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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Immature Sorcerer
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018

 その頃の篝も、決して同世代の中で成績の悪い方ではなかった。


 天才、或いは圧倒的と評される程ではなかったものの、安定して一定以上の成績を収めることができていた。

 そんな篝が神堂による訓練プログラムに参加したのも、より良い成績を収めるためのものだった。


 当時でさえ名を馳せていた神堂の強化合宿は、その内容を知らない者達から圧倒的な人気を誇っていた。


 しかしその頃の神堂の噂は、今ほど常識離れしたものではなかった。

 何より、参加者候補の世代も比較的神堂に近く、だからこそ余計に注目を集めていた。


 しかし始まって一日。半数が白旗を上げた。


 もう一日。残った半分が同様にリタイアを選んだ。


 更に一日。その日はとうとう、最初の参加者の一〇分の一を下回った。


 篝が知っているのはそれと、最終日まで参加者が残らなかったという事だけ。

 その日以降の詳細を、篝も知りはしなかった。


 神堂が次々と課したメニューを続ける事ができなかった。

 身体は動いても、心がそれを拒絶していた。


 思うような成果が出せなくなったのは、その後の事だった。


 魔法の威力の身を鍛えるようなものはほとんどなく、体力づくりを目的としていたであろうメニューの数々。

 一度そう認識してしまってからというもの、その印象が覆ることは最後までなかった。


 しかも内容は常識的とは言えないようなものばかり。

 神堂の圧倒的な身体能力が良くも悪くも発揮されてしまった。


 初日の辞退組の中には、負傷を理由とするものも少なくなかった。

 入院を余儀なくされるようなものではなかったものの、その姿に大勢が精神を摩耗した。


 自分の時はもっと酷いことになるかもしれない――そんな恐怖を覚えた者すらいた。


 だからこそ、神堂が547の拠点に現れた時は悪夢だと思った。

 名前を覚えられていなかったことに心の底から安堵してしまう程に。


 それからしばらく。天条桐葉という少年の話を聞いて、篝は耳を疑った。


 かつて自分達に課せられたメニューに比べれば軽いと分かっても、やはり信じる事ができなかった。

 あの神堂零次と、ましてマンツーマンでトレーニングなど、篝からすればマグマの中に落とされるようなものだった。


 神堂は基本的に褒めようとしない。それが当時の共通認識だった。

 僅かな希望を抱いていた者達も、あり得ないと悟って辞めた。


 件の少年も遠くない内にそうなってしまうだろうとばかり思っていた。


 しかしその時が訪れることはなく、代わりに、桐葉は547拠点へと現れた。

 教団に追われていたという、身元不明の少女と共に。


 更に篝を驚かせたのは、山の中で信徒から逃げ続けていたという事実。 

 しかも、最初発見された時は『F』の判定すら与えられなかった少年が。


 最も年代が近いという理由で、桐葉達の元へ向かうよう指示が下りたのは篝にとって幸運以外の何者でもなかった。


『……はい?』


 第一印象は、普通の中学生。

 とても神堂のトレーニングに着いていけるとは思えなかった。


 その時改めて、例の話は尾ひれのついた噂か誤解だと篝は結論付けた。

 そうとしか考えられなかったのだ。


 桐葉達の元へ向かう直前。

 橘から桐葉に着いて聞かされた『口の減らないやつ』という評価だけは正しかったものの、それ以外は突飛な部分もない少年だった。


 むしろ、彼が連れて来たイリアと名乗る少女の方がはるかに奇妙な存在に思えた。


 衣璃亜から心を開かれている桐葉も不思議な存在と思ったものの、危機的状況だったことを理由に篝は自身を納得させた。


 桐葉が受けるトレーニングのメニューが次第に増えていることを篝が知ったのは、その少し後の事だった。






「いったぁ……!?」


 堅いし、熱いし、なんなのもぉ~!


