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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Immature Sorcerer
83/596

015

「小賢しい真似を……聖なる炎をあれしきの氷で阻むとは。なんと愚かな……」


 素早く立て直した桐葉と篝。

 怪物や信徒からも距離をとった二人に向けられたのは、蔑むような言葉だった。


「そうは言うけど、『あれしきの氷』に止められてる方が問題じゃなぁい?」

「というか、あんたに言われたくなんかないですよ。さっきだってそこの三本尻尾が守ってくれなきゃ危なかったくせに」


 魔法を放った篝にとっても、それによって助かった桐葉にとっても、そのまま流せる筈もない無礼な言葉でもあった。


 事実、桐葉が見た限り信徒は最初の地点からほとんど動いていなかった。

 篝の《凍結》を受けない程度に細かなステップを刻むばかりで、牽制の魔法すら放っていなかったのだ。


「我々ごときの手出しなど不要。既に額に汗が浮かんでいるお前達と違って我々は高潔でなければならない」

「どの口が言ってるんだか」

「そういう風に思いこんじゃってる人なんだからそっとしてあげなきゃだめだよぉ」


 それでも信徒への注意を疎かにできなかったのは、いつ二匹目を呼び出すか分からないという不安からだった。


 唸る三本尻尾の怪物の口先では火の粉が舞っているのを桐葉は見た。

 事実上、二対一の状況でありながらも桐葉達に苦戦を強いる怪物は依然として健在だった。


(にしてもあの三本尻尾、どうしてあんなに強くなってるんだ……? 炎を吐くわ、尻尾は硬いわ……本物のモンスターかよ。頭が三つでケルベロス、とかでもないのに)


 既にモチーフとなった生物らしさのほとんど残っていない。

 視線の先の怪物の姿を見て、桐葉はそう思わずにはいられなかった。


 以前自分達の前に現れた個体とは異なる性質の怪物。

 桐葉の脳裏に浮かんだのは、普通の犬型の中にも特定の能力に秀でたものがいたということ。


(何匹作れば気が済むんだよ、何種類用意するんだよ。図鑑でも寄越せっての!)


 その上、一度は篝や自身の首元に爪を突きつけた小型の怪物の存在も桐葉は忘れられずにいた。

 次第に暗くなっていくにつれ、より探しづらくなるだろうと薄々ながら察していたのである。


 しかし、篝も桐葉も安易に魔法を放つことも出来なかった。

 増援が近付いている筈の状況で、自分達が無理に倒そうとする方がはるかに危険だと判断した。


 魔力が底を突いてしまえば最後、抵抗など不可能に等しかったのだ。


「(どうします? 篝さん。この前みたいに気絶させたらなんとかなりますかね?)」

「(私も今同じことを考えてたところだよぉ。……合図するから、ちゃんと耳塞いでおいてねぇ?)」

「(待ってください。その前に俺が一発撃って少しでも注意を引きつけます)」


 そこで二人が封魔石を選ぶのは当然の帰結だった。


(燃えろ、燃えろ、燃えろ――)


 単調かつ分かりやすい言葉の繰り返し。

 半歩前に出た桐葉は、それまで自身が練習を重ねる中で何度も繰り返した手順をなぞった。

 牽制のための一発は必要なものだと桐葉は割り切った。

 それどころか、倒せるのならそのまま倒してしまえとすら思いながら魔力を込めた。


「――《火炎》!」


 桐葉の右手に宿った炎が飛ぶ。

 怪物の頭部目掛けて飛んだ。


「やはり学習能力もないではないか」


 二つの赤い眼の間を狙った《火炎》が打ったのは、やはり三本の怪物の尻尾。


(弾かれ――)


 その足元に、小石が落ちる。


「ぃ――――っ!?」


 絶叫が響くまで、一秒の猶予もなかった。


(や、やっぱりうるさぁあっ!?)


 二度目とは言え前回より距離も近かった。

 ほんの僅かでも遅れていれば、桐葉は耳を塞ぐ事すら間に合わないタイミングだった。


(あ、頭……頭割れる……! いつか絶対頭割れるってこれ……!)


 それでも完全にその衝撃を抑える事はできなかった。

 万一それを直接聞いてしまった時の事をあえて桐葉は考えようとしない。


「こ、こいつ……なんてことしてくれたんだよ……」

「さすがにそれは、関係ないけどねぇ……いたた」


 鈍器で殴られたような感覚を覚えながらも、怪物に右手をかざす。

 自分達よりも近い位置で爆音を聞かされ、今もぐったりしている怪物に向けて。


「ふざ、けるなよ……お前達ィ……!!」


 憤怒に満ちた信徒へは目もくれない。

 否、目を向けるだけの余力が残っていなかった。


「お越し、ください……!!」


 しかし間違いなく、封魔石に込められたその力を信徒は直に受けていた。

 だからこそ、桐葉も篝もすぐには動けないだろうと思っていた。


 それは、全く同じ瞬間に起こった。


「「《火炎》!!」」


 桐葉と篝の手から同時に放たれた、炎の魔法。


「あの者達に、裁きを!!」


 そして、倒れた信徒の足元に浮かんだ魔法陣から浮かび上がる二体の怪物。


「げっ……!?」

「……冗談にしても悪すぎるよぉ」


 桐葉と篝の魔法から、防ぐ術すらなく地に伏していた怪物を守ったのはまさにその二体の怪物だった。

 二人が止めを刺そうとしていた一匹目は動くことこそなくとも、完全な状態で未だにその場に留まっている。


(マジかよ……!)


 それは桐葉と篝にとって、考え得る限り最悪の状況だった。


 三匹の怪物の更に後ろ。

 未だに止まない耳鳴りの中、信徒はよろめきながらも立ち上がる。


 その声は震えていた。

 突如として数的優位を覆された事への驚愕が抑えきれない桐葉でさえ、はっきりそう感じていた。


「お、お前達は我らの怒りに触れた……! 後悔などさせはしない! 一瞬で葬り去ってくれる……!」


 怒りに任せ、信徒の男は叫ぶ。


 そして、まるで男の激情に呼応するかのように、その場で新たな変化が起こる。


(……は!?)


 それは桐葉にとって衝撃的な光景だった。


 脱力したまま、動かない一匹目。

 戦闘復帰まで時間がかかるであろうそれを、新たに現れた二匹が踏みつける。

 その原形が失われる程に、何度も何度も踏みつける。


 それだけでもまだ、終わらなかった。


(ひ、ひどっ……うわ……)


 同じ姿形をした二匹に踏みつぶされた怪物はやがて、小さな水たまりへと姿を変える。


 未だ健在の二匹が、それに口を近づける。丸で飲み水を飲もうとするように。


 しかし二匹がそれを啜ることはなかった。


「……はぁ!?」


 それどころか、二匹も同じように姿を変えた。


(吸収……うぅん、合体!?)


 溶け合い、混ざり合った怪物はまたしても浮かび上がる。


(こいつら、また――!)


 絞り出すように作り上げた桐葉の《火炎》も届かない。

 渦巻き、飛び散っていた水たまりも次第に円へ、球体へと変わる。


「……は」


 そうして姿を現したのは、新たな姿の怪物だった。


「えぇ……?」


 篝とキリハが以前見たそれと比べれば小さいものの、頭部は桐葉が見上げる程の高さにあった。


 特徴的な三本の尻尾は五本に増え、目も一対増えている。

 これまでの怪物とは明らかに違っていると、桐葉は感じた。


「うぁあああっ!?」


 悲鳴にも似た叫び声を上げてしまう程に、驚愕していた。

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