第39話 闇の使徒?
冒険者ギルドでは面白い経験をさせてもらった。
トルシェは知らぬ間に、体から離れて火の玉を作り出すことを物にしていた。本当に才能のあるやつはすごい。
その才能を伸ばした本人が言うのだから間違いがない。
「ワハハハ」
そのあと、トルシェに連れられて入った店は雑貨屋で、最初に革の丈夫な紐を買い、その場で冒険者カードという名の木の札に付けて首からぶら下げておいた。
そのあとトルシェは、そのほかのこまごました雑貨の他、革製の水袋を6つも買っていた。
そして俺には、リュックだ。リュックなんぞ不要と言ったら、トルシェの水袋を俺も運ばなければいけないらしい。別にそのくらいいいけどな。
トルシェは建前上俺の眷属だったはずなのだが。
そこらへんは考えるのをよそう。そういえば、俺は無一文なので、ここまですべてトルシェが払っていた。ワハハ。
気にしたら負けだが逆に気にしなければ勝ちだ。「ワハハハ」
最近はカタカタ笑いも板についてきたぞ。
『買い物も終わったし、トルシェ、これからどうする?』
web小説よろしく中世っぽい街並みを歩いているのだが、軒先にぶら下がった花の鉢をきれいだなーと思うくらいで、特に見るべきものはないし、食べ歩くことも出来ないので、そろそろ飽きてきたところだ。
『どうしましょう? わたしは、そろそろ水袋の中身が少なくなったので、いったん「闇の神殿」に戻って、「暗黒の聖水」を水袋に詰めておきたいんですが』
『なんだ? その「暗黒の聖水」ってのは』
『ガーゴイルの口から出てる水のことです』
『いい名前だとは思うがいきなり名前を言われても、何のことかわからんぞ』
『ごめんなさい』
『謝るほどのことでもないし、けっこういい名前だと思うぞ。うん』
一瞬『病人のおしっこ』みたいじゃないかと思ったことは内緒だ。
『そうでしょう。ダークンさんもそう思うでしょう?』
『そうだな、良かった、良かった』俺が飲むわけでもないしな。
『もう』
『何か他に買っておいた方がいいものはないかな?』
『そうだ。わたしは自分のリュックに入れていますからいいんですが、ダークンさんは、毛布を持ってませんよね。毛布は寝るときのためだけでなく、いろいろ使い道がありますから2枚ほど買っておきましょう』
今回もまた、トルシェに連れられて行った道具屋で、冒険者用の毛布を2枚購入した。代金はもちろんトルシェが支払ったので、正確には「購入した」じゃなく「購入してもらった」だな。
『それじゃあ、戻るか』
『そうですね』
あらかたの用事を済ませた俺たちは『大迷宮』の出入り口に向けて歩いていたのだが、
『おい、トルシェ、なんだか騒がしくないか?』
大迷宮の出入り口前で、冒険者カードをチェックしているギルドの職員と、冒険者の一団がなにやらもめているようだ。
冒険者の一団と思っていた一団は、近づいていくと、どうも冒険者っぽくない。みんな同じような真っ黒い上っ張りのような服を着て、頭からすっぽり真っ黒い頭巾をかぶって顔を隠している。俺が言うのもあれだが、非常に胡散臭い連中だ。
もめている内容を聞こうと思い、更に近づいてみたが、よく考えたら、何をしゃべっているのか全く分らないということを思い出した。
『トルシェ、何を揉めているのかわかるか?』
『どうも、あの黒い連中が冒険者カードも持たずに『大迷宮』に入ろうとしているところをギルドの職員が止めているところみたいです』
『ふーん、どこの世界にもルールを無視するヤツがいるんだな。どーれ俺がギルドの職員を助けてやろう』
『ダークンさん、本当に助けるんですか? 私たちは「闇の眷属」なんですよ』
『だからこそだ。われわれの主のみ名において正義を執行するのだ』
『ダークンさんいったいどうしちゃったんですか?』
『最初はただ言ってみたかっただけの冗談だったのだが、しゃべっているうちに本当にそんな気になって来た』
『それって、われらの主のご意思かもしれませんね』
『ちょっと連中が何を言っているのか教えてくれるか?』
『連中、自分たちのことを「闇の使徒」とか言ってますよ。まったくC2-ポジティブそのものの連中みたいです』
その道の達人がC2-ポジティブについて語るとやけに説得力があるな。
しかし『闇の使徒』? われわれに無断でらしい言葉を使ってもらっては困るぞ。
あー、そうか、こいつらを断罪することこそ、われらの主のご意思に違いない。
『いくぞ』
トルシェにそう言って、「闇の使徒」の連中を押しのけて、ギルド職員との間に立ってやった。
今度は、連中が俺に向かって大声でわめき始めた。何を言っているのか全く分からないが、とにかくうるさいので、一番近くでわめいていた男、声は男だったのでそう判断したのだが、その男の首にゴツいガントレットをつけた右手を伸ばし親指と人差し指の間にそいつの首を挟んで持ち上げてやった。
そいつは最初浮き上がった足をばたつかせていたが、俺の指が男の頸動脈を圧迫していたようで、男はすぐにだらりと力を抜いておとなしくなった。覆面をしているのではっきりしないがたぶん気絶したのだろう。
まわりで唖然とした顔をして俺を見ていた黒ずくめの連中にむけて、そいつを放り投げてやった。
放り出されたそいつは地面に転がったままで動きださない。
連中の一人が、顔をたたいたり、肩をゆすったりして何とかそいつを起こそうとしていたが諦めたようで他のヤツと一緒にそいつを運んでどこかに行ってしまった。
残った連中もなにやらわめきながらどこかに行ってしまった。このテルミナという街は賑やかで活気のある街だ。
『やはり、全身鎧を着たダークンさんが動くと迫力がありますねー』
ギルドの職員の男の人がなにやら俺に向かってしゃべりながら頭を下げている。多分俺に礼を言っているのだろう。俺は、軽く手を振り、首から下げた木の札を見せて、『大迷宮』の出入り口の黒い渦の方に向かった。トルシェもすぐ横について歩いている。