 本当に信じられない。こんなに高い能力を持った個体なんて、今までほとんど出なかったのに。

 教団の施設の中とか、そういう場所なら分かるけどー……


(持ってきた封魔石も使い切っちゃったし……さすがにちょっとヤバい、かなぁ……?)


 残ってても、あの防御力じゃ意味なかったかなぁ?

 こっちがどんな魔法を使ってもほとんど効いてないみたい。


 雷も、炎も、風も、全然だめ。

 何か一つくらい弱点があるのに、それも分かんない。こんなこと初めてだよ……


 見つかってから、全部向こうの手のひらの上。

 封魔石をあんな方法で取られた事なんてなかったから、完全に油断してた。


(桐葉くんは……ちゃんと逃げてる、よねぇ?)


 それだけはちょっと安心。……安心していいんだよねぇ?


 さっきは知って言ったから大丈夫だと思うけどー……時々無茶なことしてるしぃ……


 増援にはすぐにでも来てほしいけど、桐葉くんには戻ってきてほしくない。

 こんなのと戦ったらきっと大怪我どころじゃないから。


 衣璃亜ちゃんもいるんだから、桐葉くんはちゃんと帰らないと。

 魔法のことを知らない友達だってたくさんいるんだから。


(……増援は、来るかも怪しいけどぉ)


 多分、しばらくこないよねー……


 最初の予定ならもうとっくについてたはずなのに、まだいないんだもん。

 きっと、他の場所にも召喚されちゃったから。時間のかかり方的に、多分信徒も……いるよねぇ。


「大口をたたいた割にその程度か。呆気ないものだな」

「フードを深くかぶり過ぎだよぉ? ちゃんと見えてるぅ?」

「まだ状況が見えていないのか。いい加減に勝ち目はないと認めたらどうだ」


 服もボロボロ。髪は砂だらけ。


 周りの空き家もぐちゃぐちゃ。

 人払いをしてるからって、ここまでやらなくてもいいのに……相変わらずだよねぇ。[創世白教]って。


「増援を期待しているなら無駄だ。我が同胞を前にきっと手も足も出なくなっているだろう」

「残念だけど、こっちのメンバーもそんなに貧弱じゃないんだよねぇ。すぐに来ると思うよぉ?」

「だがお前がその者達の姿を見ることはない。直にあの少年にも会える」

「無理、むり……あの子だって、そんなに遅くないんだからぁ」


 タイミング的に、狙ったのかなぁ……? やっぱり。


 飛んで引きつけようと思っても全然駄目だったし、攻撃力も信じられない。

 でも、全員で攻撃すれば倒せるよねぇ……きっと。


(あんまりお姉さんらしいことはできなかったけどー……)


 この前だって部屋の片付けも手伝ってもらったし。

 桐葉くん、あんなに料理できたんだねぇ。ちょっとびっくり。


(せめて無事なら、それで……また怒られちゃうかも、なんちゃって)


 怪物が口を開いた。

 燃え盛る炎が溜まった口を開いた。


 もう魔力も残ってない。

 防ぎたくても、あんな炎……どうやったって……


(……ごめんねぇ、桐葉くん。約束まで、守れなくって)


 大変なことは多いと思うけど、きっと大丈夫――


「――燃えて吹っ飛べクソデカ野郎!!」


 ………………熱く、ない……?


(どうして、そんなこと……)


 何か聞こえる。聞こえるけど、全然分からない。

 信徒の声がうるさくて、聞きたい声が聞こえてこない。


「けほっ、けほっ……!?」


 いきなり大きな爆発が起こったせいで聞こえない。


「――篝さん!!」


 でも、顔だけは見えた。


「桐葉くん……!?」


 はっきり見えた。


「桐葉くん、どうして戻って……逃げてって言ったのに……」

「はは……すみません。俺方向音痴なもんで、()()()()戻って来ちゃいました……っ!」


 ちゃんと逃げた筈のあの子が、そこにいた。

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