第56話 トルシェ、恐ろしい子
今回は残酷回かもしれませんが、作者が作者ですので、そんなに残酷ではないと思います。
トルシェの『穿孔光針』で打ち抜かれ、膝から先をなくした4人が這って逃げようとしている。
俺に両腕を切り飛ばされて少し先で転がっている男もなんとか俺たちから逃げようと地面の上であがいていたのが鬱陶しいし邪魔なので、鎧の襟元に手を入れて引きずり上げ、そのままトルシェの方に放り投げてやった。
思った以上に軽かったせいで、だいぶ高く上がったそいつの体が、トルシェの目の前の地面に落ちてグシャリと変な音を立てて、そのまま動かなくなった。
こいつは死んだな。その様子を見ていたトルシェの氷のような目。こいつはある意味幸せだったのかも知れん。
「それじゃあ、わたしと交代しましょう。ダークンさんは、アズランを看ててください」
『お、おう』
トルシェは無表情のまま目を細め、おそらく死んで転がっている目の前の男に向けて右手を伸ばし、『黒光のムチ』を打ち付けた。
極太の黒のマジック・インクで描いたようなムチが男の体に絡みつき、音はしないがまさにシューという感じで男が干からびたのだが、そのままさらに脱水が進み、真っ黒でスカスカの炭が骸骨にこびりついたミイラができ上がった。
骸骨そのものはいたるところで折れて破損していたようで、結局その男はボロボロの炭と骨の塊になってしまった。
トルシェはその炭と骨の塊をバリバリと小気味よい音を立てながら踏みつぶし、最近出番のあまりなかった短弓、烏殺を左手に、ヒーヒー言いながら這って少しでも遠くに逃げようとあがいている連中の方に歩いて行った。
トルシェが後ろから近づいて来るのに気付いた『暁の刃』のリーダーのマーシーが、
「よせ、よしてくれー。俺には家族がいるんだ。頼む、殺さないでくれ」
その家族のために、ああいった形でトルシェを見殺しにしたとなると、その家族も同罪になるぞ。それでもいいのか?
マーシーが泣き言を言い始めたが、トルシェはそれには何も答えず、矢筒から取り出した一本の矢を烏殺につがえ、マーシーの隣で必死に逃げようと右腕の付け根から血を流しながらもがいている男の頭を射抜いた。男の頭蓋を突き抜けた矢はそのままその先であがいていた男の後頭部に突き刺さり、その男も動かなくなった。
トルシェはもう一度矢を烏殺につがえ、マーシーの他にもう一人生き残っていた男に向けて矢を放った。矢は斜め後ろから頭蓋骨を貫通し、頭から突き出た矢じりの先には男の目玉がくっついていた。その目玉はいったんは形をとどめていたが、すぐにドロリと矢じりから外れ地面にこぼれ落ちて潰れてしまった。
「マーシー、お仲間はみんないなくなった。つぎはお前の番だ」
「……? もしかして、その声は、ゴミクズか? なんでおまえが?」
トルシェはそれには答えず、
「おまえに家族がいたのなら、殺すのは忍びないな。悪いようにはしない。おまえの家族とやらはどこにいるんだ?」
おー、トルシェさん、ほんとに皆殺しにするつもりだよ。復讐の連鎖はすっきりきっぱり断ち切らなくちゃな。
「何が言いたい? まさか?」
「心配するな、おまえの家族の首をおまえの前に持って来るわけじゃない。面倒だからな。そのかわり、おまえは家族があの世に着いたときにお出迎えでもしてやれ」
トルシェの右手が上がり、『黒光のムチ』をマーシーに打ち付けた。
ギャーー!
生きながら炭にされるのは苦しいと思うよ。
マーシーの悲鳴はすぐに小さくなって辺りは静かになった。
トルシェは骨と炭になったマーシーだったものの残骸を何度も踏みつぶし、残った死体も骨と炭に変えて蹴っ飛ばして粉々にしてしまった。
「ふー、やっとすっきりした。この連中の持ってた武器は売り払うと足がつくかも知れませんから置いておきましょう。お金はいくらか持っていたようですからそれだけ拾っておきますね。
……、こんなところかな。結構こいつら持ってたな。それじゃあ、ダークンさん、アズランを連れて行きましょうか」
風呂上がりで、さっぱりした。というような軽い感じの声だ。
俺は黙って、寝息をたてているアズランを背負い、
『トルシェ、そこに転がっている足はどうする? 八個も並んでると見ごたえはあるな』
「放っておいたら、のら犬が持っていくから大丈夫ですよ」
『街の連中が足をくわえている犬を見たら、ちょっと引くんじゃないか?』
「ここは、迷宮都市テルミナですよ。そんなヤワなヤツなんていませんよ」
『そうか?』
『窮鳥懐に入れば猟師も殺さず』という言葉があったが、トルシェには通用しないな。それでこそ『闇の眷属』。




