狙われた公爵令嬢
エヴァンジェリンが馬車に乗った後、モーガンは王弟の執務室に連行された。
ヘルフリートとケーリッヒが尋問するために、新しく任命された護衛の騎士がモーガンを縛っている。
「僕は、顔色の悪い公爵令嬢を休憩室に案内しただけです」
モーガンは、俺ではなく僕と自称している。
エヴァンジェリンに対してとは、明らかに態度が違う。
「馬車寄せにお連れする予定でしたが、馬車に揺られるのは無理に見えましたので、お休みいただいた方がいいと判断しました」
王弟殿下に対しての礼を取り、丁寧な言葉使いは怪しいところはない。
「たとえそうだとしても、侍女を呼ぶべきであった。
男と二人きりになるのを恐れて、妹は抵抗していた。違うか?」
ケーリッヒが忌々し気にモーガンを見る。
「王妃がお前を庇うと思っているのか? 知らぬ存ぜぬを通したぞ」
モーガンが、縛られた身体をよじり始めたが、緩みもしないと分かると足で床を強く踏みつけた。
ダン!
「解いてくれ」
「ダメだ、お前は王妃に捨てられたんだ。お前は叩けばイロイロ出て来るだろう」
ケーリッヒがヘルフリートに確認すると頷く。
「知ってたんだ!」
モーガンが声を大きくする。エヴァンジェリンを前から知っていたと言いたい。
「王妃に連れられて出席した夜会で何度も見かけたんだ。
公爵令嬢なのに一人静かにいることが多くって、噂話をしているグループには近寄りもしてなかった」
モーガンと同じエヴァンジェリンの姿を、ヘルフリートは知っている。
あの姿は綺麗で、近寄ってはいけないと思わせた。
妹に関心の少なかったケーリッヒは知らない。
「王妃が、俺が失敗したと知ってしまったんだ!」
まるでエヴァンジェリンを助けたかったように、モーガンが声をあげる。
ケーリッヒはさっき自分が言った言葉で、モーガンが反応した意味を悟った。
『知らぬ存ぜぬを通したぞ』
失敗した男などいらない、その意味だけではないのだ。
モーガンが王妃の指示でエヴァンジェリンに危害を加えようとして失敗したのなら、王妃は次の手を打つはずだ。
王妃は王がエヴァンジェリンに興味を持った為に排除に動いているのだが、ヘルフリートとケーリッヒは知らない。
ヘルフリートが王になれば、王妃ではなくなるので、それを阻止する為にヘルフリートとシェレス公爵家の縁談を壊そうとしている、と考えた。
「エヴァンジェリンには護衛が付いている」
侍女も一緒に馬車に乗っていたが、侍女では護衛の役には立たない。
「何人だ?」
モーガンが、不安を煽るように聞いてくるが、王宮と公爵邸は、遠い距離でもなく、王都で襲うようなことは不可能だろう。
「一人だが、腕の立つ人間だ」
ケーリッヒは答えるも、身体は動き出している。
「馬車を追うぞ」
ヘルフリートも剣を手に取り、執務室を飛び出した。
エヴァンジェリンが乗る馬車は、王宮を出てすぐに馬に異変が起こっていた。
急に暴走を始めたのだ。
「きゃぁあぁ!」
侍女と2人、馬車の中で身を寄せ合っていた。
ガクン!
馬車は一際大きく揺れて傾いた。
道の小石に車輪が跳ねたのだ。
「お嬢様!」
侍女の身体がエヴァンジェリンの下敷きになるよう、もぐり込んできた。
ドーン!!
馬車は、馬も道連れにして倒れる。
馬で追いかけて来たヘルフリートとケーリッヒが見たのは、王都の中で、横倒しになった馬車に人々が集っているところだった。
「エヴァンジェリン!!」




