表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/55

SNSの拡散力

 書籍化するにあたって宣伝の意味をこめてSNSを始めることにした。

 実は僕は小説を書いてWebにアップするという行為はしているが、SNSなどは一切していない。基本的にオフラインな人間だ。

 今なにしているとか、こんなものを食べたとか、そういうことを明かすことに抵抗さえ持っている。それらは発信すべき事柄と言うより、むしろ知られたく情報だった。


 しかし小説の宣伝などで使っている人も多いし、鳳凰出版の宇佐美さんからも発売前には宣伝活動をお願いしたいといわれてるので僕もデビューしてみることにした。

 もちろんそんなことをしたところで影響力なんて微々たるものだろう。けどなにもしないよりはマシなことはなんでもしておきたかった。


 以前の僕ならそういうことは「必死すぎ」とか「カッコ悪い」とか言い訳をつけて敬遠しただろう。でも瑠奈さんに「戦う前から負ける言い訳をしちゃ駄目」と言われて、意識が変わっていた。

 発売までまだかなりあるが、今のうちからはじめておいて使い方を覚えておこうという作戦だ。


 色々あるから迷ったが、一番小説宣伝でよく使われている呟きを投稿するタイプのSNSにした。

 もちろんペンネームである『御影白夜』でユーザー登録する。


 『さっそく呟いてみよう!』と陽気に躍った文字が画面に表示される。


 「そんなこと言われてもなぁ……」


 なにを呟いていいか分からないので、取り敢えず小説サイトの作家さんのページからあちこち飛んでみた。

 作品について語る人もいれば、日常会話をしている人もいる。中にはプロアマ問わず仲間の作家さん同士創作論について語り合っているケースもあった。


 適当にあれこれ見回った結果、こういうものを書けばいいという法則性や暗黙の了解はなく、好きに書けばいいということだけが分かった。

 それはつまりなにも分からなかったということに等しい。


(昨日の夕飯なんて名前もないような肉と野菜を炒めたものだったしなぁ……)


 とても人様にお見せできるような代物ではない。

 「呟いてみようっ!」なんて言われても、漠然とし過ぎていて逆になにも浮かばない。

 最初の一歩すら踏み出せず、なんの解決にもならないと知りつつも更に適当に色んな人の呟きを見ていると──


「あっ……」


 いつも感想をくれる『小鳥遊慧』さんのアカウントを発見した。

 アイコンはマイナーな深夜アニメのキャラだった。準ヒロインで幼馴染みの女の子をチョイスしている辺りが小鳥遊さんらしい。小鳥遊さんはなぜか幼馴染み設定が好きだ。

 呟き履歴を見ていると作品の感想がメインだが、驚いたことに食べたスイーツやら景色の写真もアップしている。


 僕や与市と似たような境遇の人だと思っていたが、妙なリア充感を出しており、向こうになんの悪気もないのだろうがマウントされた気分に駈られた。

 どんな顔なのか見てやりたがったが、残念ながら自撮りのアップはされていなかった。


「おっ……と」


 呟きの中に僕の新作『異世界から転生してきた第二王女が勝手に僕の妹となってトップアイドルを目指している』について書かれているものを発見した。


『この作者が描く女性はいつもテンプレ的でどこかお人形さんを思わせるが、この作品のヒロインは意外と『女性』が書けている。』


 いつもながらのシニカルな文章で鋭いことを述べていた。

 僕がこの作品で妹を書いた一つの理由は、実際に妹がいるからだった。知りもしない同級生のことより、いっそ妹にしてしまった方が書きやすいと思ったからだ。


 『妹』という持たざるものには甘美な響きも、いる人間から言わせてもらえば鬱陶しいだけの存在である。

 ゴロゴロとだらしなく寝転がりパンツを見せられても、風呂上がりに下着を着ながらリビングに入ってこられても、もちろんなんの感動もない。それどころか『思春期の女の子』という聖域を穢された嫌悪感すら湧いてしまう。

 それに妹がメインヒロインの小説ならば恋愛に発展するというルートを消去できるという利点もあった。心置きなくバトル展開に専念できる。


 僕にはなんのアピールもなく、ひっそりと作品を宣伝していてくれたことに感謝しつつ、『いいね』をクリックした。

 それに気をよくした僕は、やめておけばいいものを更に小鳥遊さんの古い投稿を遡って見てしまった。

 そしてとんでもないものを発見してしまう。


「えっ……ええーっ!? こ、これって……マジでーっ!?」


 それはなんとゾンビメイクをした僕の写真だった。くっきり半身のゴキブリも映っている。


「なんでこの写真がっ?」


『リア充どもがハロウィンだとかで浮かれるのは、まあいい。年に一度のことだし大目に見よう。しかしゴキブリ野郎。お前は駄目だ。悪ノリしすぎ』


 ひどいっ……

 一刀両断に斬り捨てられている。

 確かにクラスメイトは瑠奈さんにやられたものとして理解してくれていたけど、傍から見たら僕の悪ふざけが過ぎているようにしか見えないだろう。

 そんな当たり前のことを失念してしまっていた。


「てか、なんでこんな写真を撮ってるわけ……?」


 真っ先に浮かんだのは小鳥遊=クラスメイト説だが、写真はパレードの外側から撮った感じだから違うだろう。

 少なくともあの時パレードに参加していた人ではない。見物していた側の人だ。


 誰なんだと思い返そうとしても、色んな人に写真を撮られていたから一人ひとりの顔はもちろん思い出せない。

 けれど知ってる人はいなかったはずだ。見ず知らずの誰かではあるが、しかし小鳥遊慧さんはかなり近くに住んでいる人なのは間違いないだろう。


(怖っ……出会さないように気を付けないとな)


 幸いこのゾンビメイクが人相を消してくれているだろうから、道ですれ違っても気付かれることはないだろう。


 気を取り直して自分のページに戻り、初呟きを投稿する。


『今日からはじめました。よろしくお願いします』


 我ながら面白くも何ともない呟きだった。登録からカウントして一時間以上かけてたったその一行だ。仮にも小説を書いている人間とは思えない陳腐で凡庸な呟きだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