王の策略
王の側近のブラウリオは自ら厨房に赴きそこにいた侍女に、王の執務室にお茶を運ぶように指示をした。
王妃イメルダの侍女達がお茶菓子の準備をしていたのだが、その一人を指名したのだった。
「そのブラウンの髪の君、王は少し濃いめの茶が好みだ」
それだけ言うと、厨房を出ていくブラウリオに侍女は従うしかなく、急いでお茶の準備を始めた。
「王妃様のお菓子は、運ぶだけだから私がやっておくから、貴女は陛下のお茶を運んだらいいわ」
「マリーナ、私が手伝うわ」
「ありがとう、ニンファ」
マリーナとニンファを残して、侍女は王妃の菓子を運んでいく。
「ブラウリオ様、ステキよね」
「今日のお菓子当番で良かったわ」
マリーナとニンファは楽しそうにお茶の用意をして、王の執務室にワゴンを運び、ドアをノックする。
「お茶をお持ちしました」
声をかければ、中に入ってお茶を淹れるように返事がある。
「失礼します」
部屋の中は、王とブラウリオ、数人の事務官が控えていた。
マリーナとニンファは部屋の隅で人数分のお茶の準備をするが、執務室の会話が聞こえてくる。
「そうか、シェレス公爵令嬢の婚約が解消されたのだな?」
「はい、陛下」
「貴族間の軋轢を無くす為には、私が公爵令嬢を娶るのがよかろう」
「しかし、陛下にはすでに王妃様がおられます」
「公爵令嬢を側妃というわけにいかぬ。令嬢は若いからすぐに王太子を産んでくれよう」
「公爵夫人に似て美しいご令嬢だそうです。17歳と若いのがいいですね」
王アナクレトとブラウリオが、小さいが侍女達に聞こえる程度の声で会話をする。
現王妃を下げ、新しく公爵令嬢を王妃として迎える、と聞こえるように言葉を選ぶ。
しかも、公爵令嬢が産む子供を世継ぎとする、と言いきる。
公爵夫人の美貌は有名であり、公爵は宰相で国の権力者の一人だ。
その公爵家の娘。
王と同じ年の王妃は34歳。女盛りであるが、初々しさはない。
マリーナとニンファは、聞こえた話に手が震えてしまう。
アナクレトとブラウリオも内心笑いが込み上げてきたが、表情に出したりはしない。
事務官達も仕事をする振りをしながら、侍女達が聞いているのを確認する。
お茶を淹れ終わると、控えめに礼をして部屋を出ていく侍女達。
パタン、と扉が閉まると、抑えていた笑いが込み上げてくる。
「ブラウリオ、お前上手いな」
アナクレトは口元を押さえているが、肩が震えている。
「お喋りな侍女は、イメルダに直ぐに告げ口するだろう」
ブラウリオが、侍女が淹れたお茶をアナクレトに差し出す。
「イメルダは、昔はもう少し賢いと思っていたが、愚かな事をしてくれるだろう」
カップを手に取り、アナクレトが香りを楽しむ。
「王妃様の動向は常に監視しております。
どんな事も証拠が残るでしょう」
ブラウリオもカップを手に取り、一口飲む。
「イメルダが公爵令嬢を殺めれば、ヘルフリートと令嬢の結婚は無くなり、イメルダは公爵令嬢殺人犯だ。
失敗しても、イメルダは公爵令嬢殺人未遂で投獄、公爵令嬢か利の多い令嬢を後釜に据えればいいだけのこと」
エヴァンジェリンが王妃に殺されるのを、期待しているかのようにアナクレトが言う。
そうだ、とアナクレトはさらに楽しそうになる。
「イメルダが公爵令嬢を殺すところを助ければ、公爵家に大きな恩を与えるな。」
私がシェレス公爵令嬢を奪えば、ヘルフリートはどうするかな?
「楽しいな、ブラウリオ」
弟の悔しがる顔を見たいものだ。




