010
「……桐葉くんも意地が悪いよね」
「だから誰かが間違って食べないように付箋を貼って……なんでもないです」
そんな不満そうな顔をされても。一体どうすればよかったっていうんですか。
俺はやりましたよ。考え得る限りの対策をとりましたよ?
「ま、まあいいじゃないですか。プリンなら学校帰りに買いましたから。……イリアも食べて満足したみたいですし」
「ぐっすりだったもんねぇ。……おかげでこうやってお話しする時間もできたけどぉ」
「ですね」
クラス中『何事だ』って大騒ぎだったからな。
俺や美咲が原因じゃないって分かって歩としてたように見えたのも、きっと気のせいじゃないと思う。
あの美咲も一瞬驚いてたくらいだから、クラスメイトがそうなるのも無理はない。
送迎がなかったら一緒に買いに行く、なんてこともできたかもしれないのに。……いや、そっちの方が危険か。
(……それにしても……)
どうすればいいんだろう、これ。どうしてやろうか、これ
「……やっぱり、その前に少しだけやりません? 片付け」
「だ、大丈夫だよぉ。明日ちゃんとやっておくからぁ」
「俺の幼馴染が言ってたんですけど、そういう人って明日になっても結局後回しにするみたいですよ?」
「そ、そんなことないよぉ?」
「でも今思いっきり目を逸らしてたじゃないですか」
大体片付けるつもりがちょっとでもあるならこうはならないだろうし。
少し近くを探るだけで本の山。丁寧に積んであるわけじゃなくて、文字通り山。
でも多分、散らばってるのはそれだけじゃない。具体的には衣類とか。
ああもう、紙までぐしゃぐしゃになってるよ。こうなる前に誰かなんとかしろよ。ここも拠点の一部でしょうが。
「まあ、この部屋の惨状はおいておくにしても……なんですか? 話って。あの化け物のことなら今も調査中って言ってませんでした?」
「そっちじゃないよぉ。もしかしてもう忘れちゃったぁ?」
そっち? でも昨日はあの化け物が最優先事項みたいなこと言って……
でも、言われてみればその前にちょっと話してたような……そこに橘さんが怪物のことを知らせて――……
「……あっ、昨日の写真?」
「そうそう、そっち。昨日は邪魔されちゃって何も話せなかったけどー……やっぱり話しておきたかったから」
そうだよ。それだよ。その話だよ。
拾ったあれの裏に貼り付けてあった写真だよ。何年か前の篝さんと、しっかりした雰囲気の……友達? みたいな人。
「……ところでその反応、忘れてたわけじゃないよねぇ?」
「ぅえっ!? いやーははは、まさかそんな…………ごめんなさいちょっと頭の隅にいっちゃってました」
「最初から素直にそう言えばいいんだよぉ」
だからって撫でないでください。
悪かったですから。忘れる寸前だった俺が悪かったんで勘弁してください。
昨日は話を聞く前に化け物が出た上、合体までしやがるし。
朝は朝で何故かイリアがマジギレしてるし。何この密度。じゃなくて。
(結局あの写真の人って、一体――)
「それでねぇ? 昨日のあの子、実は私の妹なんだよぉ」
「………………はい?」
なんて? いもうと? 井毛戸さん? どちら様?
しかも私のって……え? いや……え、妹さん!?
「あー、今『意外』って思ったでしょぉ? あんなにお姉さんだって言ってきたのにぃ」
「いや、いつも聞いてたからそれは覚えてますけど……えぇ?」
マジか。マジだったんですか。
全然似てないから気付かなかった。
篝さんって天然パーマだし。昨日のあの人は髪にクセも何もなかったし。
篝さんはたれ目だけど、妹さん? はそこまででもなかったし。……父親似と母親似?
それに、何より。
「そんなに驚かないでよぉ。桐葉くんの気持ちも分かるけどー……」
「そりゃ驚きますよ。だって篝さん、今まで妹さんがいるなんて一度も言わなかったじゃないですか。……もしかして、魔法を使えるわけじゃない、とか?」
なんか前にそんな話を聞いた気がする。
両親が魔力を持っていても、子供が必ず魔力を持つわけじゃない、とか。
逆の事例もないことはない、とかなんとか。
それでも大抵祖父母とか、その上の代まで遡れば大体一人くらいは魔法の使い手だったりするって教えてもらった覚えがある。
うちの家族がどうだったとか、そんなことまでは調べられない。
直接聞いたって頭のお菓子なヤツ扱いされるだろうし、じいちゃんばあちゃんの上の世代は聞きようがない。
「うぅん、使えるよー。桐葉くんのふたつ上なんだけどぉ……同世代でもあんなに魔力持ってる子はそんなにいないんじゃないかなぁ?」
「強つよですか」
「強つよだねぇ」
ちょっとだけ羨ましい。
中二と高一で魔力の平均みたいなデータにどれだけ差があるのか知らないけど、今の俺とは比べ物にならないくらい色々なことができるのは間違いない。
「でも、そんなことってあるんですね。姉妹なら同じ拠点に配属すればいいのに」
「だよねぇ。酷いと思わない? 合いたくても全然会えないんだよ?」
「連絡とかは?」
「たまに取ってるよぉ。桐葉くんのこととか、衣璃亜ちゃんのこととかー」
「そこまで話す必要ないと思うんですけど。え、他に話題ありますよね?」
まあ、篝さんの妹なら大丈夫だろうけど……あ、そうか。そもそも山で見つけたって話をしなきゃいいのか。
それにしたってちょっと不思議なことも多いけど。何か記憶の手掛かりでも見つかればなあ……
「大事なことだよぉ。ついでにぃ、桐葉くん達の時みたいな『お姉さん』をあの子からお願いしてくれないかなぁ、って」
「うわ、タチ悪っ」
台無しだよ。一瞬感動しかけちゃったじゃん。
思いっきりダシに使ってるってことですよね、篝さん?
