第123話 リンガレング、対精神体モード
吹き飛んだ椅子の上空に、金色のローブを着た人影が浮いていた。
『やるではないか。わが使徒を屠っただけのことはある。ちょうどあやつらも代え時だと思っていたところだったので丁度良い。おまえたちをあらたな使徒にしてやらんでもないがどうだ? ファアファファファ』
またあの声が聞こえてきた。今度こそ、こいつがハムザサールの本体だろう。
俺もリンガレングを真似て、越後の縮緬問屋のご隠居さんモードに移行。
『リンガレング、やっておしまいなさい』
『了解。対象分析の結果、対象を精神体と断定。対精神体モードに移行します。移行作業中無防備となるためご注意ください。移行開始。……』
頼みの綱のリンガレングが何だか動かなくなってしまった。無防備ということは、今度は俺たちがリンガレングを守る番だ。
『返事がないところをみると、やはり死にたいらしいな。生きていようが死んでいようがどちらでもあまり変わらんが、死体を壊さんようにせんとならんのがちと面倒じゃな』
宙に浮かぶハムザサールが独り言なのか俺たちに聞かせたいのか、どうでもいいようなことを長々とつぶやいている。140文字以内の文章になってたようだ。時間は俺たちの味方だから、いくらでも、ツイートしてくれ。なんなら、いいなボタンを押してリツイートしてやってもいいぞ。
おっと、ヤツの顔の窪んだ目のあたりが紫色に光った。
今のはヤツの攻撃かと思ったのだが、うちの連中には何もなかったようだ。ただ、気持ちが穏やかになったような。はっ! これは、ヤツの精神攻撃か! たまたま俺たちが『闇の眷属』だから効かなかっただけで実はものすごい攻撃だった可能性がある。
『これも効かぬか。死体は諦めざるをえんか』
やはり、何らかの攻撃だったようだ。
『トルシェ、間を持たせるために、何でもいいからヤツを攻撃してみてくれ』
「はい!」
ここは牽制なので手数重視だということを伝えなかったが、ちゃんと考えてくれていたようで、トルシェの両手から、青白い光を発してピンポン玉大のファイヤー・ボールがいろいろなカーブを描きながら、ハムザサールに向かって飛んでいく。ハムザサールもそういった攻撃が自分に効果がないことを知っているので、何も対応しない。それでも宙にゆらゆら揺れているハムザサールにファイヤー・ボールが命中すると、それなりの爆発が起こる。
ドドドドドーン! ……。
爆発が続く中、ヤツは何事もないように宙に浮かんでいる。それでも、トルシェはファイヤー・ボールを撃ち続ける。
ドドドドドーン!
爆発の中から、一条の閃光が走った。しまった!
その光でトルシェの左腕の肘から先が消失してしまった。流れ出る真っ赤な血。
すぐにアズランがどこからか紐を取り出して傷口を止血した。俺の左手の指輪がガントレットの中で明るく光り始めた。トルシェの右手の指輪も光り続けている。血はすぐに止まったようで、少しずつ左腕の再生が始まったようだ。
次の攻撃をトルシェたちが受けないよう、俺がヤツの次の標的になるため一歩前に出た。アズランはトルシェをリンガレングの後ろに運び込んで水袋から『暗黒の聖水』を飲ませている。トルシェについてはこれで一安心といったところだが、リンガレングはまだか?
宙に浮いたハムザサールが手に持った棒を俺に向けて突き出すのが見えた。来る。
その棒の先が光ったと思った時には、俺の脇腹に大孔が空いていた。
ナイト・ストーカーはこれまで凹むことはあったが孔が開いたことは一度もなかった。こんど、頭を狙われたら俺もお終いかもしれない。冷や汗をかいたわけではないが、背中辺りに冷たいものを感じた。
しかし、さすがはわがナイト・ストーカー。いま空いた孔も、ゆっくりではあるが塞がり始めている。ほとんど何もない脇腹でよかった。
そして、またハムザサールが手に持った棒が光った。
今度は、俺の左膝が無くなった。膝から先の左足がアズランの目の前まで転がっていった。俺はといえば、とっさに左手のリフレクターを使って何とか転ばずに済んだ。
『アズラン、俺の左足を持ってきて膝の先に置いてくれるか?』
アズランが、俺の左足を持ってきて、無くなった左ひざのあったあたりにくっ付けてしばらく持っていてくれたところ、すぐに左足が鎧ごとくっ付いてくれた。ただ、膝の部分の再生はまだなので、左足の長さは短いままだ。
『アズラン、ありがとう。どうやらヤツは、俺で遊んでいるらしい。もう少しの辛抱だ』
『ダークンさん頑張ってください』
『任せろ!』
また、ハムザサールが棒を俺に向けようとしているのが目に入った。今度はどこだ?
『……、リンガレング、対精神体モード移行完了。精神体排除開始します』
ふー、間に合ってくれたか。リンガレング、任せたぞ。
いままでのリンガレングはただの銀色で、八本の足の先だけ青みがかっていたが、今回対精神体モードとかに移行したリンガレングの色は全体的に赤みがかった銀色、足先ははっきりと赤くなっていた。この色が精神体とかに効くのか? 何が効くのか分からないが、そのままリンガレングは宙に浮くハムザサールに向かって突撃していった。
これまでのリンガレングと比べ明らかに動きは鈍いように感じられるが、一度俺に向かって放たれようとしていた攻撃がリンガレングに放たれた。
ヤツの白色光はリンガレングに命中したが、そのまま四散してしてしまいリンガレングは無傷でハムザサールに迫っていく。
行け! リンガレング。戦え! リンガレング。
ヤツの真下にたどり着いたリンガレングが後ろの二本の足を使って立ち上がり、そしてジャンプ。ハムザサールの高さまで飛びあがったところで、八本の足が八方向からハムザサールを切り刻んだかにみえた。
リンガレングが床に着地したところで、ハムザサールの着ていた衣装や持っていた棒が切り刻まれて落ちてきた。
そのとたん俺の体が打ち震えた。胸のあたりに何かが吸い込まれたような感覚が久しぶりに俺を襲ったのだ。




