第37話 テルミナ、武器屋
『ダークンさん、ここまでくればもう道に迷いません』
俺たちは、上りと下りの階段をつなぐダンジョン内の幹線路に出たらしく、その幹線路となった洞窟は、まばらではあるが、前方からも冒険者がやってくるし後方にも冒険者が続いている。
俺たち二人と同じ方向に進む冒険者たちは、大きく膨らんだリュックを背負っている者が多い。
冒険者たちの格好は、トルシェと同じような軽装で、薄手の革の上着を着ている者が多い。中には、上半身だけだが金物の鎧を着込み大きな盾を持った冒険者もいるが、重装備の者はそんなにいないようだ。
そんな中での、ゴツい全身鎧で完全武装のうえ、右手には、抜身の黒い剣、左手には、使い込まれた雰囲気で黒光りするこん棒を持った俺はかなり目立つのだろうが、触らぬ神にたたりなしとでも思ったのか、誰にも何も言われなかった。
5層から4層、3層と何事もなく上り、幹線の洞窟を行き来する冒険者の数はだいぶ多くなってきた。
前方から俺たちとすれ違う冒険者は一様に、俺から相当距離を取っている。これもむべなるかな。ちょっと、難しい言葉を言ってみたかっただけだ。意味は察してくれ。
そして、とうとう1層のダンジョンの出入り口のある大広間にやって来た。大勢の冒険者たちがいる。そして大広間の正面にはかなりおおきな楕円形の黒い渦が見える。
『あの黒い渦が「大迷宮」への出入り口です』
確かに、多くの冒険者たちがその渦の中から現れ、また、同じように吸い込まれていく。
『俺たちも、行くか』
『はい』
その黒い渦を抜けると、そこはテルミナであった。なんちゃって。
『大迷宮』の外はちょうど朝方だったようだが、それでも周囲のあまりの明るさに目が眩んでしまった。トルシェも同じように渦を出たところで立ちつくしてしまった。
後から渦から出てきた連中がそんなところに立ち止まって邪魔な俺たち二人をにらみつけるのだが、俺の姿をちゃんと視野に入れたとたん目を逸らせて離れていった。
俺たち二人は第三者的にはそうとうな危険人物に映るのだろう。
『わたしたちには換金する荷物は有りませんから、そこのゲートの脇から出られます。一度出てしまうと、冒険者カードがないと入れませんが、カードは冒険者ギルドで登録すれば簡単に手に入りますから問題ないでしょう』
ダンジョンに入る冒険者の冒険者カードをチェックしている職員の後ろを抜けて街の中に入った。確かにここは日本じゃない。とはいえ、ハウス〇ンボスっぽいテーマパークの可能性も、あるわけないか。
通りの両側に並ぶ建物は、黒い太目の柱で壁は漆喰で固めたのか真っ白な建物。たいていは3階建てで、屋根は瓦ではなく黒い板で葺いてあるようだ。
朝方のためか、明るい日中はいつもなのかはわからないが、出店がそこらに並んで、客引きをしている。たいていの出店は食べ物屋のようだ。俺には匂いも分からないし、そもそも食欲もないので気にならないがトルシェは違うらしい。
『トルシェ、俺に遠慮する必要ないぞ』
『すみません。ダンジョンの中にいるときは全然おなかが空いていなかったのに、外に出たとたんにおなかが空いてきたみたいで』
「〇$◇∞!△▼#&&~※」
やはり何を言っているのかさっぱりわからなかった。そりゃあそうだ。
トルシェはお金を払ってホットドッグのように長細いパンの真ん中に肉やら野菜を挟んだものを受け取って歩きながら食べ始めた。
『モグ、モグ。ダークンさん、どこか行ってみたいところは有りますか?』
『まず、武器屋だな。この剣の鞘と、『スティンガー』の鞘、こん棒を吊るすための革紐みたいなものを見つけたいんだ』
『わかりました。武器屋はたくさんありますが、わたしのお勧めのお店に行ってみましょう』
テルミナの街を見物しながら、トルシェに連れられ通りを歩いている。
季節が今は春か夏なのかはわからないが、多くの建物の軒先には、赤や黄色の花が咲き乱れたバスケット風の鉢が吊り下げられ通りを彩っている。
どこか春の西洋の田舎町のような風情を楽しみながら、やって来た武器屋さん。
まだ営業時間前だったようで、入り口が閉じている。どうしたものかと思っていたら、ガラガラと、入り口の戸が開いて中から、15、6歳の娘が箒を持って出て来て店の前を掃除し始めた。
これを見て、トルシェがその娘に話しかけた。話し終えたところで、
『今出て来たのは、この店の主人の娘さんです。わたしを見ても分からなかったみたいなので、説明はしませんでした。もう中に入ってもいいようなので、入ってみましょう』
『俺も、言葉が分かればいいんだがな』
『値は張るようですが、そういった魔道具も売っているらしいです』
『売ってるものなら、ぜひ欲しいな』
『大金を稼ぐ理由ができましたね』
俺の抜身の剣を見た娘さんが目をむいたが、トルシェがフォローしてくれたようで、すぐに落ち着いてくれたようだ。
娘さん、トルシェに続いて入った店の中には、鎧を着たマネキンが何体も飾ってあった。壁には見た目の立派な剣や、斧、メイスなどが飾ってあり、少しレベルのが落ちるのかひとまとめにされた剣なども多数置いてある。店が開いて間もないので、当然客はわれわれだけだ。
俺ではどんなものを買っていいのかわからないので、
『トルシェ、おまえに任すから、選んでくれるか』
そういってまず、エクスキューショナーを渡して、鞘を選んでもらうことにした。
『これなんかどうです?』
トルシェの選んでくれた鞘は、木でできた漆塗りの黒い色の鞘だった。装飾は一切ない。またそこがいい感じだ。
その鞘にエクスキューショナーを入れてみるとしっくりくる。なかなかいい品だ。
『これでいい。それじゃあ、次は「スティンガー」の鞘を見繕ってくれ』
トルシェが持ってきたダガー用の鞘は、材質は分からないが、表は黒に近い濃い緑で、全く目立たない鞘だ。これは、アサシン用の装備か何かの色じゃないか? 俺の『スティンガー』ぴったりだ。
その後トルシェは、布製の鎧下、革製の帯、いわゆる剣帯を持って来てくれた。
まさか店の中で今着ている鎧を脱いで着るわけにもいかないので、鎧下はトルシェに持ってもらうことにした。
剣帯は、鎧の腰部分についている金具に通し、そこに鞘にいれた剣を差した。こん棒の方は剣帯の脇の小さなベルトで持ち手を縛り吊るすことができた。剣は左に差し、こん棒は右に吊るしている。新しい鞘におさめた『スティンガー』は、左の脇腹辺りに差しておいた。
勘定がいくらになったのかは知らないが、トルシェが払ってくれた。金貨1枚でいくらかお釣りが戻って来たようだ。トルシェ自身の買い物は、6本しか残ってなかった矢を追加で20本ほど購入しただけのようだ。
『トルシェ、ありがとうな』
『どういたしまして。それじゃあ、冒険者ギルドで冒険者カードを作りましょう。おそらくわたしも死んだことにされているのでしょうし、見た目がだいぶ変わっていますから、新しく登録し直します』




