012
「……本当にこの辺りだったんだよねぇ? お友達の彼女さんが見たって場所」
直接言葉にはしなかったけど、篝さんの声には疑いが籠ってた。
そりゃそうだ。俺だってあの化け物がこんな場所に出たって言われたら疑いたくもなる。
こんな、人通りの少なくない大通りに出没したなんて。
日がそろそろ沈みかける頃。時間的にもほぼ同じ。
歩いてるのは学生ばっかり。
自転車だったり、徒歩だったり。一人だったり、集団だったり。
ホームセンターの駐車場だって近い。車だって何台も行き来してる。
こんなところに化け物がいれば、普通誰かが気付く筈。
「その筈、なんですけど……やっぱりこんな大通りには……ねぇ?」
「[創世白教]のメンバーならいてもおかしくないけどぉ、こんなところに呼び出すなんて馬鹿なことはしないと思うんだよねー」
「そうあってほしいですよ……」
いや、あるにはあった。
しかも自分の目の前に現れたことが前にもあった。
イリアと会う前。師匠がスパルタトレーニングをやってくれていた時のこと。
美咲と会って、さあ帰ろうって時になってそいつは出てきた。
でもあれはイリアを探し出すために呼び出したもの。
今イリアがどこにいるかなんて連中にも分かってる筈。バレるかもしれないような方法で探しても意味がない。
なんて、あれもこれもあれから橘さん達に教えてもらったこと。しかも確証はないって言ってた。
けどあれから今日までそういう場所に出たこともなかったから、てっきりそういうものだと思ってた。
なんの偶然か、そこに橘さんから電話がかかってくる。
篝さんがスピーカーにしてくれたおかげで聞こえないなんてこともない。
『どうだ』
「どうもこうもないですねー……他はどうですかぁ?」
『まだめぼしい情報は届いていない。それからもう一つ伝えておく。天条、貴様が言っていた人物に反応は見られなかった』
「そうでしたか……よかった」
鈴木にああ言った手前、もしものことがあったらどうしようかと。
むしろ、手間取ったのは鈴木の彼女さんの名前を教えてもらうまで。
鈴木ときたら、知ってることは全部話したって言って聞きやしなかった。あそこまで頑固なところは初めて見たかも。
なんて、あれは俺の説明が下手過ぎたのもあるんだろうけど。
でも、名前さえ分かってしまえばこっちのもの。
この危ない大人たちに任せておけばあっという間にどこの誰か特定できる。
その上、本人にも気付かれないように魔力の反応を調査したって言うんだから恐ろしい。
どこまでやれば気が済むんだよこの組織。
プライバシーも何もあったもんじゃない。いつかこの組織も御縄にかかりそうで正直怖い。
『そうとは限らん。奴等が無差別に仕掛ける可能性だってある。貴様の周りの人間に対してもだ』
「橘さん!」
「い、いいんです篝さん。俺は大丈夫ですから。……まだ、他のエリアではそういう話はないんですよね?」
『今のところはな。……実際、我々も完全にノーマークだった。巡回に割く人数を増やすにしても……いや、しかし……』
「そんなの俺達に言っても仕方ないじゃないですか」
『少しは考えようとせんか貴様も』
そんなこと言われたって俺はそういうの、専門外だし。
そもそも組織のどこがどんな感じにあれしてるのかちんぷんかんぷんだし。
そんな奴に意見を求める方がどうかと思う。無茶言いなさんな。
差しがに俺が思いつくことなんて組織の誰かが思いついてるだろうし。
監視カメラの乗っ取りとか? ……この田舎町じゃほとんどおいてないから意味ないか。
それに前、なんかそういう監視用の機材を置いてる場所もあるとか言ってたし。
そこに写ってないならもうどうしようもないじゃん。
(……あっ)
あった、あった。ひとつあった。
「そういえば、こっちにはないんですか? あんな感じの使いっぱしりになりそうなやつ。頭数からして不利じゃないですか、組織側」
