エヴァンジェリンの発見
その夜は、両親と夕食を摂った。
シェレス公爵はエヴァンジェリンの様子に安堵していた。
体調は急速に良くなり、吐血の兆候もない。
王弟殿下が屋敷を訪れ、エヴァンジェリンと交流したと聞く。
しかも、妻までエヴァンジェリンに合わせたかのように笑顔を見せるようになった。
手作りのクッキーだと差し出された時は驚いた。
いびつな形のクッキーだったが、一生懸命作ったかと思うと、なにより美味しかった。
「エヴァンジェリン、殿下はどうだった?」
ずいぶんストレートに聞くが、濁しても仕方ない。
「とても優しくて、お花をいただきました」
エヴァンジェリンの優しい、という言葉を公爵は聞いている。
政治的手腕という意味において、王弟殿下は優しいとは遠い存在である。
そうでなければ、王と高位貴族の間において中庸でいられない。
エヴァンジェリンは婚約者になったことで、人々の注目を浴びるだろうし、危険も多くなるだろう。
「これから殿下はお忙しくなる。
お前に専任の護衛と侍女を付ける」
伯爵子息のミッシェルと違い、次の婚約者は王弟だ、護衛は必要なのだ。
「常にどちらかといるように」
「はい」
エヴァンジェリンも公爵令嬢なのだから護衛に慣れている。
話はお終いだ、と食事が続けられる。
「おはようございます。
お嬢様付きになりましたアネットです」
「まぁ、アネット、貴女なら安心だわ」
エヴァンジェリンの専任侍女になったアネットは、エヴァンジェリンより2歳上で上級メイドとして働いていたのを侍女に引き上げたようだ。
エヴァンジェリンは知った人間であることで、安心したのだ。
公爵は、外部から新たに下位貴族の令嬢を侍女として受け入れるより、元からいた人間の方が安全と判断したという事だ。
アネットは何も言わずとも、ベッドにエヴァンジェリンの好きなお茶を持って来る。
カップを受け取りお茶を飲むと、エヴァンジェリンはベッドから降り着替えを始める。
いつもはメイドを呼ぶのだが、今日からは専任の侍女がいる。
「庭に散歩に行きたいの」
エヴァンジェリンが言うと、アネットはそれに見合う服を用意する。
朝食を摂り、アネットを連れて庭を散策すると、歩道の脇に小さな芽が出ていた。
「なんの芽かしら?」
庭師に確認すると、水仙の芽だと言うのだ。
エヴァンジェリンは庭の片隅に自分用の花壇を用意させると、そこに芽の出た水仙を植え替えた。この小さな芽が自分のように思えたのだ。
綺麗な花を咲かせて欲しい。
初めて触った花壇の土は固かった。
庭師に教えてもらいながら掘り起こすと、それは柔らかくなった。
手が土に汚れたが、それ以上に満足感があった。




