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→はい、迎えに行きます

 

 次の学園の休み、学園の門まで迎えに行くと、すでにコゼットちゃんとエドガー、シリルは揃って待っていた。


「本当に来てくれたんですね!」


 エドガーはえらく感極まったように出迎えてくれた。


「あの日会ったあなたは幻じゃなかった……!」

「またえらく大げさな……」

「でもその気持ち、俺はわかるよ」


 若干苦笑を浮かべながらも、シリルは頷いている。


「国に帰った途端、連絡もとれなくなるしなんの情報もないし……俺だって狐につままれたのかって何度も思ったよ」

「わたしはまた会えるって信じてたよ」


 今日のコゼットちゃんは、もう落ち込んではいなかった。ジーク隊長への気持ちを押し隠して、それでもコゼットちゃんはいつも通りニコニコと優しく佇んでいた。


「信じていれば、アンジェちゃんともあの人ともまた会えるって……ほら、だってアンジェちゃんともこうして会えたでしょ?」


 そう言ってふわりと微笑むコゼットちゃんに、束の間見惚れる。

 ほんとにコゼットちゃん、強くなったなぁ。


「じつはメルシエ様、あまり時間がないんだ」


 ボーッとコゼットちゃんに見惚れていたら、シリルから暗に急かされた。


「本来の職務のこともありますから、休みとは言えどあまり殿下から離れたくはありませんので。残念ですが、顔を見せたらすぐに戻ろうとは思っています」


 それに頷きを返す。わずかな時間でも会いに来てくれたことは、純粋に嬉しかった。


「じゃあ早速向かおうか!」


 道中、今までの一年間の空白を埋めるように四人でわいわいと話しながら、教会へと向かった。








 三人を案内して辿り着いた先の教会では、突然現れた美男美女に、ちょっとした騒ぎになった。

 教会に入った途端、好奇心いっぱいの子どもたちに囲まれる三人。


「コゼットといいます。仲良くしてね」


 コゼットちゃんが恥じらいながら挨拶すると、子どもたちから「お姫さまだ……」と次々と感嘆の声が漏れてきた。

 ニーナをはじめ孤児院の女の子たちは、優しく微笑みかけてくれるエドガーに頬を染め、いつもそっけないマイクは終始コゼットちゃんにデレデレだった。エミルはシリルに抱っこしてもらって、すでにご満悦だ。

 マイクのやつ、一年間通い詰めたわたしには微塵も心を開かないくせに、コゼットちゃんには一瞬で懐くなんて……複雑な心境を引き攣った笑みの下に押し隠す。

 リタちゃんに会いに来ていたシモンはシリルたちの姿を目にするなり、慌てて隠れながらわたしを物置きの影まで引きずりこんだ。


「どういうことだよ!?」


 学院ではシモンは“トム”であり、曲がりなりにもシリルと友だちだった。そのシリルが目の前にいるんだから、いつも飄々としているシモンもさすがに焦ったみたいだった。


「なんであいつらがこんなところにいるんだよ!?」

「えへへ……それはね、なんと! わたしに会いに来てくれたの〜!」

「“わたしに会いに来てくれたの〜!”じゃねぇよ!」


 シモンは小声で唾を飛ばしながら怒鳴る、という器用なことをやってのけた。


「困るんだけど! あいつらがいると俺がリタちゃんと遊べないじゃん! しかも最悪なことにリタちゃん、あの胡散臭い優男騎士に首ったけだし! お兄ちゃんがあの場からいなくなったことにも気づいてないし! あの無駄に顔面偏差値だけは高い……あいつだよ! おまえに告白まがいのことをした特大の黒歴史抱えてるやつ! ちょっとおまえ責任もってあいつらどっかに追いやってきてよ!」

「しょうがないじゃん、だってわたしに会いたくてここまで来てくれたんだよ、彼らは!」

「会いたくて来てくれたって……またすごい自信ですこと!」


 だって、実際に二人ともそう言ってくれたもん。


「それにそんなに神経質にならなくたって大丈夫じゃない? わたしたちぐらい存在感の薄いモブならそう気づかれないでしょ。シモンのことなんか微塵も視界に入らないって」


 残念ながら、コゼットちゃんはジーク隊長しか見えていないからな。


「てか、エドガーにだけやたら厳しくない?」

「リタちゃんを誘惑する奴はすべからく敵だ!」


 シモンは憤慨したように鼻息を荒くした。


「てかさぁ、再会したらおまえいなくなるはずなんじゃないの? なんでまだいるの?」

「いたら悪いんですかねぇ?」

「べっつにー?」


 シモンは髪を掻きむしりながら、コゼットちゃんたちとキャッキャ遊んでいる子どもたちに視線を遣る。


「ただ、“アンナ”がいなくなってからもう一年、だろ。いい加減あいつらもさ……」


 シモンの視線の先には、頬を染めたマイクやニーナたち。

 わかってる。わたしだってわかってるんだよ。








 それからわたしは影で一人憤慨しているシモンを見捨て、神父のフィンさんに一言断ってから帰寮するエドガーと一緒に一旦寮へと向かった。

 二人で話しながら帰る途中、エドガーは行きよりもさらに踏み込んだ、わたしについてのいろんなことを聞きたがった。

 今のわたしはなにをしているのか。どこに住んでいるのか。神父のフィンさんとの関係、それからジーク隊長との関わりなんかも事細かに聞きたがって、さすがにそこは冷や汗もので、あらん限りのすっとぼけで色々と誤魔化したけど。


「アンジェ、くどいようですがアンジェが望めば今すぐ一緒に帰ることもできるのですよ」


 エドガーはもう学園に着くというときになって、またそんなことを切り出してきた。


「いざとなったらアンジェをすぐにでも保護することは、レオナール殿下もマルリーヌ様も承知の上です。あなたが無事に帰国できるよう、外交面でもできるだけ尽力してくださると」


 その言葉に戸惑って、思わず立ち止まる。エドガーは正面から覗き込むように身を屈めてきた。


「あなたはシリルさんのそばにいないと本来の場所に帰れないのでしょう。留学が終わればわたしたちは帰国してしまう。そうしたらあなたはもうずっとその体に閉じ込められてしまうのではないですか」


 それは……エドガーの言うとおりだけれど。


「わたしたちと一緒に帰国すれば、いつでもシリルさんに会うことができる。どうすれば帰れるのか分かるまで、わたしだっていつまでも付き合います。生活が心配なのであれば、保証する。例え帰れなくても、それならずっとわたしのそばにいればいい……だからアンジェ、」

「エドガー、色々とありがとね」


 エドガーはさらに言い募ろうとして、口を噤んだ。


「でもわたしは、一緒に帰る気はないんだ」


 エドガーの涼やかなアイスブルーの目が、苦しげに細められる。


「シリルがここにいる間に、決着はつけるつもりだから」


 じゃないと、もうずっと“アンナ”の帰りを待っているあの子たちが浮かばれない。


「いい加減、いるべきところに戻らないとね。……シリルやコゼットちゃん、隊長たちにちょっとだけシモンも。それからもちろんエドガーとだって、お別れするのは寂しいけど」


 もう少しだけこの世界で、あの優しい温もりに包まれていたかったな、だなんて。

 シモンにでも知られたらこっぴどく叱られそうなことを思って、わたしは自嘲の笑みを浮かべた。









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