『ない。完全にやつら独自の技術だ。貴様が言ったような理由で再現を試みた事もあったが……結果は全て、失敗に終わったそうだ』
そんなのありかよ。
作り出す技術も何もかもあの教団独自のものだっていうのかよ。ふざけるなよ。
それであんなことやってるのかよタチ悪いな。
でも組織も組織だ。
いつも大量に仕留めたようなこと言ってるのに。倒すだけ倒してもそれじゃ意味ないじゃん。
なんとかなるだろ、なんとか。
倒したら持ち帰る暇もなく消滅するとか色々課題は多いけどなんとかなるだろ。氷漬けとか。
大体、組織が研究しても全く手掛かりも掴めないなんて――
「そもそも魔法じゃない、とか?」
『そう考える者も少なくない。もっとも、大半の信徒は我々と同程度の知識しか持ち合わせていないようだがな』
「は? いやいやまさか、そんな……知らないのにどうやって呼び出すんですか。向こうから勝手に来てくれるわけじゃないんですから」
『だが、連中はそういうものとして認識している』
まさか。冗談。
そんなことあってたまるか。あんな調子でポンポンポンポン呼び出されたらこっちが先に力尽きるわ。
「なんかまた一つ知りたくない情報を知っちゃったんですけど……」
『よかったな。これでまた一つ賢くなれたということだ』
「もしかして喧嘩売ってます? ますよね? 後で覚えておいてくださいよこの鬼畜めg」
『いいから探せ、たわけめ』
切りやがった。
橘さんめ、何のためらいもなく即切りしやがったぞ。
普通あるだろ。もう少し何かあるだろ。今回先にケンカ売ってきたのはそっちだろうが。
まったく……
「なーにが『また一つ賢くなれたな』だよ、あんにゃろう……」
「怒らない、怒らない。チョコでも食べて落ち着こうよぉ」
「あ、ありがとうござ――……え、今どこから出しました? 確かその服……ポケットなかったですよね?」
最低限のポーチはつけてるけど、あの中にそんなもの入れる余裕なんてなかったはずだし。
俺が入れてもらったのは携帯食料と細い水筒に、小銭。あと、よくわからない箱。
封魔石とかいう危険物はまだ持たせれられない。らしい。
俺としても大助かりだよ。俺だってあんな爆弾みたいなもの持ちたくないよ、まだ。
軽い衝撃を与えてやるだけで起動するっていう、とんでもアイテム。
しかも魔力は作る時点で込めてある。誰が使っても魔法と同じ効果が得られる。
「あー、いけないんだぞー? 女の子の服を勝手にジロジロ見るなんて。お姉ちゃんそんな子に育てた覚えはありません」
「そもそも育てられた覚えがないですけどね?」
そんなわざとらしく頬を膨れさせても今更でしょうに。
大体、俺がその服のポケットの有無を知ってるのだって――
「あと、勝手になんて言ってましたけど、服の片付けも手伝ってって言ったのは篝さんじゃないですか。一昨日山の中に埋もれてたやつですよね? それ」
「…………知らないもん」
「可愛く『もん』とか言ってる場合ですか」
むしろこっちが引いたよ。そんな事まで頼むなんて正気かって思ったよ。
触るなって文句を言われるならまあ仕方ない。そりゃそうだって納得してた。
(だからってやらせるか? 普通……)
ない。絶対ない。
美咲相手に冗談でも言えないレベル。そんなことしたら絶交どころじゃない。
(……まあ、あんなことを言い出すとは思わなかったけど)
そんな、連れ去るためにわざと親密になろうとするなんて。
いくら過去にそういう事例があったからって、言われていい気分なんてしない。自分のことじゃなくてもだ。
(まったく組織の大人ときたら…………ん?)
今、なにか動いたような。
赤い点と黒い何かが動いたような……って。
「いたぁ――――――っ!?」
日も沈みきってないのに本当にいやがった、あの化け物!!




