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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Immature Sorcerer
73/596

005

「そういえば、初めてだったよねぇ? こんな風に二人で調査に向かうのって」

「ですね。俺はまあ……こういう時は大抵師匠と一緒でしたから」


 この前も、その前も。

 師匠に言われて、ついて行ったのがほとんど。後ろにいるからって言いたい放題だったけど。


 前に橘さんに送ってもらった時だって、こっちから向かったわけじゃない。

 帰ろうとしていたところを何故かいきなり襲撃されただけ。本当にたまったもんじゃない。


 でも今回はわけが違う。

 日も沈みかけたこの時間。道らしい道もない森の中で、篝さんと二人。


 他のメンバーが今どこにいるのかも分からないし、敵の数だってはっきりしてない。

 橘さんは警戒のためって言ってたけど、それで遭遇しないなんて思えなかった。


「……そのことなんだけど。桐葉くん、本当に辛くなぁい?」

「あはは、何言ってるんですか篝さん。毎日『ふざけんなこの野郎』って思ってるに決まってるじゃないですか」


 今はもうなんとかなってきたけど。

 こうやって笑いながら返せるくらいには。至って自然な表情で。


 師匠がやってることはいずれ役に立つ。それはなんとなく分かる。

 今まで実際に助かってきたのもあるから余計に。


「でもそれと同じくらい……じゃなくて、それ以上に感謝もしてるんです。なんだかんだ言って、いつも助けてもらってるのも本当のことですから」


 我ながらなんて模範的。

 こんな師匠重いので死なんてそうそういない。師匠にも聞かせてやりたいくらいだよ、まったく。


 もう一回言って見ようか。それで篝さんに録音してもらおうか。

 それを着信音にしてやって、ひたすら聞かせるとか。目覚まし……なんて、使う柄じゃないか。


「そうそう、聞いてくださいよ。俺、この前やっと一語発動できるようになったんです。まだ飛びながら撃つなんてことはできませんけど」

「それも十分だよぉ。《凍結》とかぁ?」

「それです、それ。あと雷と、水と、風と――……」


 それも大体、敵を行動不能にさせるタイプの魔法。どちらかと言えば攻撃力低めの。


 そっちの方が今の俺に必要だっていうのは分かってる。

 むしろ先に教えてほしいくらい。


 攻撃系の魔法を今無理に覚えたって、正直どうなるか分かったものじゃない。

 炎系の扱いだけでも四苦八苦させられてるっていうのに。


「……短い間に色々覚えたんだねぇ?」

「篝さんも色々教えてくれたじゃないですか。そのおかげですよ。……なんて、師匠にはもうちょっと早く撃てって言われてるんですけどね」

「前に見てた感じ、十分だと思うよぉ?」


 それに今のままだとまだ一発だけ。まだ同時に何発もは撃てない。

 だからまだ、課題は山積み。一つ一つどうにかしていくしかなくてもモヤモヤする。


 今まで化け犬が同時に何匹も出て来ることだってあったし。

 せめて両手から一斉に撃てるくらいじゃないと。多分、それでもまだ足りない。


「今のままじゃいろいろ足りてないのは自分が一番よく分かってますから。その分しっかり働きますよ。頑張りましょうね、篝さん」


 走るとか、とりあえずその辺りのゴミを退けるとか。


 時期が時期だから落ち葉も少なくない。

 一歩踏み出すだけで何枚も踏んでしまう。


 とにかく気を付けないと。色々な意味で。


(……師匠にも橘さんにも散々釘刺されたからなぁ……)


 無暗やたらに突っ込むな、もう少し周りの状況を見ろ、って。


 そういう意味なら住宅街の化け犬退治は色々ありがたかった。

 今までのあれやこれやに比べたらずっと落ち着けてたから。誰かさんのおかげで。


 それに、篝さんの強さとかはまだ分からないけど、こっちは二人。

 化け犬数匹くらいならなんとかできると思ってた。


「…………」

「篝さん? どうかしました? もしもーし?」


 でも、篝さんはすぐには答えてくれなかった。

 何か真剣な表情で考え込んでる。


(……そんなにマズいこと言った? 俺)


