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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Immature Sorcerer
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004

「め、珍しいねぇ? 桐葉くんがこっちにくるなんて。お姉さんに用事?」

「そうですね。部屋に入る前から聞きたいことがあったんですけど、たった今一つ増えましたね。用件が」


 これはひどい。

 いつも面倒を見てもらってるからあまり強くは言えないけど、さすがにこれはひどい。


 何この部屋。なんなのこの部屋。美咲が見たら大絶叫モノだよ。


 足元には本、紙、空箱、その他諸々。

 今立っているのが床なのかさえ分からない。変なにおいがしないのは……多分、生ものがないから。


 よかった。本当に。食堂から離れてて。

 さすがにそんなものがあったら俺もこんな反応じゃすまなかったかも。


「篝さん……なんなんです? この惨状としか言えない有様は……」


 でもやっぱりひどい。どうしようもないレベルでひどい。

 こんなゴミ屋敷他に見たことない。


 少し指先でつつくだけでも崩れそう。

 こんなガラクタの山が幾つも会ったらそりゃ埋まる。ちょっとの衝撃で簡単に埋まる。


 驚いたよ。さすがに俺も驚いたよ。

 よく知った相手が本の山に埋もれて今にも押し潰されそうになってるなんて。

 きっとこの先二度と見ない光景だよ。見たくもないよ。


 よかったんだか悪かったんだか。

 せめて電話がつながればこんなことにはならなかったのに。


「だ、駄目だよぉ、桐葉くん。そんなこと言ったら。そんなこと言われると傷ついちゃうぞー?」

「と、言われても……」

「そんな風に目をそらさないで?」


 今まさにゴミの山にボロボロにされかけてた人に追い討ちなんてかけたくない。

 音からしてヤバそうだったし。なんならどこかで打ってそうだし。


 なんとか篝さんの上からは避けたけど、他のものだっていつ崩れてもおかしくない。


「ち、違うんだよぉ? たまたま、偶然、色々な原因が重なっちゃっただけでぇ、普段はちゃんと綺麗にしてるんだよ?」

「なるほど、偶然」

「そ、そうそう。偶然だよぉ」

「……それにしてはそこの雑誌とか、随分前のものみたいですけど」

「そ、そこに乗ってる話で気になる話が合ったんだよー」


 うわ、よく見たらジュースの空き缶とか混じってる。

 それにお菓子の空箱も。……中身残ってないよな?


 軽く臭いを嗅いでみても、やっぱり腐った感じはない。筈。

 だからそこだけは心配ない。おそらく。


「まあそうですよね。俺がいきなり訪ねたせいで驚かせちゃったみたいですもんね」

「そ、そうだよぉ。用事があるならあるって言ってくれればいいのにぃ」

「電話ならしましたけどね? なのに篝さん全然出てくれなかったじゃないですか。心配したんですよ?」

「……そうだっけぇ?」

「はい、これっぽっちも」


 この様子じゃケータイのありかも何もかも分かったものじゃないけど。


 大丈夫なんだろうか、ゴミの崩落に思いっきり巻き込まれたようなものだけど。

 壊れたりしてないよな? 頑丈になってるそうだから大丈夫だと思うけど。


「ちなみに篝さん、今ケータイは?」

「え、えっとぉ……」


 答えずに、篝さんは目をそらした。確定だ。


(さっき賭けてみたばかりだから、っと……)


