第120話 大魔王『ハムザサール』
『リンガレング出ろ!』
俺の脇に出現した銀色のボールから、足が八本生え、頭部がせりあがり四つずつ二列八個の目玉が真っ赤に光る。
『リンガレング、目の前にいる黒い塊をたおしてくれ』
『了解しました。殲滅対象確認。対象をヘドロモンスター最終進化系と確認。リンガレング終末回路ロード。……』
こいつはヘドロモンスターっていうのか。しぶといやつだし、リンガレングの『終末回路』が出るとなるとやっぱりただものではなかったようだ。
『ロード完了。「神の鉄槌」発動します。対象との距離を50メートル以上とることを強く推奨します』
今度もすごいのが出るぞ。
三人とフェアとで急いで後ろに退避。リンガレングも後退している。うごめく塊りもじりじりこちらに向かってきている。
『「神の鉄槌」発動!』
これまで閉ざされていたので気付かなかったが、リンガレングの頭部の下半分が横に開いた。どうもそこはリンガレングの口だったようだ。その口から青白い光がうごめく塊りを照らした。光を浴びた部分の触手が動きを止めて色も白くなっていき、ほとんどの触手の動きが止まったところで、いきなり、
ドーン!
体重が一瞬ではあるがズシリと一気に数倍になったように感じた。俺は何とか踏みとどまったが、トルシェとアズランはその場で尻餅をついてしまった。フェアは床に落っこちる寸前で踏みとどまりまたアズランの頭の上を飛び回っている。今のは重力攻撃だったようだ。
30メートルくらい先から、ダンジョンの通路が陥没して、一部両側の壁も崩落している。天井には大きく亀裂が入っているように見えるが、今のところ崩れてはいない。うごめく塊りは陥没部分に隠れてしまったようでここからでは見えない。
今の一撃でうごめく塊りがどうなったのか確認のため陥没地点までやってくると、かなり強い冷気が漂っている。うごめく塊りの残骸と思える白い粉をまぶしたような灰色の堆積物が陥没の中心辺りに広がっていた。
『リンガレング、ちなみにどうやって今のヤツをたおしたんだ?』
『対象の分子運動を低下させ、超高重力でたたき潰しました』
だそうです。ただ潰しただけじゃないんだな。
粉々になったアレが『不死のドーズ』だったのかは今となっては分からないが、もはや名前などどうでもいいか。『勝ったドー!』そういうことにしておこう。
ダンジョンの不思議作用で徐々に壁の崩れや天井のひび割れが直ってきている。俺たちのいる陥没地点も少しずつ盛り上がり始めた。灰色の堆積物もダンジョンに少しずつ吸収されている。
「ダークンさん、あの粉、何かになりませんかね?」
『また元にもどったらやっかいだから、このままダンジョンに吸わせておこう』
「そうですね。やっかいなヤツだったなー」
『たまにはそんなのも出るだろ。あれ? 知らぬ間に正面の扉が開いてるぞ』
「ほんとだ。音もしなかったので動いているのに気づきませんでした」
『気を付けて中に入ってみよう』
扉の先は、これまた天井の高い大広間。広間の正面の両隅には円筒が立っていて、その筒から大きな炎が揺れながら上がっている。そしてその二つの明かりの間は、一段高くなったステージになっているようだ。そのステージの真ん中に背もたれの大きな椅子が一つ。その椅子には、見た目は普通の人間サイズの何かが座っていた。そいつは全く動く気配がない。その椅子の後ろには大きな鏡が壁にかかっている。
広間に一歩入り周りを見渡すと、手前の両隅にも円筒が立っていて、そこからも大きな炎が上がっていたので、広間の中はそれなりに明るい。四方向からの光で足元に四本の影ができている。
椅子に座った何かしかいないため、まずそこに行かざるを得ない。前に進んで行くと、その何かはやはり人のようだ。
金色のローブのようなものを着て、頭にも金色の頭巾をかぶっている。さらに近づいてよく見ると、その人物は、干からびた人間、いわゆるミイラだった。
『俺にはミイラに見えるんだが』
「ミイラですね」
「ミイラです」
『こいつが大魔王「ハムザサール」だったのかな?』
「さあ、どうでしょう」
「それじゃあ、なんでここにいるんでしょう?」
『四隅に火が燃えているんだからなんかありそうなもんだがな。あれ?』
椅子の後ろの壁に掛けられたいる大鏡に椅子は映っているのだが、俺たちの誰もそこに映っていない。ええっ? どうなってるんだ。
『そこの鏡に俺たちが誰も映っていないんだけど』
「あっ、ほんとだ」
「どうしちゃったんでしょう?」
今度は三人揃って鏡に近寄っていろいろ変わったところはないか調べてみたが、俺たちが映っていないという最も大事なところ以外は普通だ。
「割っちゃいましょうか?」
『よし、割ってみよう。俺が割るから、二人は少し離れておいてくれ』
「はーい」「はい」
二人が、後ろに下がったのを確認して、リフレクターを両手で構え思いっきり鏡にたたきつけた。
ゴン!
鈍い音がしただけで、鏡は割れなかった。そのかわり、
『誰だ、わしの眠りを妨げる愚か者は?』
本当の声だったのか頭の中にひびいただけだったのかは分からないが、鏡の中から声が響いた。
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