 割と真っ当だったと思うんだけど。珍しく。

 そんな心配されるようなこともない。多分。


「あ、うぅん、大したことじゃないんだよぉ? 少し心境の変化があったのかなーって、思っちゃってねぇ?」

「……そりゃまあ、少しは」


 あった。もちろんあった。あったに決まってる。


 きっかけは幾つもある。きっと俺が気付いてないものも、きっと。


 でもやっぱり、一番はあの時。

 美咲と、イリアと、三人で出かけたあの日。


 俺があがいたって変わらないんだろうけど、それはどうしようもないんだろうけど、だからっていつまでも甘えてなんかいられない。


 橘さん達が俺達に向かえって言ったのはちょっと意外だった。

 けど……俺にできることがあるならそれだけはしっかりやらないと――……うん?


「篝さん? 今なにか言いました? 変な音がしたんですけど」

「桐葉くんじゃなかったのぉ? 私はてっきり……」

「いやいや、俺じゃないですよ。俺はあれです。ちょっとこの前の出来事を思い出してただけで」

「あ、やっぱりぃ? 考えごとしてると思ってたら本当にそうだったんだねぇ」


 ……俺でもない。篝さんでもない。ってことは……


「……あの、篝さん」

「大丈夫、分かってるよぉ」


 その時、遠くの茂みが揺れた。

 風なんかじゃない。段々段々こっちに近付いてくる。


(ああもう、やっぱり……!)


 やっぱりこうなったよ。

 そんなことだろうと思ってたよ。橘さんだって薄々察してたんだろうよ。


 わざわざ念押しするような感じだったし。

 それなら最初から『出る』って言っておいてほしかった。


「……始めるよ?」

「いつでもいけます」


 化け犬と確実に遭遇する、って言っておいてほしかった。






「――うおっ!?」


 先に仕掛けたのは怪物だった。


 茂みの中から飛び出し、腰を低く身構えた桐葉達へと襲い掛かった。

 その勢いを利用して、また茂みの向こうへと消え去る。


 襲撃を躱すべく屈んだ桐葉たちが立ち上がる頃にはまた茂みの中へと姿を隠した後。


「…………っ」


 桐葉と篝は背中を合わせ、注意深く周囲を探る。


 森の中は静寂に包まれていた。

 吹き付ける風もなく、眠ったように静まり返っていた。


「――っ!」


 だからこそ、些細な物音でも桐葉ははっきり聞き取ることができた。


(そこか……!)


 気付いた瞬間。


「《凍結》!」


 桐葉から見て、右斜め前。

 すかさず腕を振るい、桐葉はたちまち視線の先を凍らせた。


 怪物が隠れている――桐葉がそう感じたその場所を、瞬く間に凍らせた。


 しかし。


(外した……!)


 そこに怪物の姿はなかった。

 慎重に近寄った桐葉だったが、凍っていたのは緑だけだった。


(当たったと思ったのに、いつの間に……!)


 桐葉が何度見直しても、そこに黒い身体の怪物はいない。

 それどころか、桐葉は更にと奥の茂みから響く音を聞いた。


 そして、たちまち音が途絶える。


「ッ……!」


 そのまま飛び込もうとして、これまで受けた忠告が桐葉を思い留まらせた。


 右へ、左へ、慎重に視線を向けながら少しずつ凍った茂みから遠ざかる。

 篝の元へ戻るように遠ざかる。


 しかし決して、桐葉は茂みに背を向けようとしなかった。


「よく踏みとどまれましたぁ。偉い偉い」


 そんな桐葉の動きを読んでいたかのように、篝は彼を受け止めた。

 両肩をぽんと叩いて、桐葉に向かってそっと微笑んだ。


「……すみません、篝さん。間に合わなかったみたいです」

「慌てちゃ駄目だよぉ。大丈夫、大丈夫。焦らなくていいからねぇ? ……どうせまたすぐにでてくるから」


 しかし、たちまち穏やかなその目が細められる。


 森の奥へ逃げ込んだ怪物を逃す事など許すまいと、闘志の宿った瞳を森の奥へと向けていた。

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