「それなら他にやりようあるじゃないですか。まさかそのためにあんな態度だったなんて言いませんよね?」
「それはないよぉ? 桐葉くん達が可愛いのも本当だもん。でもぉ……あの子が好きなものとか、あんまりわかんないんだよねぇ……」
「……と、いうと?」
どうしてさ。
いや、家族によっていろいろ事情があるのは分かるんだけど……全く分からないなんてこと、ある?
俺と美咲でもお互いの好きなものとか、大体なら分かるけど。
なんなら美咲は人の思考も何もかも全部読み取ってくるけど。
でもやっぱり、ある程度は分かるもの――
「だって、血がつながってるわけじゃないんだもん」
「…………なんて?」
「だから、血がつながってないんだってばぁ。お母さんの再婚相手の娘さんなんだよぉ」
……なんか、一気に話の雰囲気が。
「き、聞いちゃってよかったんですか? そんなプライベートな話……」
「私がいいって言ってるからいいんだよぉ。いつかは話そうと思ってたことだから」
「いつかは話そうって、別に話さなくたって問題はないんじゃ……」
「そうなんだけどねぇ? ちょっと、さっきの話に戻っていい?」
さっきの? 思わず感動しかけたあの話とか、妹さんと同じ拠点に配属されてない話とか、あってもそのくらい――
「……桐葉くん達のこと、代わりにしちゃってたと思うんだよぉ」
……ぽつり、ぽつりと話し始めた篝さんは、いつになく申し訳なさそうだった。
「桐葉くん達が来るちょっと前からそうだったんだけど……あんまり話せなくてぇ……」
「そこに小生意気なガキがやって来た、と。身元も分からない子と一緒に」
「あの時は本当に驚いたんだよぉ? こんなこと、今までなかったんだから」
そりゃそうだろう。あったらとんでもない。
そのくらいは自分でも分かってる。師匠にもカラダに教え込まれた。
「実はね、最初はそんなに乗り気じゃなかったんだよぉ。でも、色々不慣れな二人を見てて……チャンスって、思っちゃって……」
色々した。それが篝さんの言い分だった。
なかなか会えいない義妹にできない分も。そのつもりで。
「……ごめんね。こんな話。呆れちゃったよねぇ……」
「いえ、全く?」
「…………ふぇ?」
そんなことって言ったら悪いんだけど……え、そんなこと?
「篝さんがどういうつもりだったにしても、おかげで助かったことに変わりはないじゃないですか。俺にとっては実際、姉貴分みたいな人ですし」
「え、えぇえええ…………?」
なんか引いてる? そんなことないか。別に引かれるようなことなんて言ってないし。
「正直、弟分として扱われるのもそんなに嫌じゃないっていうか。恩返し……とは違いますけど、俺は全然気にしないですよ?」
「き、桐葉くんもしかしてそういう趣味……」
「ないです」
そこでそんなこと言う? 普通。そういうとこですよ?
「い、いいのぉ……? 本当に?」
「いいですよ。全然。なんなら呼んでいいですか。『篝姉さん』って」
「……もしかして、気を遣ってくれてるぅ?」
「いやいやまさか、そんなことは。そうでしょ、篝姉さん?」
「…………ふふっ」
……本音を言えば、ちょっと恥しい。でもこのくらいならなんとか。
それで篝さんが喜んでくれるなr
「でもぉ……姉さんって呼ぶなら名前の方がいいなー、なんてちゃってぇ?」
…………おい。
「そういうことなら片付けようよ、姉さん。ほらあそこも、ここも。日が暮れる前に片付けるよ、姉さん」
「…………ふぇ?」
「こっちは燃えるゴミ、それから――」
「や、やっぱり禁止ぃ!! なんでそんなに口うるさくなっちゃうのぉ!?」
怒ってますけど、今のは篝さんが悪いんですからね?




