その過程だ」
読んだ書類は、他の目に触れないように隠し引き出しに仕舞ってケーリッヒは父親にグラスを渡した。
「ロックでいいですか?」
ケーリッヒがそのグラスに酒を注いでいく。
「エヴァンジェリンと母上の作ったクッキーは美味かったですね。
形がいびつなのが、特別な気がして」
ケーリッヒが言うと、公爵が書斎の机の引き出しを開けて、宝石で飾られた小さな箱を取り出す。
中には、いびつなクッキー。
「父上、これ母上の?」
ハハハ、カビますよ、とケーリッヒが笑い出す。
「オフィーリアの初めての手作りだ」
もったいなくて食べれない、とでも言うのか、とケーリッヒは耳を疑いたくなった。
「でも、これを見ながらの酒ってのもいいですね」
「息子と酒を交わすってのもいいな」
カチンとグラスを合わせて、シェレス公爵が飲み干す。
エヴァンジェリンは凄いな。
すれ違っていた家族を変えてしまった。
今の状態は好きだな、ケーリッヒも酒を飲み干した。