 一瞬振り返るだけでも確認できる。……これでよし、っと。

 間違い電話を掛けたらヤバい。特に一部の面子。


 ――prr♪


 そして、やっぱり篝さんのケータイもゴミの山の中。

 埋もれながらも着メロを鳴らしてくれて、やっと見つかった。


 当の篝さんは完全に諦めモード。……そこまでするつもりじゃなかったのに。


「うぅ、折角築き上げたお姉さんとしての威厳がぁ……こんなことで見損なわれちゃうなんてぇ……」

「言ってません。別にそこまで言ってませんよ、俺。……さすがにこの部屋はちょっと驚きましたけど」

「うっ……」


 前にイリアがここで逃げた時とはわけが違った。

 そもそもあのダンボールは全部中身は空っぽだったし。それでも痛かったけど。


「ほ、ほらぁ、ここにお菓子もあるよぉ? お互いさっきのことは水に流そうよー」

「さすがにこんなとっ散らかった中でお茶する文化はないんですけど。……片付けません? 少しだけでも。二人掛かりならなんとかなりますよ」


 駄目だろこれ。

 言われるままに部屋に入っちゃったけど、駄目だろ。


 せめて外で話し合うならまだ分かる。

 なんて、放っておいたらそのまま外に雪崩出しそうな勢いだったけど。


 むしろ篝さんはどうして放置してるんだよ。


「たとえばここの本の山とか。小説に雑誌に事典……って、よりどりみどりですか。図書館でも開く気ですか。こんなことしてたら痛みますよ?」

「あっ、そこは――」


 本当にどうなってるんだよ、これ。

 それなりに力もいれてるのにピクリとも動かな――


「――へぶぅっ!?」


 何!? 何事!? メチャクチャ重いんですけど!?


 しかも痛い。何かで殴られたみたいに痛い。

 動こうと思って両腕に力を込めもビクともしない……って。


(これ全部さっきのガラクタか!)


 そりゃそうか。それしかないか。……力ずくでどかしてやろうか。


「下手に取ろうとすると崩れちゃ……ちょっと、間に合わなかったぁ?」

「余裕でタッチアウトですよ……げふぅ……」

「……ちょっとじっとしててねぇ?」

「はい?」


 今度は何を。

 気のせいか、少し背中の重さがなくなってるような……?


「ふん、ぬっ……!」


 でも、これなら何とか動けそう。


(手をついて、思いっきり押すように、して……!)


「――ぷはっ!?」


 出た。出られた。なんとか出られた。

 出来れば二度と起こりませんように。


「助けてくれてありがとうございます……」

「はぁい、どういたしましてぇ」


 大丈夫だよな。割れてないよな。……手で触った感じは大丈夫そうだけど。


 会って少し話をするだけだった筈なのに。

 なんでこんなトラップを仕掛けられなきゃいけないだろう。悪いことした?


「でも、桐葉くんも悪いんだよぉ? 人の話を最後まで聞かないからぁ。危ないって言おうとしたのにぃ」

「そうですけど、確かにおっしゃる通りではあるんですけど。その前にまずはその危険を取り除くところから始めません?」

「こんな風にまた崩れちゃうかもしれないのにぃ?」

「放置してたらもっと危ないと思いますけどね?」


 これは崩れる。絶対に崩れる。

 橘さん……じゃないにしても誰かを読んで本格的に片付けないと生活がままならない。

 誰だよこんな状態にしたの。じゃなくて。


「それよりお姉さんはポケットに入ってるものが見たいなぁ、なんて。……何か持ってるんだよねぇ?」

「……さすがに分かっちゃいますよね」


 さっき思いっきり確かめてるところを見られたし、あれでバレないわけがない。


 大人しく、ベンチの下から回収した小さなケースを渡した。


「これって……」

「休憩スペースに落ちてて。それと、ごめんなさい。貼ってある写真、勝手に見ちゃいました」

「……そっか」


 そこで区切ったまま、篝さんは怒ることもしなかった。

 そのまま、渡した手のひら大のケースをそっと撫でていた。


 何年か前――まだ篝さんが中学の制服を着ていたころの写真が貼ってある面を。

 隣に、妹さんの姿が移っている写真を。


「偉い偉い、よくちゃんと言えましたぁ。それと、ありがとね、見つけてくれて」

「……じゃあ、それって」

「多分、桐葉くんが想像してる通りだと思うよぉ? ……いい機会だから、特別に――」


 篝さんがそこまで言いかけた、まさにその時。電話が鳴った。

 壁に取り付けられた内線用の電話が騒がしいくらいに着信を知らせた。


『悪いが貴様らにも向かってもらう。いいな?』


 そしてそれは、予想通り、連中の出現を知らせるものだったんだ。

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