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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Immature Sorcerer
76/596

008

 しかしながら、状況の変化もすぐには訪れなかった。


 鬱蒼とした森の中。固さのある土を踏みながら桐葉と篝は姿を消した怪物を追っていた。


 時に桐葉達をあざ笑うように、怪物は姿を現す。

 幸い、全て寸でのところで防げていたものの、篝と桐葉にとっていい状況とは呼べないものだった。


「諦めて早くちゃんと出てきてほしいんだけどなぁ……長引いたって向こうにいいことなんてないのにねぇ?」

「まあ嫌がらせが仕事みたいな連中ですし」

「それは指示役がいたらの話だよぉ」


 本当にそんなことやってるんですか。


 喉まで出かかった言葉を、しかし桐葉は口にすることはなかった。

 右手側、数えて四番目の木の近くから、何かが動いたような音が聞こえたからだ。


(幅的に隠れられないと思うけど、何をやってもおかしくない……マジで木の上とかにいそう)


 基本的に、犬を模した怪物が木の上に登ることはない。

 これまでの記録からそうした結論が導き出されたという話は桐葉も聞いていた。


 そういった状況が起こること自体稀であるものの、過去、木に登ったことで犬の怪物の脅威を逃れたという事例が存在していた。


 しかしそれを覆すような可能性を指摘したのは、桐葉にその話をした事のある篝だった。


 三本の尾を持つという特異性。

 篝が一瞬だけ視界に姿を捕らえた三匹目にも、同様の特徴があることが確認された。


 加えて、隠遁能力に優れている点を篝は挙げた。

 それらを踏まえ、何かしらの調整が施されている可能性を篝は桐葉に伝えたのだ。


 以前、鳥や猫を模した怪物を見た桐葉は犬型へのこだわりに疑問を抱いたものの、それ以上深くは考えなかった。


 既に『教団なら非効率なことでもやるだろう』という認識が、今の桐葉の中には芽生えていたのだ。


「それと、あんまり油断しないようにねぇ? どこで見てるか分からないから」

「うわ、やってそう…………この茂みとかっ!」


 かざした右手に《火炎》を、空いた左手で草木を払い除ける。


 しかし桐葉が目星を付けたその場所にも、怪物の影も形も見当たらない。

 既に、篝が方針を切り替え三〇分が過ぎようとしていた。


 しかしながら、怪物はある時の奇襲を境に姿を消した。


(さすがにそろそろ姿を見せてもいい頃の筈なんだけどぉ……)


 篝の経験上、これほど長く怪物たちが息を潜めるというのは珍しい事だった。


 普段であれば、もう五回は多く襲撃を受けてもおかしくない。

 そこまで多くの怪物に囲まれた経験こそ篝にもないものの、五分以上怪物が大人しくしていることが稀だったのだ。


「まさかどこかに逃げたとかじゃないですよね? 別の場所に向かったとか」

「それなら何か合図とかありそうだけどぉ……気付かなかったのかなー……」


 より注意深く探査魔法を放つ篝だったが、依然として怪物の存在は捉えられないままだった。

 桐葉が指摘した可能性に、篝も辿り着いていた。


「そういえば他のチームはどうなんですか? 確か探しに出かけたはずですよね?」

「んー……そっちも見つけたかどうかは半々みたい。でもやっぱり、三本尻尾はここ以外出てなさそうだよぉ?」

「どうせならもっと喜べるレアだったらよかったのに」

「そんなこと言ってる場合じゃないよぉr。……いつの間にか、じっと見られてるみたいだしぃ」


 しかしその可能性は否定された。

 木の上から篝と桐葉の様子を窺い続ける怪物の存在を篝が捉えたことによって否定された。


(……そんなところにいたんだぁ?)


