第117話 『白銀のテレッサ』
振り返ると大剣を持った、これまた甲冑姿の騎士のようなヤツが立っていた。
珍しいことにこいつの着ている全身鎧はピカピカの銀色だった。
見たところ体つきは華奢なので、こいつは女なのかもしれない。
先ほど、アズランの警告で一緒に転がって難を逃れたトルシェに、
『トルシェ、魔王の使徒の中に女はいたのか?』
「たしか、『白銀のテレッサ』とかいう使徒がいたと思います」
『おそらく、こいつがそれだ』
俺たちが話している間にも、そいつは俺に何度も切りかかってきている。戦闘モード状態なので、なんとかその剣先をかわしているのが現状だ。
素性はわかった。押し入り強盗中の俺たちが言うべきセリフではないかもしれないが、立ちふさがる敵は女だからといって容赦はしない。
それでは俺も正々堂々勝負してやろうじゃないか。
トルシェを守るように一歩前に出て、エクスキューショナーとリフレクターを構える。
『コロ、ヤツが一歩足を前に出したらその足元に穴をあけてくれ。よーっくタイミングを見てやってくれよ』
できることをしないのは俺の美学に反するからな。立ってるものは親でも使え。たしか、俺んちの家訓だったような気がしないでもない。
コロの仕込みは、あくまで自賠責保険で、狙いはリフレクターで相手の攻撃を反射してやることだ。任意保険は必要な時に掛けるけどな。アズランの姿はいまは見当たらないが、フェアが『白銀のテレッサ』の頭上、そいつの剣の間合いの上で飛び回っている。
俺はスリ足で少しずつヤツの間合いに近づいていく。ヤツは狙いどおりその場で俺を迎える気のようだ。ヤツが一歩踏み出すだけで俺に大剣が届く間合いにじりじりと俺が入って行く。コロ、もうすぐだ。
狙い通り、ヤツが一歩踏み込んで大剣を俺の肩口目がけて突いてきた。ヤツが体重を乗せて踏み込んだ右足の床が抜けていく。大剣の軌跡が下に流れながら俺に近づいて来る。そこを俺はリフレクターを大剣に軽く合わせる。
ガシャーン!
軽く合わせたつもりのリフレクターだが思いのほか大きな音を立てて大剣を横に撥ね飛ばした。足を取られ体勢を崩したままのヤツはさらに体勢を崩し、前のめりにこけてしまった。そこで俺の掛けていた任意保険が発動した。
「主の御名の下に断罪する!」
アズランが『断罪の意思』を振るい、あっさりヤツの首を刎ね落としてしまった。南無阿弥陀仏。何もお前だけが死角を突けるわけじゃないんだよ。
転がったヘルメットの中から血の滴る頭を取り出してみると、『白銀のテレッサ』は金髪ロン毛のかなりの美人だった。元は色白の顔だったのだろうが、顔色は紫に変色して目元や口元が崩れかけている。フェアの本気の鱗粉を受けた者の顔を初めて見た。
せっかくなので、コロに鎧ごと『白銀のテレッサ』の死骸を食べさせてやった。このところコロは石ばかり食べさせられていたので丁度良かったろう。『白銀のテレッサ』の鎧はコロに食べさせるには豪華でもったいなかったが、重い鎧を身に着けられるのは俺一人だし、ナイト・ストーカーで満足な俺には不要だ。
これで、四使徒のうちの三人までたおしたはずなのだが、特に感慨は湧かなかった。
転がった大剣を見ると、つばが大きく刃先方向に張り出している。おそらくクレイモアとかいう大剣だろう。今までたおした連中の得物はいただくことができなかったが思わぬ収穫だ。こいつの名前が『白銀のテレッサ』だったのなら、最後の使徒の名はおそらくクレーアだ。間違いない。
「トルシェ、最後の使徒の名前はなんていうんだ?」
「えーと、確か『不死のドーズ』とかいった気がします」
間違いはあったようだ。
『白銀のテレッサ』にかまけていたが、気が付いたら、あの魔王もどきの巨大像が知らぬ間に消えてなくなっていた。そういうものだと思っておくしかないな。
それでは、邪魔者がいなくなったところで、この大広間を探検するとしよう。
見た目は何もない大広間なのだが、巨大像が現れた場所辺りが、一段高くステージ状になっている。そこまで三人で歩いていってステージに上がってみると、真ん中に久しぶりの宝箱。それも初めて見る金色の宝箱だ。
それでは、対宝箱最終兵器、コロさんお願いします。
シュルシュルと伸びたコロの触手が宝箱に触れ見るまに宝箱が消えて行った。中から出てきたのは、金色の歯車型をした大型のメダル?のようなものだった。全く何なのかはわからない。リンガレングの部品のような気もするが、そんなことはないだろう。
『これは何だと思う?』
「形からいって、なにかの部品なのか、どこかにはめ込む物じゃないでしょうか」
『なるほど、その線が当たりのようだな』
「ダークンさん、この壁に、ちょうどその歯車がはまりそうな溝が切ってあります」
ステージ正面の壁の真ん中あたり、ちょうど腰の高さ当たりに丸い窪みが空いていた。
『どれどれ。ほんとだ。こいつは何かの鍵に違いない、はめてみよう。危険かもしれないから二人は少し離れておいてくれ』
二人が離れたのを見届け、金色の歯車をその溝にはめ込んだ。
キッチリとその溝にはまった歯車は、音もたてずに回転を始めた。その回転に合わせてその横の壁が5メートルほどの幅で下がり始め、下がり終わった先には下に通じる階段があった。
クレイモア面白かったです。微笑のテレサの最期が気に入りませんでしたが、テレサ、コッコ良かったです。