 足を止めた篝は、自分達の敵へと一瞬だけ視線を向ける。


 すぐさま、篝の視線を追おうとした桐葉の手を引き太く育った木の幹へと身を隠した。


「それで……マジなんですか? 全然見当たらなかったんですけど」

「ほんとだよぉ。後ろの……あの石があるところ。枝が揺れてるのが見えるでしょぉ?」


 言われるまま、顔だけを覗かせた桐葉は石を目印にその木を探す。


 葉の隙間から怪しげな光を放つ赤い瞳を見つけるまでそう時間はかからなかった。


「うわ、いる……篝さんどうして気付けたんですか、あんなの」

「んー……私が桐葉くんよりずっとお姉さんだから?」

「そりゃまあ、篝さんの方がずっと経験豊富でしょうけど」

「おかげで恋愛の方がからきしなんだよねー……」

「あの、篝さん? それこそ今する話じゃないと思いますよ?」


 唐突な自虐に戸惑いながらも桐葉はもう一度木の幹へと完全に姿を隠した。

 これ以上見続けていれば、怪物の側にも気取られる。そう思ったからだ。


 何より、姿を晒さなければ同じように狙われる事もないと考えた。


 ほんの僅かでも動きがあれば察知できるよう耳を澄ませ、次なる戦いへ意識を整える。

 同軸姿を隠しているもう一匹の存在だけが、今の桐葉にとっては気がかりだった。


「(それにしても、わざわざ木に登って隠れたんですかね、あれ……?)」

「(私たちの居場所を確認するのに都合が良かったんだと思うよぉ? 近くの木にもう一匹も見つけたからぁ)」

「え? ……あっ、あれか……」


 しかしその不安も篝によってすぐさま解消された。

 今度は一瞬だけ顔を覗かせ、すぐに引っ込める。


 石の近くに息を潜めていた怪物の姿も、その斜め前の木に身を隠す怪物の瞳も、桐葉はしっかりと捉える事ができた。


「(でもどうします? ここから狙っても当たるかどうか……また封魔石ですか?)」

「(あそこまで投げるよりは魔法の方がいいよぉ。桐葉くん、遠隔発動はまだ厳しそう?)」

「(……あんな距離は試したことないんですけど)」

「(じゃあ大丈夫だねぇ)」

「(話聞いてました!?)」


 しかし篝はまるで動じていなかった。

 念押しするようにもう一度、桐葉へ魔法を放つように促す。


 篝がこれまで見せなかった一面に、桐葉は戸惑うばかりだった。


「(大丈夫だよぉ。外してもちゃんとフォローしてあげるからぁ。それともぉ……外すのが怖いとかぁ?)」

「(…………言ってくれるじゃないですか)」


 煽る篝の態度がわざとらしいと、薄々ながら桐葉も気付いていた。


 その上で、負けじと篝を見上げた。


 篝の隣に並び立ち、両手を重ねる。

 桐葉にとっては、それが最も魔法の火力を高めやすい姿勢だった。


「合わせてあげるから心配しないでねぇ? ――盛れ炎よ敵を焼け――」

「――燃えろ、燃えろ、燃えろ――」


 高まる魔力。


「「――《火炎》!!」」


 二人の魔法はたちまち怪物を包み込んだ。


 怪物の周りの葉っぱをも巻き込んで。


「……そういえば木の上だった!?」


 桐葉がその事実に気付いたのは、魔法を打ったその直後。


「大丈夫。ちゃんと消火してあげればいいんだよぉ」

「消火って、燃えまくってますけど……」

「まぁまぁ、見ててぇ? ――弱めのぉ……《流水》っ」


 しかし幸い、炎はすぐに消えた。

 他の木への被害を出すこと無く、怪物とほんの少しの葉っぱだけを焼き切った。


 姿勢を支えられず投げ出され、地面を叩くことなく消えていた。


 それを確かめた篝の眉間からようやく皺も消える。


「――任務終了、かなぁ。桐葉くんもよく頑張ったねぇ? 疲れてると思うし、早く帰ろっかぁ」

「あ、は――――」


 その様子に桐葉が安堵しようとしたまさにその時。


「…………へ?」

「あれぇ?」


 怪物が消え去ったその場所で、なにかが小さく渦巻いた。


 幽霊のように揺れるそれを中心に渦を巻き、瞬く間に何かが集約していくのを二人は見た。


 正体は分からずとも、脅威だと悟った。


「ぇ…………」


 しかしそれでは遅すぎた。


「「えぇえええぇ――――っ!!?」」


 新たな魔法を作り上げる猶予も、調べる時間も与えるなく巨大な怪物へと姿を変えたのだ。


「ちょっ、ばっ……はぁ!? なんなんですかねあの化け物! いきなりミラクル合体したんですけど!?」

「分かんないよ。分かんないけどぉ……」


 叫び声を上げる獣は、木々すら踏み潰すほどの大きさ。


 たった二匹から生まれたとは思えないほどの大きさ。

 それを示すように、一〇の尻尾が闇夜に揺れる。


 先程の魔法ですら倒せないのではないか――直感的に、篝がそう思ってしまうほど。


「燃やせ――《火炎》!」


 その証拠に、桐葉の魔法を受け微動だにしなかった。


「…………さすがにちょっと、ヤバそうだねぇ?」

「ちょっとどころじゃないでしょう!?」

「い、一旦退こっかぁ!」

「賛成です!!」


 走り出す二人。

 町へ近付けまいと、応援を期待し踵を返す。


「――ンな必要ねぇっつの」


 しかし、怪物は消えた。


「ったく、二人もいて何やってんだよアホンダラ。あんな雑魚一匹パパっと仕留めりゃいいだろうが」

「…………師匠!?」


 空から隕石のように降り注いだ拳によって、跡形もなく消滅させられてしまったのだ。

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